秋冬苦戦の反省は間違いだらけ(解説)


 森田洋一です。
 消費者が、物事の相違点に関心を持ちそれを評価する時期と、物事の共通点に関心をもちそれを評価する時期があり、それが交互にやってくる。
  違いに関心が集まる時期を「対立視」、同じ部分に関心が集まる時期を「同一視」と私は呼んでいる。
  
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  この対立視と同一視のサイクルにあわせてビジネスのやり方も代わる。業績の良い企業も入れかわる。
  多品種にした方が商売が楽になる時期と種類を絞り込んだ方が商売が楽になる時期がある。
  品番あたりのロット数を減らした方がいい時期と増やした方がいい時期があ
る。
  発注時期を実売着に近づけて短サイクルで回したほうがもうかる時期と、発注時期を早めて計画生産したほうがもうかる時期がある。
  商品の個性を重視して、よそに無いものを提供すべき時と、その時マスで売れているものを追いかけるべきときがある。
  企画を重視して提案力を磨いた方が業績がよくなるときと、他社の売れ筋を手っ取り早くコピーした方が業績がよくなるときがある。
 つまり、こういったビジネストレンドも流行なのであるが、かなり抽象的であるし、サイクルがゆっくりしているので、そのときどきのビジネスのやり方が流行でありサイクルがあると業界の人々は気付いていない。
  経済の専門家が経済現象の変化を説明するのに、「循環要因」と「構造要因」とに分ける場合がある。その分け方でいうと、こういったビジネスの変化を
「構造要因」で説明する人が大部分である。そう考えた方が、次の変化を意識しなくてすむので心が安定する。
  だが実際は循環要因なので、片方に振れた振り子は、振り切れるとすぐに反対方向へ動き始める。それに気がつかないでいると、やること成すこと裏へ裏へと行くことになる。自分は前へ進んでいるはずなのに結果はますます悪くなる。
  いつでもよくある話であるが、バブル崩壊直後はそれがとくにひどかった。
  
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  以下の文は、私が繊研新聞'92年1月27日号に寄稿したものである。前回の「対立視」のときにあたる。対立視が来ていますよ、行くべき方向を間違えないでくださいよという内容だ。
  だが、この記事を読んで反発した人
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ー2段目−
が大勢いた。自分の「進歩」を批判されたと思ったのだ。そしてさらに深みにはまった。
  現在('01年10月)は、対立視とは逆の同一視に向かうところである。現状認識を変えるのは辛いだろうが早く気付いて適切な手を打って欲しい。先手必勝である。

('01年10月9日)
秋冬苦戦の反省は間違いだらけ(本文)

  秋冬苦戦は3年前の89年から始まっています。苦戦は「暖冬」のせいにされました。この説明も3年も続くと苦しいものがあります。自分たちの提供している商品が消費者の気持ちとずれているのだという認識が最近出てきました。これは正しい。でも、対策が間違っています。
  今、店頭で何が起きているのか。今秋冬の反省からやり直しましょう。原因がわかれば対策もおのずから立ちます。

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  昨年(91年)の9月ごろの春物展示会で夏物の注文が激減しました。小売店は、「春物の売れ筋もよくわからない
のに、夏物までわかるわけがない」と考えました。一昨年の秋に発注した夏物が売れなかったという反省が、アパレルメーカーの数字となって出てきました。
  秋冬物はどうだったでしょうか。シーズン直前になっても数字が取れないのでアパレルメーカーはあわてました。それがシーズンインしてから、いきなり大量の注文が鉄砲水のように飛びこんできました。
  小売店は実際に商品が店頭で動くのを確かめてから発注しました。これも前年の反省から生まれた行動です。早めに手当てをした商品に限って店頭で動かなかったのです。
  小売店が早めに発注する商品は、少々乱暴ですが単純化していうと前年に売れたものと同じです。それが苦戦しているということは商品寿命が以前より短くなっていることを暗示しています。
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ー3段目−
  このごろの傾向として、シーズン初期の売れ筋の値崩れが以前より早くなっています。タテマエは別として、バーゲン入りする時期が実質的に早くなってきました。商品の息切れが早まっています。
  横山町や船場の現金問屋街では、海外物を中心にしている問屋にひところの元気がありません。
  海外物は、納期の関係で商品の新鮮さというてんでは国内物と比べると見劣りがしましたが、何といっても値段の安さが魅力でした。それが苦戦しているのだから、鮮度が値段より優先するようになったと考えるべきです。
  このことは通信販売やロードサイド大型専門店でもいえます。商品の鮮度より値段を優先させている業態が軒並み苦戦をしています。つまり、以前だったらまだ売れるタイミングで、もう売れないになっているわけです。商品寿命が短くなっているのです。市場が短サイクル化しているのです。
  このごろ、地域や店によって小売店の言う売れ筋がばらばらになりましたが、これも商品寿命の短さが原因です。
  以前は早い小売店で売れなくなる前に遅い小売店が売れ筋に気がつきました。それで早い店と遅い店の共通の売れ筋がありました。今は遅い店が気がつく前に早い店では止まってしまいます。それで共通の売れ筋がなくなったのです。
  今(91年)秋冬では、価格マーチャンダイジング(MD)の前評判が大きかったのですが、結果をみると成功例と失敗例の両方が出てきました。失敗したのは値段の安さだけで売ろうとした方です。昨年、一昨年と変わらないデザインの、どこの店にもありそうな個性のない商品は安くても売れませんでした。
  成功した方には、メーカーごとの、ブランドごとの個性が感じられました。昨年とは違っている何かがありました。
  ベーシックな定番商品が苦戦をしています。その代わり、個性のある商品
はヒットしています。わずかの違いでも敏感に反応して選ぶ人が増えています。
  本紙(繊研新聞)の特集記事「インディーズ」にも出ていましたが、小ロット・個性重視、企画重視型のマンションメーカーが復活してきています。
  これはDCブランドでも同様です。今までの大ロット、没個性の時代にMD型に変質してしまってDCは名前だけというところは別ですが、昔のDCのにおいの残っているメーカーは業績が回復してきました。
  POS(販売時点情報管理)データなどを見ると、売れ行きランキング上位の販売枚数が激減しているそうです。売れ筋がばらばらになり、ある特定の品番が大量に売れるということがなくなっています。売れ筋が小ロット化しています。
  どこの店も同じ、どのメーカーも同じ、どのブランドも同じ、いつ行っても同じデザインという今の状態に消費者はうんざりしています。消費者の気持ちから見
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ー4段目−
れば、少品種・大ロット・長期計画販売・コピー商法の時代はとっくに終わっています。多品種・小ロット・短サイクル・企画重視の時代がすでに来ています。
  先ほどの海外物現金問屋や通信販売、ロードサイド大型店でも、多品種・小ロット・短サイクル・企画と個性重視のところは例外的に繁盛しています。
  ところが、現在の大多数のアパレルは消費者の気持ちを逆なでする方向へ進んでいます。これが業界苦戦の本当の原因です。
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  「他社のあの売れている商品を、ロットを100倍にして、その代わり値段を半分にしてくれ」という要求に「ハイ」と言えないのがマンションメーカーの弱点でした。それで、そういうものが売れる時代になると没落しました。
  逆にこれまで景気が良かったアパレルはそれができるところでした。「企画
力には自信がないがコピーと量産は得意中の得意」といったアパレルが躍進しました。
  売れ筋は長期にわたって変わりませんでした。たとえ遅すぎた商品でも見切れば完売でした。「短サイクル」の意味が、商品の短サイクルから追加の短サイクルへ変わりました。消費者は同じ物を大量に見せられても顔をそむけませんでした。1品番で何十万着も売れるような商品も出ました。
  デザインのわずかな違いは評価されなくなりました。品番の整理統合が起こりました。「死に筋」を廃止することでかえって利益が出ました。型数の集約、販売先の集約が起こりました。
  前の年に売れた商品は翌年も売れました。売れ筋とはいかないまでも何とかさばける程度の商品なら、前もって予測も計画も立ちました。海外物がもうかるようになりました。海外からの輸入が急増し、海外生産のための資本進出、技術供与のブームが起こりました。
  素材や縫製工場を早めに押さえてもシクジリがあまりなくなりました。生産を押さえた者が勝利者になりました。小売店もアパレルも服地卸も早い者勝ちになりました。
  企画が早期化し、見込み生産の比率も増えました。展示会の時期も早くなりました。展示会則商談になりました。発注も早くなりました。
  川下より川上の発言力が強くなりました。「流通経費」だの「販売管理費」だのといったあいまいな言葉が通用するようになりました。
  「リスクなきところに利益なし」という言葉がはやりました。自分で企画した商品を自分の責任で用意するという意味ではありません。みんなが言っている商品を、みんな以上に在庫することでした。中間在庫の積み増しと、そのための倉庫の建設ブームが起こりました。
  流通機構の改革が叫ばれました。生産の垂直統合が起こり、素材メーカー・服地卸・アパレルメーカー・小売店
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ー5段目−
が一本の太いパイプで結ばれました。個々の企業間の契約が長期化しました。
  消費者は「他人と同じ物を着たい」と思うようになりました。いろいろ提案してみても売れるのはいつものアレになりました。それで定番の比率が増えました。個性の強い商品ほど売れなくなりました。企画部門の縮小廃止ブーム、デザイナーの契約解消ブームが起こりました。
  バイヤーは商品のデザインを見なくなりました。値段と数だけを管理しようとしました。企画マンがいなくなり、営業マンだらけになりました。商品の同質・画一化が起こりました。どこのメーカーもどこの店も商品が同じになりました。
ーーーといったことが起こったわけですが、これは何も今回が初めてではありません。昔のワンポイントブームのころを思い出してください。あのころ自分の会社がどんなことをやっていたかを、その後どうなったかを。
  今回の結末も前回とほぼ同じです。どこも同じ商品をやっているのですから値段で勝負になり、どんどんタダに近づいていきます。もっとも安全に思えた商品ほど売れません。個性のない商品はそれだけで消費者に嫌われます。売れているからと言って追加をかけると、その追加が残ります。売れない商品は値段を下げても動きません。ずうたいが大きくてクイックに動けないメーカーほど苦戦をします。

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  さて、対策です。これまでのアパレルの行動に対して消費者が拒否権を発動させたのですから、今までの逆が正しい答えになります。

、品番を増やし、ロット数を減らすこと。今までだったら1品番にするところを数品番に分けること。全く違う商品にする必要はない。わずかの違いでよい。
  追加生産はやらない。追加したくなったらデザインを変えてだす。商品力と商品量は逆比例する。

、仕入先と売り先を増やすこと。小さいところを大事にすること。流通経路が単純すぎるとロット数の分散が難しくなる。小売店1店舗あたり5枚にまで減らすことができれば、たいていの商品は何とかなる。

、小売店のオリジナルは苦戦する。作っている方は小ロットのつもりでも、消費者からみれば極端な大ロットだ。
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ー6段目−

、企画を重視すること。若手のデザイナーに活躍の場を与える。よそのコピーはやらない。昨年なかった商品、他社にない商品を供給する。既成のイメージを打ち破った挑戦的な企画が売り上げにつながる。

、仕入先の持ってくる「お値打ち品」は安くても仕入れないこと。

、展示会は時期を遅らせること。回数を増やす。シーズンに引きつけて商談をする。

、バーゲンを遅らせること、プロパーで売れないものは見切っても動かない。

、シーズンが終わるまでは、売った物でも売れたと思わないこと。
  小売店は商品が売れないと、値段を下げるか返品をするかである。値下げしても売れない時代は当然、返品が増え
る。何も対策を立てなかった場合は、売ったつもりが全部返品になる事態もありうる。

、通年商品や定番を減らすこと、同じ物を何回も見せることが、客をうんざりさせる原因になる。

10、海外生産は縮小の方向で考える。ぐずぐずしているとソフトランディングできなくなる。
  もっとも、国内物以上に新しい商品にすれば何も問題はないが、これが難しい。

11、権限を本部から現場に移す。業務の集約は不利になる。

12、在庫は圧縮させる。早めに商品を変えても、出口が滞っていては何もならない。売れ筋が散らばっているので、少なくても足りる。

(繊研新聞92年1月27日付より)
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ー7段目−
'01年10月10日追記

  「リストラ」という言葉がある。この言葉は、バブル崩壊以前と崩壊以後で意味が違っている。
  バブル崩壊以前のリストラは、新たな成長分野への事業の多角化を意味していた。つまり、本業以外のことに手を出すことだった。これが、バブル崩壊以降は、社員の首を切るという意味に変わっている。
  バブルが崩壊すると言葉の意味が変わる。どのバブルでもこれは起こっている。
  バブル崩壊以降は、それまでとは自分の行動を180度方向転換する必要がある。それまでやっていたことを否定しなければならなくなる。
  しかし、自分の過去を否定するのは
つらい。今までの自分は正当化したい。「新しい歴史教科書を作る会」がやっているようなことを自分史でもやりたい。だが、これからの自分の行動では、今までの自分を否定しなければならない。
  それで、今まで使っていた言葉を残して意味をすりかえるということをやる。単語は連続して使っているが、意味内容は不連続である。
  衣料品業界は、ミニバブルの崩壊がしょっちゅう起こっている。それでことばの意味のすり替えもひんぱんに起こる。
  80年代の同一視のときは、「『短サイクル』の意味が、商品の短サイクルから追加の短サイクルへ変わ」った。同じように、90年代の同一視では,QR(クイックレスポンス)の意味が、商品のQR、リードタイムのQRから、同じ物の追加の  
QR、コピーのQRに変わっている。
  最近の例でいうと、SPA(製造型小売業)やセレクトショップということばの意味が数年ごとに変わっているのがそうだ。そのことばが示しているタイプの店が苦戦をはじめるごとに、その時点で元気のいいタイプの店を表す意味に変わっていく。
  だからこの「秋冬苦戦の反省は間違いだらけ」を読むときも、使っている個々の単語にはこだわりすぎない方がよいだろう。何を言わんとしているのかを全体で理解して欲しい。



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更新'01年10月29日
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