低価格指向は続かない。
 
  99年はユニクロショックが衣料品業界を震撼させた。
  1900円フリースが前年に続いて爆発的に売れ、最終400万枚までいった。店の売上げも、他の小売店が既存店前年割れ、良くても数パーセント増にとどまっているときに、前年同月比数十パーセント増が続いた。 一般誌も話題にするほどの勢いである。
  勢いがあるのはユニクロだけではない。価格を抑えたデイリー婦人服のしまむらの業績も良かった。
 この価格競争力抜群のユニクロ・しまむらの新価格が、衣料品のスタンダード価格になるのではないかと、衣料品業界、なかでも量販系のお店をおびえさせている。
  だが、消費者が価格に敏感になった時期は以前にも繰りかえし来ている。こういう価格に敏感な時期を、前回は「価

格破壊」と呼び、前々回は「高感度低価格」と言った。言葉は違っていても中身はあまり今と変わらない。
 
       
  これは、本誌98年3月号の「新型のディスカウントストアが活躍する」や、98年11月号の「チープシックブランドのブームが来る」でも書
いたことだが、人々が長期的に物を見て計画性が強くなるため価格に敏感になる期間が4年、短期指向でセツナ的になるため価格にに対して関心が薄れる期間が4年の約8年サイクルで消費者の価格感度は増減している。この循環を私は『アリ⇔キリギリス』と呼んでいる。
  価格感度が高くなる『アリ』の流行は、「節約生活のススメ」(宮崎えり子著)がベストセラーになった98年の末ごろが今回のピークである。
  そして、サイクルから見ると今年の消費者は、価格感度が高いアリのピークから、価格感度が 低くなる『キリギリス』のピークへ向かう途中にいる。これからの『低価格志向』はだんだん実績の伴わない仮需バブルになっていく。

        

 この仮需バブルは、前回の低価格志向のときも発生している。マスコミが「価格破壊」と騒ぎ、流行語にまでなったのが93年から94年にかけてであるが、本当の『価格破壊』はそれよりずっと前に起こっていた。 スタートは89年前後である。高いものから売れていく高額消費ブームが続いていたが、その流れが変わってきたのがこのころだ。
 象徴的なのが、ヤングの特選インポート離れで、より高価格なものから伸びが落ちてきた。そのインポート離れをくいと
―1――――――――――――――――――――――――――――――ファッション予測と流行予測、次へ



−2段目−
めようと、「円高差益還元」と称して各社いっせいに値下げに踏みきったのが89年である。 
 だが効果は一時的で、人気は国産ブランドへ、さらに下の価格帯へと移っていった。90年には伊勢丹の3万9千円ウールコートのヒットがあり、それが翌年の三九コートのブームを起こした。
 その低価格志向の流れが変わ
 ったのが93年ごろで、消費者の価格感度が当時ガクンと落ちた。
 だがそのことに気づく人は少なかった。安くしないと売れないという強迫観念から、フォルクス・ケンタッキーフライドチキン・日本マクドナルド・横浜そごう玩具売り場・エムケイタクシーなど、さまざまな企業が93年から94年にかけて次々と値段を下げていった。その結果はほとんどの場合が、下げた分だけの売上げ減である。つまり、消費者は値下げにほとんど反応しなかったのだ。
  
         

 次回の『キリギリス』のピークは2002年から2003年にかけてである。その頃の消費者は、やはり値下げにほとんど反応しなくなっているだろう。ということは、値上げをするならこの時期がベストタイミングである。

(トレンドセッター2000年5月号より)



     
         
  しまむら、良品計画、マツモトキヨシなどの既存店売上高を対前年比で見ると、これらの店に以前ほどの元気がなくなっていることが現時点でも分かる。
  今秋冬のユニクロはフリースを1200万枚売るそうだが、店舗数も増えているので、一店舗あたりで見るとマスコミが騒ぐほどには伸びていない。
  一方で、1着10万円以上するスーツが売れている。
  低価格志向の衰えはすでに始まっている。

(2001年1月8日、追記)  


    

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-3段目−
(01年9月11日、追記)
  今日(01年9月11日)の繊研新聞に、ファーストリテイリング「ユニクロ」の既存店が前年割れを起こしたとの記事があった。8月既存店売上高が2年11ヶ月ぶりに、1.9%減になったとのことだ。
  [アリ⇔キリギリス]の流行のように、直接目に見えなくて、しかもゆっくりした流行は、それが流行であるとの認識がしづらい。ハヤリモノであると考えないから、振り子が逆に振れるときが来るという発想がなかなか持てない。
  ユニクロが良いときはそれがいつまでも続くと考えがちだし、いったん悪くなるとどんどん悪くなると考えがちだ。だが、ハヤリモノはスタリモノであるが、スタリモノは時間がたてばハヤリモノに返りざく。
  いったんかげりが出た小売店が、時間がたっても回復しない場合があるのは、反省のし過ぎが原因であることが多い。
  自店の特徴が時流から外れている場合、それを反省して微調整するのは当然やるべきことである。だが、もとに戻れなくなるほど変えてしまうのは反省のし過ぎである。それでは、向風が追風になったとき、その時流の風に乗れなくなってしまう。
  今は、消費者の価格感度がかなり落ちているが、しばらくすれば必ず上がってくる。これは、人間の本能の変化であるから必然である。
  これから、日本の景気がどうなるかは私にもわからない。たとえ予測をしても的中率は他の人と五十歩百歩だろう。だが、消費者の価格感度がこれから上がってくることは断言できる。
  ユニクロが反省のしすぎをしなければ、今までの成長軌道に再びのるのはそれほど先ではない。
  もっとも、今回のような大爆発を再び起こそうというのであれば、98年のフリー
スのような大当たりが必要だが。    





        
        













  (
2001年9月11日更新)
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