ファッション、接客、ビジネス……
2008年のトレンド大予言
世の中はこうなる!

 ファッション業界の人なら、 流行が繰り返していることを経験で知っています。でも、単純な繰り返しではないことも知っています。
 流行が不規則に見えるのは、ファッションや商品の分類の仕方が間違っているからではないか、そう考えて私は、変化に規則性が認められる分類方法をこれまで探してきました。そして見つけました。今回は、 その見つけた分類方法をいくつかあなたにお教えします。

モード工学代表 森田洋一
モード工学研究所所長

森田洋一(もりたよういち)
流行予測、市場予測コンサルタント。流行ビジネスが感覚的な手法に頼っていることに疑問を持ち研究を進め、独自の理論を確立。幅広い業種に研究成果を発表している。

  数年前までのヤングファッションは、よれよれの古着にボロボロ擦りきれジーンズ、足もとはビーチサンダルやハードなスポーツシューズなど「汚い」格好がトレンドでした。でもこのごろは同じカジュアルウエアでも、ブリッコワンピースやチェックのスカート、メルヘンフォークロアとずいぶんキレイメに変化しています。
  過去の記録を調べると、こういう汚いカジュアルからキレイなカジュアルへという変化は 昔もあって、12年に1度ずつ起きています。つまり、汚いカジュアルからキレイなカジュアルへ変った年の 12年後にも、同じように汚いカジュアルからキレイなカジュアルへ変っているのです。
  新しいところでは、ピュアヤングの市場でこうした変化がスタートしたのが2004年です。

ということは、 その12年後の2016年にやはり汚いカジュアルからキレイなカジュアルへトレンドが移るはずです。 2016年にヒットしているはずのアイテムやデザインが何かは具体的には言えなくても、汚いカジュアルがダウントレンドになり、入れ替わりにキレイなカジュアルが台頭してくることは、 その8年前の今の時点で断言できるわけです。
  私は、この12年サイクルの循環を〔カジュアル・エレガンス〕と呼んでいます。振り子のように、あるいはシーソーのように、 カジュアル優勢の時期と、エレガンス優勢の時期が代わりばんこに来ます。
  ただこの循環は、カジュアルからエレガンスへいきなり変るわけではなくて、どっち付かずの時期が間に挟まります。エレガンスからカジュアルに向かう場合も同様です。
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−トレンド予測 2段目−
  市場は、 「カジュアル」→「中間」→「エレガンス」→「中間」→「カジュアル」→「中間」→ ………と、4つのステップを順番にめぐって行きます。12年の周期を4ステップが分け合いますから、各ステップは3年ずつです。そしてその3年間は、カジュアル度エレガンス度の変化はありません。
  カジュアルとエレガンスの「中間」の時期には、カジュアルウエアのドレスアップと、 エレガンスウエアのドレスダウンが同時に起こります。先ほどの「キレイなカジュアル」は カジュアルウエアのドレスアップに相当します。
  またこの時期は、カジュアルウエアとエレガンスウエアのミスマッチも流行します。ドレススーツ用のベストやネクタイをカジュアルウエアに組み合わせたものは、男女ともに流行しましたね。
  〔カジュアル・エレガンス〕のように一定の周期で機械的に循環している流行は他にもたくさんあります。それらを組み合わせることで、より詳しく精密なトレンド予測ができます。今回は、そのうちのいくつかを使って2008年を予測してみましょう。
1 ファッションの流れ
なります。
  エレガンスの時期の消費者は権威に弱く型にはめたがるので、 ブランド物を支持します。デザインは、 許容範囲が狭くなり、自由が無くなりますから、欧州に遅れを取るようになります。逆「ジャパンクール」が発生します。それで、海外物やそのコピーが氾濫します。
  女らしさを追求しますから、ボーイズファッションはさらに縮小します。TPO(時、場所、場合)にうるさくなり季節感にこだわりますので、 今までのような、夏にブーツ、冬にサンダルが売れるなどという「おきて破り」はなくなります。チープで汚いファッションを嫌い、成金趣味になります。それで、この時期をリードするブランドでは商品単価が上がります。
  ただ、こうしたお客様の変化は 全部の売り場で同時に経験するわけではありません。〔カジュアル・エレガンス〕も他の流行と同様に、 性別年齢によって時差があります。当然、女性より男性の方が、ヤングよりアダルトの方が遅くなります。
あなたの店のお客様が遅い方のタイプでしたら、こうしたことは今すぐ起こるわけではありません
  〔カジュアル・エレガンス〕の循環が「中間」のタイミングに入ったのはピュアヤングで04年からです。その3年後は07年ですから、去年からは、その次の完璧エレガンスのステップに進んでいます。
  「エレガンス」のタイミングでは毎回エレガンスファッションが流行します。前回の「エレガンス」では、「神戸コンサバエレガンス」がヒットしました。前々回では、「お嬢様」が流行語になりDCブランドの重衣料がバカ売れしました。ピンキー&ダイアンやアルマーニのスーツがヒットしていたのがこの時期です。そのもう1周期前、つまり今から3周期前の「エレガンス」では、ファッション史に残る「ニュートラ」の大ブームがありました。
  こうした過去の「エレガンス」の共通点から、今回のエレガンスも予想できます。
  まず、「老け作り」が流行します。「カジュアル」の時期には「若作り」が流行していて、ミセスがOLの、OLがヤングのファションを真似しましたが、 こんどはティーンが学生の、学生がOLの、OLがミセスのにおいのするアイテムやデザインを支持するように    
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−流行記事 3段目−
ので、あわてずに準備だけしておいてください。
  〔カジュアル・エレガンス〕のように循環している流行を、私は「循環要因」と呼んでいます。 ここで〔超経験・常経験〕という別な循環要因について説明します。
  「超経験」というのは非日常生の流行です。この時期のファッションはド派手になります。去年、ティーン業界でゴシックパンクやデコラちゃんの復活がささやかれましたが、それはこの若い市場ではすでに「超経験」の流行が来ていたからです。
  今年は、これがもっと上の年齢でも流行します。もちろん、流行するといってもゴシックパンクやデコラちゃんを大人が着るわけではありません。でも同じように派手になります。柄物が良くなり、装飾過多になり、オーバーディティールになります。

 
 
図表@ 「カジュアル・エレガンス」の流行と性別、年齢別の時差
2 接客の流れ
形式張ることは、エレガンスのタイミングなら欠点ではありません。折り目正しい態度が好感を持たれます。
  ただしそれは、地味におとなしくすることではありません。「超経験(非日常性)」の流行も来ているのですから、パフォーマンスは大いに結構です。去年ブレイクしたルー大柴を見てください。きちんとしていて濃いキャラですよね。「エレガンス」と「超経験」は共存できます。
  「エレガンス」の時期のお客様は TPO(時、場所、場合)にうるさくなっています。そういった制約に縛られたがっています。 今年は「超経験(非日常生)」の流行も来ていますので歳時記マーケティングが有効です。 バレンタインデー、母の日、卒業、入学などのイベントを販促に積極的に取り入れましょう。 季節感をはっきり打ち出しましょう。売り場で取り組むだけでなく、あなた自身もどんどん話題にしてください。
  あなたは、お客様と話すとき、一つのストーリーを話し続けるのが得意ですか、それとも話題をパッパッパと切り替えていく方が良いですか。
  話が続かなくてつい黙りこくってしまうあなた、
  あなたの店のお客様が比較的若ければ、08年は「エレガンス」のタイミングですからキレイできちんとしていて正統的なファッションが支持されます。
  きちんとすべきなのは、狭い意味のファッションだけではありません。たとえば出版にもエレガンスがあります。書籍では07年には「女性の品格」や「日本人のしきたり」がベストセラーになりましたね。〔カジュアル・エレガンス〕は、広い範囲の文化現象に関係した流行なのです。
  ですからこの時期は店やスタッフも商品と同様にエレガンスでなければいけません。アイロンのかかった清潔感のある服装をしましょう。チープに見えない物を身に付けてください。 自分の服装が乱れていないか鏡でチェックしましょう。
これは店内も同じです。キレイでちゃんとしていることが重要です。
  言葉づかいにも気を付けてください。お客様になれなれしい態度を取ることはタブーです。高級ホテルのホテルマンのように、一歩下がってお客様を立てましょう。
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−流行記事 4段目−
悩まなくてもいいですよ。話が続かないのは、 今年に限っては欠点ではありません。別な話をすればいいのです。今はパッパッパと話題を変えていく方がお客様に支持されます。 この流行を「短文並列」と言います。
  ただ、もしあなたのお客様がヤングなら、08年の後半は、一つのストーリーをロングで話す方に変えてください。こちらの流行を「長文直列」と私は呼んでいます。
  ようするに、 〔短文並列・長文直列〕は循環している流行ですから、どちらが良いとか悪いとかいうことはなくて、その時々のお客様に受け入れられる方に変えていけばいいわけです。
 
 
図表A 主な循環要因 
3 ビジネスの流れ
  ただの実用品と見なされた傘は 雨の日にしか売れません。それと同じで、実用品としてしか評価されない「常経験」の時期のファッション商品は 天気の影響を強く受けます。ですから、売れない理由を気温のせいにする言い訳は、 2割ぐらいは正しいのです。
  08年は、「超経験(非日常性)」の流行が来ています。06年の後半から07年にかけて落ち込んだブランドは、デコボコはあってもそれなりに回復します。また、天気の影響を受けにくくなります。ファッションで買うわけですから、暑くても寒くても売れる物は売れるようになります。 変化することが評価されるので、売れ筋のデザインが去年とは大きく違ってきます。変えることで値段も通ります。
  「目に青葉 山ほととぎす 初がつお」という言葉があります。「超経験」の時期の消費者は、変化が好きですから初物を評価します。それで、季節商品が売れだす時期が早くなります。 なので、春物、夏物、秋物、冬物を早め早めに投入すべきです。もちろん、冬物バーゲンや夏物バーゲンをダラダラとやってはいけません。07年の反省をしすぎてこの逆をやりがちですから気をつけてください。
  07年は、百貨店向け大手アパレルメーカーが大苦戦しました。とくにキャリアとか大人服とかいわれているブランドがだめでした。
  落ちた原因として、 駅ビルやファッションビルとの競合や天候要因などが挙げられています。
  でもこれはおかしいのです。駅ビルやファッションビルとの競合はいまに始まったことではありません。ずっと前から指摘されてきたことです。でも落ち込みは07年にいきなり来ました。
  天候が原因なら、他のメーカーやブランドも同時に連動して落ちているはずです。暑さ寒さは全ブランドで共通ですからね。でも事実は違います。落ち込んだのは06年で、07年はむしろ回復過程だったというヤングブランドもありますし、まだ落ち込みを経験していない遅いブランドもあります。
  「常経験(日常性)」の時期の消費者は、昨日と同じであることを評価するので、 変化に反応しなくなります。 つまり、ファッション商品のファッションの部分にお金を払わなくなります。
  ファッショナブルな傘は晴れの日も売れますが、
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−流行記事 5段目−
  以上の例外は、シニアミセスやアダルトメンズの売り場です。他の売り場が07年に経験したことを08年に経験しますから、いままでの注意は全部逆になります。
  つぎに、私が〔対立視・同一視〕と呼んでいる循環要因について説明します。08年はほとんどの市場が「同一視」の方のタイミングです。
  同一視というのは共通点に関心を持ち評価する流行です。この時期の消費者は、他人と同じ物を欲しがります。それで同質化が欠点でなくなります。
  売れ筋上位品番の売り上げシェアが高くなります。じっさいに、上位数型で売り場のシェアの8割を占めるなどという極端な事例がすでに出ています。以前の神戸エレガンスブランドは、 型数を絞り込み、1型あたりのロットを増やすことでも成功しましたが、同じやり方が08年は使えます。
 
図表B 「対立視・同一視」の流行と性別年齢 
 注: このページの文章は、ファッション販売08年2月号(1月1日発売)に掲載されたものです。
 
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  ファッション予測コンサルタント森田洋一
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このページ作成 08年4月28日