冷蔵庫の大型化は、特定要因だけでは説明できない
  森田洋一です。特定要因(流行の原因なかで、循環していないもの)には、流行にただちに影響を与える「突発型」と、じわじわ影響を与える「ダラダラ型」があります。狂牛病発見が牛肉の売り上げに与える影響は突発型です。エアコン普及が夏物の袖の長さに与える影響はダラダラ型です。
  じつは、特定要因は、突発型よりダラダラ型の方が多いんです。ですから、特定要因で起こる流行もダラダラ型がほとんどです。
 
  ある長期的変化を考えた場合、その変化を起こしたダラダラ型特定要因を一つに絞りきれないことがあります。この点について「電気冷蔵庫の大型化」で見てみましょう。
 
あなたの家が電気冷蔵庫を使うようになったのはいつごろですか。かなり
前ですね。そのころの冷蔵庫の大きさを憶えていますか。その冷蔵庫に比べて、今使っているのはどうですか。かなり大きいんじゃないですか。ドアの数も増えましたよね。なぜ大きくなったのでしょう。
  冷蔵庫が普及することによって、冷凍食品や紙パック入り牛乳、減塩漬物、生菓子のように、冷蔵庫を使うことを前提とした食品が増えました。近所の店で毎日買っていたものが、比較的遠い大型店で何日分かまとめて買うようにもなりました。
  冷蔵庫に何を入れるかという常識も変わりましたね。うちのカミさんなんか、醤油、ふりかけ、鰹節から、薬、水枕まで冷蔵庫に入れてます。この分だと、缶詰を入れるようになるのも時間の問題かも知れません。
  省エネの技術が進んだというのもありますね。「大きいものに買いかえ

大きな流行は短期間では小さい流行

たからといって、前より電気をたくさん食うわけじゃないんだから、このさい大きいのを買っとこか」となっても自然です。
 
  こういうもろもろの大型化の理由は、長期の変化の説明としては私も正しいと思います。電気冷蔵庫が普及し始めてから45年ぐらいたちますから、「45年かかって起こった変化」の説明としてはいいんじゃないでしょうか。
  45年かかったということは、各年の変化は、平均するとその1/45ですからたいしたことはありません。これくらいの変化だけなら、家電メーカーも生産計画を立てるのに苦労しないはずです。
 
  ところが、その時々に人気となる冷蔵庫の大きさの変化をみると、そん
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2段目ー
なのんびりしたものではありません。もっと急激に変化しています。それも、同じ傾向がずっと続くわけではなく、わりと短期間で大きくなったり小さくなったりを繰り返しています。
  ただ、大型人気の流行の方が、小型人気の流行よりいつも強かったので、45年たってみたら、結果として何倍も大きくなっていたということです。
 
  電気冷蔵庫の大きさの流行を調べると、もう一つのことに気が付きます。大きくなったり小さくなったりのタイミングが他の家電製品と一致しているのです。値が通る時期や、供給不足になる時期がだいたい同じなんです。とくに同じ客層向けはピッタリ合います。
  もちろん、流行にフィットする大きさの物を、どのメーカーも、ほとんどあるいは全く提供していなければ、そのときだけはイレギュラーとなります。
 
  では、どんな家電にも通用する、「大
きさの変化」を説明する理由ってあるんでしょうか。冷蔵庫とパソコンで共通の理由があるとか、テレビと、デジカメと、洗濯機と、DVDプレーヤーと、食器洗い乾燥機と、ラジカセと、電気カーペットと、デジタル音楽プレーヤーで、同時に同じ方向に大きさが変わることを説明できる理由(特定要因)があると思いますか。
  しかもそれは、短めの賞味期限が付いた理由でなければなりません。だってしばらくすると、人気のサイズは逆方向へ変化しますから、大きくなったり、小さくなったりしたことを説明する特定要因は、すぐに流行が逆になってしまいますから、長持ちしてはいけません。
 
  メーカーも家電量販店も、そしてアンケートに記入している消費者も、家電の売れる大きさが急に変わると、それぞれの家電に対して人気のサイズがなぜ変わったのか、その理由をもっともらしく並べますが、どれも後講釈です。その理由
は他の家電では通用しませんし、後で起こる逆の変化も説明できません。
  全家電製品に同時に関係する賞味期限付きの理由はズバリ「魅力」です。ある家電で大き目が魅力的に見えるときは、他の家電でも大き目が魅力的に見えます。小さ目が魅力的に見えるときも同じです。
  男と女の恋愛感情を考えれば分かるように、魅力という購買理由は、多くの場合短命です。そして、なぜ惚れたのかと、合理的な理由を聞くのはヤボです。
 
  先ほど、大きさの短期の変動は、どの家電でも同時だと言いましたが、じつは、家電以外でも同じです。家電で大き目が魅力的に見えるときは、家電以外の商品も大き目が魅力的に見えます。ただ、魅力的だということと、統計に見られる「売れた数字」は必ずしもイコールになりませんので、この簡単な関係が見えづらくなっています。このことは、第2章で詳しく説明します。 
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−流行予測 3段目−
  いま、電気冷蔵庫の大きさの流行で説明しましたが、我々が「〜が流行している」と言うとき、その原因のほとんどは循環要因によるものです。短期の変化に関しては循環要因がその原因のほとんどを占めます。ダラダラ型の特定要因に見られるように、特定要因は短期の変化にはそれほど影響を与えません。牛肉の流行に対する狂牛病発見のような事例(突発型)はむしろ例外です。そういうときだって、特定要因の影響は半分です。
 
  でも、多くの人は短期の変化でも、見えやすく計測しやすい特定要因で流行を説明しようとします。見えているものと見えているものを、「だから」でつなげてやれば、もっともらしい後講釈が簡単に作れるからです。たとえば次のような具合です。
  「不景気なので→少しにしようとするから→小口買いが増えた」「不

見えているものだけで説明する
景気なので→割安な物を求めるから→大容量のまとめ買いが増えた」「不景気なので→節約しようとするから→ディスカウントストアが人気だ」「不景気なので→簡単に買えないから→良い物を長く使おうとしている」「不景気が続いたので→節約疲れから→高額品が売れている」「不景気だから→企業はリストラに熱心なので→人材派遣業が伸びている」「不景気だから→企業は出費を抑えようとするので→人材派遣業の伸びが止まった」。
  「猛暑なので→海やプールへ出かけようとするから→水着が売れている」「猛暑なので→エアコンのある部屋に閉じこもってしまったから→水着が売れない」「寒くなったから→ぬくぬくと暖かい→厚地のローゲージセーターが売れている」「寒くなったから→着膨れしないようにと→薄地のハイゲージセーターを買っている」。
  「ショートジャケットが流行しているので→バランスを取るために→ベルトの位置が高いパンツが売れている」「ハイウエストのパンツが流行しているので→バランスを取るために→ジャケットは短い方が人気だ」「ピチピチタイトなシルエットが流行しているので→動きを妨げないようにと→伸び縮みするストレッチ素材が人気だ」「ストレッチ素材が流行しているので→きつくても平気だから→小さいサイズが売れている」。…こうした後講釈で多くの人は満足しています。
 
  あなたが企画書にハンコを押す立場だったら、新聞や雑誌から切り取ってきたような理屈を自信たっぷりに書いてあるものにOKを出してはいけません。それは後講釈ですからもうすぐ終わります。
  また、同僚が大当たり企画を出したのなら、違う分野であって
 
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−流行予測4段目−
もすぐにコピーしましょう。うまく行けば担当分野で1番になれるかもしれません。
 
元は書籍用原稿、05年12月8日、当ページに転載
 
 
  このページの文章は、今度出版する「理詰めの流行」に載せるつもりだった話です。普通の大きさの本にするには文書量が多すぎたので、書いた原稿のうちかなりを削りました。その削った文書の一部をこのページに載せました。
   
  
  
 
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流行を無視して失敗した、コメ問屋の売り惜しみ(理詰めのトレンド予測 第1章3節)へ

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このページ作成 05年12月8日、10年11月26日デザイン修正

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