−トレンド予測 1段−                                                  理詰めの流行予測へもどる

業界の特殊性を強調しても流行はなくならない

誰でも同じ、どこでも同じだから流行なんです

流行が複雑に見える理由、ややこしく見える理由の4番目は、流行(を起こす)要因と、流行制約要因の混同です。
 
私は企業の方からよく言われます。「ウチ(の業界)は特殊だよ」。いつもこう答えます。「どこ(の業界)もそれぞれそれなりに特殊です。でも流行は一緒です」
 
我々が商品に対して持っている、こうであるべきだというこだわりは分野ごとに異なりますから、どこでも全く同じ流行現象が起こるというわけではありません。
   
例えば、私はスカートを買ったことがありません。なぜならば男だからです。あるスカートを見て、柄がいい、シルエットが新鮮だ、素材が新しいと思ったことはあります。でも男ですから買いません。
 
レディスでは、今シーズンはパンツが売れるのか、スカートが売れるのかと担当者が悩みます。でも、メンズの担当者は悩みません。どんなときでもパンツを売りつづけます。男にとってスカートは強いタブーですので、スカートの流行期でもスカートは、ビジネスの対象にできるほどの市場規模をもてません。でもそれは、男にはスカートがステキに見えないというわけではありません。恋人や女房がスカートをはいているほうがパンツより新鮮に見えるときというのはちゃんとあります。自分ははかないだけです。
 
今の女性はパンツもスカートもタブーではありませんが、昔はパンツがタブーでした。昔の女性は、テニスをするときもロングフレアスカートをはいていた
   
そうです。私が子供のころの女の子は体育の時にチョウチンブルマーをはいていました。大人だってそうです。女子バレーボールの選手がショートパンツをはくようになったのは東京オリンピックのころです。それ以前はブルマーでした。ブルマーをはいていたのは、女がパンツをはくことが強いタブーだった時代のなごりです。そのタブーがちょっとだけ緩んできた時代のなごりです。
 
おばあさんでは、パンツ派がスカート派を圧倒しています。それは、女らしさを出すことがおばあさんではタブーだからです。でも、その女っぽさのタブーはメンズほど強くありません。ですから、おばあさん向けボトムス担当者は、ヤングの担当の人ほどには悩みませんが、一応スカートのことを考えます。このような弱いタブーの場合、流行期には売れますが、タブーのない分野より採算の合う期間が短くなります。そして流行から外れた場合には全く売れなくなります。
 
 
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−トレンド予測 2段−
メンズではピンクが弱いタブーです。そのため、ピンクは採算が合っている期間が、レディスに比べると短くなります。つまり、売れ出すのが遅れます。止まるのが早くなります。また流行から外れたときは悲惨な結果になります。だからといってピンクは儲からないということではありません。タブーといっても、男にとってのスカートほど強いわけではありませんから、流行期にはピンクに挑戦する人が大勢出てきます。その人数はレディスほど多くはないかもしれませんが、供給も極端に少ないのですから商品がだぶつく心配はありません。もともと少ない色ですから、この色だけで差別化することができます。
 
弱いタブーのある流行の場合、市場がほとんどゼロの状態から拡大しますので。需給バランスのヒッパク度が極端になります。つまり儲かります。その代わり、流行から外れるとほとんどゼロまで市場が縮みますので、外すと損も大きいのです。
 
ヒザ下丈パンツの流行もこのタイプです。
   
ファッションが違って見える訳パンツのヒザ下丈は、スカートのヒザ下丈に比べると弱いタブーが働いています。パンツのスソはくるぶしやかかとのあたりまであるのが基本で、サブリナパンツやクロプトパンツは特殊な丈です。スカートはひざのそばぐらいの丈が当たり前で、流行から外れているときでもはいている人がゼロになりません。
 
ヤングではこのヒザのそば丈パンツの流行は市場占有率では '00年春夏がピークでした。この年の夏にはすでに供給がだぶついてきましたが、それ以前は極端な供給不足になりました。丈だけて売れてしまう感じでした。同じ時期に、スカートもひざのそば丈が売れていましたが、パンツほどには評判になりませんでした。当たり前の丈だからです。当たり前のものの流行は分かりにくいですし、差別化も相対的に難しくなります。その代わり、市場がゼロまで縮小しませんから、ダウントレンドになったときの在庫の
   
処分はとっても楽です。

流行しててもタブーは残る

弱いタブーが働いている場合、その商品が当たって
いるときは、タブーがないもの以上に儲かりますから、タブーを無視するくらいの方が結果がよいのですが、いくら売れているからといって、タブーが無くなったと錯覚して突っ走りすぎると、ダウントレンドになったときに痛い目にあいます。
 
それは、デザインの流行だけでなく抽象概念の流行でも同じです。弱いタブーが働いている分野ても、大当たりのときはそのタブーを無視したほうが成功します。マーケッティングの話で、ビジネスで成功する人は他業界に学ぶとよく言われますが、それは、当たっているときは業界の違いなんかに関係なく流行しているようにみえるからです。そのノウハウが当てはめにくい市場の方がむしろ当たっているようにみえるからです。
 
 
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−トレンド予測 3段−
ですから、成功した人の話だけを集めると、業界の違いなんて無視してよいという結論になりがちです。でも、他業界のノウハウを取り入れるのを怖がる人がいつでも間違っているというわけではありません。そのノウハウが流行から外れているときは、タブーがあることとのダブルでやられるわけですから、泣きっ面に蜂です。それを考えると恐れて当然なんです。取り入れて良いとか悪いとかは、そのタイミングしだいということです。
 
タブー感覚がはたらくことによって、流行の時期が違って見える場合があります。以前、スキーウエアでアースカラーが売れたことがあります。その時スキーウエア業界の人はこう聞きました。「アースカラーは街着ではもう終わりかもしれないが、スキーウエアではこれからも売れるのではないですか。そう思うのは、アースカラーが売れ出したのがスキーウエアのほうが他の物より遅かったからです。」
 
わたしはこう答えました。
   
「桜前線というのがあります。初め、沖縄九州から始まって、少しずつ北上していきます。最後に北海道まで行って終わりになります。あれを見ると春がくるのが、九州のほうが北海道より早くみえます。北海道の春は遅く来るようにみえます。紅葉前線は逆です。北海道から始まってじょじょに南下していきます。あれを見ると北海道は秋が早く来るようにみえます。九州は遅く来るようにみえます。
 
でも、北海道も九州も、一年は365日です。どちらも北半球ですから、夏の時期も冬の時期も同じです。九州の春が早く来るようにみえるのはもともと暑いからです。北海道の春が遅く感じるのは、北海道が寒いからです。秋が来る時期が違って見えるのも同じ理由です。
 
スキーウエアにとって、アースカラーは弱いタブーです。そのため流行のスタートが街着などに比べると遅くみえます。遅れて始まったようにみえます。タブーカラーですから、アパレルメーカーや小売店は
   
取り扱うのを恐がります。業界が寡占化していますので抜け駆けはありません。それでなおさら遅れます。でも、スキーウエアでアースカラーの流行が遅くスタートしたようにみえても、流行のピークは他の分野と同じです。終わりも遅くはなりません。タブー感覚がある分、採算が合わなくなる時期はむしろ早くなります。北海道の春が遅く来るようにみえるからといって秋が来るのが遅くなるわけではないのと同じです。」と説明しました。そして結果はそのとおりになりました。
 
いま、タブー感覚が強い場合と弱い場合の話をしました。その中間ぐらいならどうなるでしょうか。

20000年から2001年にかけて、ヤングでタイトパンツとミニスカートを一緒にはくのがハヤりました。でも、ミセスはやりませんでした。無理もありません。ヤングでもそういう着方をしたのは一部の人で、大多数の人はためらってしまったのですから。でも、ダンスウエアの分野ではミセスもパンツとスカートの組合せを買いました。これは特殊な服なんだ、非日常ウエアなのだ、
 
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−トレンド予測 4段−
惚れた女に欠点なし普段着る服とは違うのだという大義名分が、ミセスらしくなければならないという気持ちを押しのけたのです。また、段がついたティアードスカートを買ったミセスもいます。パンツ・オン・スカートは私の年では無理だが、スカート・オン・スカートなら大丈夫というわけです。
 
ワークユニホーム(作業着)業界を担当しているテキスタイル業者にこう聞かれたことがあります。「エンドユーザーは、ユニフォームを機能で選んでいます。だから一般向けの街着とは売れる素材がまるで違います。例えば新合繊が騒がれたことがありましたが、当時もあんなものはユニフォームには登場しませんでした。あんなフニャフニャ、ペロペロ生地はユニフォームに向かないから採用されなかったのでしょう。ユニフォームにはファッションは関係ないのではないですか。」
   
 
私はこう答えました。「ユニフォームにファッションがないのなら、同じカタログが何十年も使えるはずです。実際は新しい品番と消える品番が毎年出ますので作り変えざるをえません。ユニフォムを着る作業環境が毎年のように激変するわけがありませんから、これはファッション変化です。ユニフォームが機能だけで選ばれているように見えるのは、購買担当者が大義名分を求めるからです。『ボク、コレキニイッチャッタ。スキニナッチャッタ。ダカラコレニスル』なんて言えるわけがないですから、買う大義名分として機能の話をします。意識してウソを言っているわけではありません。欲しい商品は機能的に見えるのです。
 
機能美というコトバがあります。「機能的なものは美しい」とも言います。でもそれは私に言わせれば理屈がひっくり返っています。「美しいモノは機能的に見える」が本当です。美人ならどんな性格でも良い性格、ほれた男に欠点なしです。
 
   
それと、ビタミンブームがあるのでも分かるように、機能そのものにも流行があります。どんな機能をどのくらい強調したら良いのかは、その年、そのシーズンで変わります。機能性もファッションなのです。 
もちろんユニフォームの制約というのはあります。そこから外れたものが売りづらいのは事実です。新合繊が新鮮に見えているからといって、あのペラペラフニャフニャでワークユニフォームを作ったらお前買うかと聞かれたら、誰でも二の足を踏むでしょう。だからといって、新合繊の流行がユニフォームと関係がないことにはなりません。新合繊の風合いが新鮮に感じているときは、ユニフォームらしさの制約のなかでもっとも新合繊に近いものを客は求めます。
 
たとえば、(繊維が細くて長いので、性質が合繊に近い)超長綿の(柔らかさとテロテロ感を残したままワークユニフォームに必要な厚みを持たせるための)二重織りなら、新合繊ブームの時に売れますよね。実際に売れましたよね。あるいは、ウエアの裏に合繊をはれば、そうしない物よりは新合繊っぽくなりますよね。
 
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−トレンド予測 5段−
そしてこういう方法なら、ユニフォームの機能性の大義名分をクリアできますよね。」と説明しました。ある流行が、その分野で中途半端なタブーに触れた場合、その流行はそのままの形ではなく、そのタブーの強さに合わせて変装してあらわれます。タブーが比較的強ければ、厚化粧になりますし、弱ければ薄化粧になります。先ほど例にあげたメンズのピンクでも、分野やアイテムによっては、タブーがやや強くなります。ベージュに近いピンクや差し色ピンクを支持する人のほうが、レディスと同じピンクを支持する人よりも多い分野がたくさんあります。

「売れた事がない」はやったことがある

中くらいのタブーの商品では、そのタブーの強さや、その人のおかれている立場によっては、流行の存在そのものを否定することもできます。
 
   
「『そんなものはいまだかつて売れた事がない』と大先輩に言われたとのことですが、『いまだかつて』ということは、過去に何回も試みたことがあるということですよね。売れたことのないものをなぜ売ろうとしたのですか。よそで売れていたからでしょう。『売れたことがない』という理由でやらなかったので他社に遅れをとってしまった。後から追いかけたらすでに止まっていた。それで、『やっぱり売れないのだ』とまちがった反省をしたということでしょう。苦手意識とまちがった反省の悪循環を繰り返すと、あなたも、ド定番のルーチンワークしかできなくなりますよ。そうなれば、ダース ん百円の軍手軍足の世界へ直行です。」
 
スカートをはかない私も、剣道をやるときは、ハカマという名のキュロットスカートをはきます。夏になればユカタという名のワンピースを着るかもしれません。男にとって、スカートは昔からタブーだったわけではありません。女にとってパンツがタブーでなくなったように、男にとってスカートがタブーでない時代が来るでしょう。
   
でも、私が生きている間には来そうもありません。スキーウエアの鮮明色好みは昔からのものではありません。今の街着以上に地味な色を好んだ時代があります。
 
ある分野の、こうであるべきだというこだわりは永遠ではありません。長い目で見れば変化します。でも、一・二年後の予測では、変化しないと仮定しても実用上はかまいません。こういうこだわりは狭い意味では流行ではありません。分野ごとの独自のこだわりは流行を変装させますが、流行を起こすことはありません。そして、制約要因が流行にどう作用するかは、その分野のプロならばだいたい想像できるはすです。分からなかったら私のように過去の事例で調べましょう。それが面倒くさい方は、当研究所におたずねください。
 
           
 
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−トレンド予測 6段−
(^^♪ (^^♪ (^^♪  ちょっと脱線  (^^♪ (^^♪ (^^♪
 
森田洋一です。私が一番最初に調べた流行はスキーです。スキーのテクニックの変遷について研究しました。若いころの私はスキーに熱中していまして、年に30日以上も山に入っていたものですから、しぜんにそうなりました。
 
スキージャーナルだのスキー教程だのを見ていると、正しい滑り方がどんどん変わっていきます。私が一生懸命やっていた70年代は2年刻みで変わっていく感じでした。
 
まあ、あちらも商売なので、毎年同じことを言っているわけにいかないのは分かるのですが、同じ技術の強調するところが変わるのではなくて、技術体系そのものが変わってしまうのです。以前言ってたことと明らかに矛盾することを言い出します。「新しい基礎スキー」「新基礎スキー」「新発想の基礎スキー」「またまた変えたぞ基礎スキー」などという感じです。
   
 
いい加減にしろ。日本にスキーが入って以来、スキーがすべる原理も、スキーがターンする原理も変わっていない。技術だから当然進歩はあると思うけど、特定要因が原因なら変わるのが速すぎる。こんなにどんどん変わったのでは、すぐ種切れになるはずだ。種切れにならないのは同じことを繰り返しているからだろう。…そう考えて調べはじめました。
 
新しい流行要因とその周期を確定するという意味では、スキーの技術について、自信が持てるところまで研究を進めることができませんでしたが、同じことを繰り返しているということは確認できました。そして、古くからスキーをやっている人の中にもそのことを指摘している人がいることが分かりました。「昔と今のスキーで違うのはすべるスピードだ。技術はあまり変わらない。同じテクニックが繰り返し出てくる」と言っていました。
 
我々が技術と呼んでいるものにも、ファッションで説明できる部分があります。
   
進歩していることも事実ですので、それが見えづらくなっています。ただ、スポーツの場合、技術といってもそれをやるのは生身の体ですから、他の分野に比べて進歩が遅い。それで、ファッションの部分が観察しやすいわけです。
 
 (^^♪ (^^♪ (^^♪ (^^♪ (^^♪ (^^♪ (^^♪(^^♪
 
        モード工学代表 森田洋一
 
 
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