柔らかい素材がヒットする  トップページへもどる

以下の文更新02年1月29日

素材はだんだん硬くなる

硬さの(正確に言うと変形抵抗の)流行は、ヤング市場では、やわらかいものがヒットする時期を過ぎて、現在は、やや硬い素材が売れるタイミングです。このタイミングでは、硬い素材が上昇してきますが、まだピーク前なので業界がちょっと強気で生産すると失速します。いくら供給しても足りないという時期はもう少し先です。
 
現在、供給量の多少にかかわらず足らないのは、やや硬い素材です。ネトネトの度合いを表す「粘性」も、硬さと同じ変形抵抗の流行ですから、ややネトネトしている素材もやはり、生産量のいかんにかかわらず足らない素材となります。両方を組みあわせて考えると、
今たらない素材は、「かなり硬くて、ややサラサラしている」「やや硬くて、ややネトネトしている」「やや柔らかくて、かなりネトネトしている」素材です。ややサラサラしている素材では、かなり硬くてよいのですから、合繊調の素材に関しては、かなり硬くてもよいことになります。
 
まだ硬さのピークではないので、どの程度の硬さがよいのかは、素材ごとに異なります。粘性は原料で決まってしまう傾向がありますから、ちょうどよい硬さは素材原料の種類ごとに違うといっても、当たらずとも遠からずです。
 
以上の話は今現在のことを言っています。ピュアヤングのレディスでは、今シーズンの途中から、硬さ(正確に言うと「変形抵抗」)が大きすぎるほど大きい方が新鮮だというタイミングに入ります。逆にいうと、柔らかすぎる素材は、柔らかいというだけで止まってしまう
ドン底の時期に入ります。
 
そういう時期になるといっても、それは売れる値段、販売スピードで判定するとそうなるということで、流通量で見たときに売れ筋が変わるということではありません。流通量が大きくなるには、消費者の支持があるだけではだめで、供給もスムーズでなければなりません。でも、仮需が実需に追いつくのは時間がかかりますので、全体の枚数や金額でみた大流行はもっと先の話になります。
 
同じレディスでも、百貨店ミセスカジュアルのように年齢が高くなると、硬すぎるほど硬い素材がヒットするのはかなり先の話です。今春夏は、去年よりは硬いが、硬さがヤングほど強くなくて中途半端なものに人気が集中します。ヤングに比べれば売れるタイミングが遅れているわけです。
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−トレンド予測 7段目−
 
ただしそれは必ずしも、ヤングと全く同じ素材がヤングより遅れて売れるということにはなりません。硬さ(正確には変形抵抗)の値でみるとヤングより遅れて売れるということですが、素材には年齢のこだわりがありますので、タイミングではドンピシャでも、ヤングの匂いの強すぎる素材はミセスに拒否されてしまいます。ですから、具体的な素材名でいうとヤングとは違うが、硬さや粘性でみると、今までのヤングが好んだような素材がミセスにヒットするわけです。ただ、年齢のこだわりの弱い素材に関しては、今までのヤングの売れ筋のコピーがミセスで成功する素材になります。ヤングもシニアも共通していえるのは、今までの売れ筋よりも硬くに、あるいはネトネトにする方が値段がとおるようになるということです。これはメンズでも共通です。
 
以下の文は、私が以前に書いたもので、柔らかい素材が入れていた時期の話です。現在とは売れる商品の話がかなり違います。当時と今とで違っていないのは、売れる硬さにはサイクルがあり、いつまでも同じ硬さが売れつづけることはないという点です。
                     

感触にも流行がある
(以下の文、トレンドセッター2000年1月号より転載)

柔らかい素材がヒットする

  女性用ファンデーションのワコールが、今秋冬(99年〜2000年秋冬)向けキャンペーンで売り出したブラジャー「マシュマロブラ」が大ヒットしている。特にヤングの支持率が高く、まさに旬の商品である。ワコールは78年の「フロントホックブラ」94年の「グッドアップブラ」なみの売上げを期待しているが、供給が間にあわず頭を痛めている。
 
「マシュマロブラ」には、マシュマロのように柔らかい「マシュマロパッド」が入っていて、その柔らかな感触が消費者を引きつけている。
 
柔らかな感触が受けているのは下着だけではない。アウターでは、羊の皮革ムートンの古着が一昨年(98年)にヒットしている。表面の短毛が柔らかさを強調している。
 
一般誌でも話題になった牛柄スカートは、その多くが牛の胎児の皮革をまねたハラコ調素材を使っていた。柔らかさだけで売れたわけではないが、柔らかくなければヒットはしない。
 
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-トレンド予測 8段目−
こういった柔らかい感触が受ける前は、硬い感触が消費者を引きつけていた時期があった。先行市場でみると、ピークは91年から93年にかけてである。当時は、「イタリア素材」の苦戦が高級品市場で表面化していた。その柔らかな感触が飽きられたのだ。量販市場では、ネルの流通量の爆発的増大と急速な値崩れが起きていた。
 
合成繊維は変わるのがもっと早かった。当時人気の新合繊は、初期の薄起毛調の柔らかなタイプから、ジョーゼットなどの硬い強撚物へ、すでに人気が移っていた。
 
綿では、えびすジーンズのノンウォシュデニムが、驚くような高価格でマニアに売れていた.スキーウエアでは、ケブラー混が大ヒットした。
 
こういった傾向は、94年ごろになるとさらに進んだ。「イタリア素材」が、量販店でも苦戦するようになった。高額市場で売れていた、ゴワゴワのノンウォッシュジーンズが、一般のジーンズショップでも騒がれるようになった。
その代わり、それまで売れていたレーヨンデニムやテンセルデニムの値崩れがひどくなった。当時のレーヨンジーンズは、初期のものに比べるとかなり硬くなっていたのだが、それでも苦戦が避けられなかった。
 
この、硬い素材への市場の流れが向きを変え始めたのは95年から96年にかけてである。ヤング市場でベロアが売れ出した。このベロア人気は、98年春のキャミソールフィーバーまで続いた。起毛モヘアのロングコートがヒットしたのも当時である。この獣毛コートの流行もけっこう長かった。98年に起きた、量販店ミセス向けカシミヤコートのブームまで続いた。ファーもこの頃から売れ出している。
 
そして今である。何でも柔らかくなっているようだが、売れているのは、ネトネトした感触を強調した天然繊維調の素材に限られている。サラサラした感触の合繊調素材はまだ硬いままである。減量加工していないので硬い「レトロ合繊」が、昨年春まで売れていたことからもそれは分かる。
 
素材が、柔らかい方から硬い方へいくときは、合繊繊維調の素材が先行して硬くなる。これは毎回同じである。逆に硬い方から柔らかい方へ行くときは、天然繊維調の素材の方が先に変わる。今まで硬かった合成繊維調素材が柔らかくなるのはこれからである。高額品市場では、そろそろやってよいタイミングになっている。
 
しかし川上の素材メーカーが、柔らかい合成繊維調素材のヒットを認識するのは、マス市場に広がって量がまとまるようになってからであるから、あと数年を要するだろう。
         
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−トレンド予測 9段目−
(トレンドセッター2000年5月号より)

低価格志向は続かない

  99年はユニクロショックが衣料品業界を震撼させた。
  1900円フリースが前年に続いて爆発的に売れ、最終400万枚までいった。店の売上げも、他の小売店が既存店前年割れ、良くても数パーセント増にとどまっているときに、前年同月比数十パーセント増が続いた。 一般誌も話題にするほどの勢いである。
 
勢いがあるのはユニクロだけではない。価格を抑えたデイリー婦人服のしまむらの業績も良かった。
 
 この価格競争力抜群のユニクロ・しまむらの新価格が、衣料品のスタンダード価格になるのではないかと、衣料品業界、なかでも量販系のお店をおびえさせている。
 
だが、消費者が価格に敏感になった時期は以前にも繰りかえし来ている。こういう価格に敏感な時期を、前回は「価格破壊」と呼び、前々回は「高感度低価格」と言った。言葉は違っていても中身はあまり今と変わらない。
これは、本誌98年3月号の「新型のディスカウントストアが活躍する」や、98年11月号の「チープシックブランドのブームが来る」でも書いたことだが、人々が長期的に物を見て計画性が強くなるため価格に敏感になる期間が4年、短期指向でセツナ的になるため価格にに対して関心が薄れる期間が4年の約8年サイクルで消費者の価格感度は増減している。この循環を私は『アリ⇔キリギリス』と呼んでいる。
 
価格感度が高くなる『アリ』の流行は、「節約生活のススメ」(宮崎えり子著)がベストセラーになった98年の末ごろが今回のピークである。
  そして、サイクルから見ると今年の消費者は、価格感度が高いアリのピークから、価格感度が 低くなる『キリギリス』のピークへ向かう途中にいる。これからの『低価格志向』はだんだん実績の伴わない仮需バブルになっていく。
 
この仮需バブルは、前回の低価格志向のときも発生している。マスコミが「価格破壊」と騒ぎ、流行語にまでなったのが93年から94年にかけてであるが、本当の『価格破壊』はそれよりずっと前に起こっていた。 スタートは89年前後である。高いものから売れていく高額消費ブームが続いていたが、その流れが変わってきたのがこのころだ。
 
低価格も流行だ
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-トレンド予測 10段目−
象徴的なのが、ヤングの特選インポート離れで、より高価格なものから伸びが落ちてきた。そのインポート離れをくいとめようと、「円高差益還元」と称して各社いっせいに値下げに踏みきったのが89年である。
 
だが効果は一時的で、人気は国産ブランドへ、さらに下の価格帯へと移っていった。90年には伊勢丹の3万9千円ウールコートのヒットがあり、それが翌年の三九コートのブームを起こした。
 
その低価格志向の流れが変わったのが93年ごろで、消費者の価格感度が当時ガクンと落ちた。
 
だがそのことに気づく人は少なかった。安くしないと売れないという強迫観念から、フォルクス・ケンタッキーフライドチキン・日本マクドナルド・横浜そごう玩具売り場・エムケイタクシーなど、さまざまな企業が93年から94年にかけて次々と値段を下げていった。その結果はほとんどの場合が、下げた分だけの売上げ減である。
つまり、消費者は値下げにほとんど反応しなかったのだ。
 
次回の『キリギリス』のピークは2002年から2003年にかけてである。その頃の消費者は、やはり値下げにほとんど反応しなくなっているだろう。ということは、値上げをするならこの時期がベストタイミングである。

(以下2001年1月8日、追記)
しまむら、良品計画、マツモトキヨシなどの既存店売上高を対前年比で見ると、これらの店に以前ほどの元気がなくなっていることが現時点でも分かる。今秋冬のユニクロはフリースを1200万枚売るそうだが、店舗数も増えているので、一店舗あたりで見るとマスコミが騒ぐほどには伸びていない。一方で、1着10万円以上するスーツが売れている。
 
低価格志向の衰えはすでに始まっている。
 
 
次は「売れ筋に絞り込む店が元気になる」
 
 
 
 
 
07/07/06レイアウト変更
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