森田洋一です。次に載せた文は、「インテリジェンス+1」誌で連載のFASHIONTREND FORECASTERというコラムに書いたものです。載ったのが、‘02年1月号ですから、今から1年ちょっと前になります。 そのとき私が指摘したことは、今では多くの人が知っている現実になっています。だからといって「お前の言っていることは俺だって知っているよ。常識じゃん」なんて言わないでくださいね。起こってしまえば当たり前でも、起こる前は知らなかったはずですから。 私は知っていました。このコラムを書くよりずう〜っと前から知っていました。 雑誌に載せるものですので、早すぎてはしょうがありません。早すぎると指摘したことが現実のこととして認識できる前に内容を忘れちゃいますから。 で、多くの人が、言われれば気がつくというタイミングまで書くのを待ってい |
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ました。それが去年の1月です。 私は、自慢話をしようというのではありません。だって、超シャープな感性や天才的な頭脳で分かったわけではないのですから…。もちろん、スーパーコンピューターだって使っていませんよ。 モード工学の理論を具体的な現実に当てはめただけです。その時点での「今」に当てはめて、理論にしたがって未来へ延長させて結果を得ただけです。 モード工学は理屈ですので、機械的に次に起こることを読んでいくことができます。今の次に起こることが分かりますし、その次に起こることも、そのまた次に起こることも分かります。そして、その起こる時期も特定できます。 理論をもとに今の現実を分析すれば、下に書いたセレクトショップ大苦戦の、その次に起こることも当然予測でき |
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ます。 それを今ここで話しましょうか。モード工学の話にある程度親しんでいる方なら、しなくてもだいたい分かりますよね。モード工学の理論は難しくありませんもの。すぐにできる簡単予測です。 この文、03年2月28日、記。 |
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−市場予測 2段目− | ||||||||
売れ筋に絞り込む店が元気になる この原稿を書いている時点の話だが、繊研新聞で[私標準(マイスタンダード)」と題した連載が始まっている。「シェル」ヤ「サタンアルバイト」「雪月花」など、急成長しているショップの話である。その記事に出てくる店もそうだが、このごろ元気のよいショップにはいくつかの共通点がある。 元気の良いショップの共通点 第1には、新しくて出来立てほやほやというところが多い。創業数年以内というところがザラである。 新しいから、業界の常識に染まっていない。というより知らない。 第2に、自己主張がはっきりしている。市場の動向より自分の考えや感性が優先で、その実現のために一心不乱に努力する。 第3にマスを追わない。客も取引先も |
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自分に共感し賛成してくれる人だけでいいと、自分のほうから逆選別をする。結果、成長志向が弱くなる。 自分は大きくなりたくないのだが、周りやフアンがほっとかないことから、志とは逆にビジネスが拡大しているなどという、今時うらやましい話が多い。 新しくて、自己主張が強くて、成長志向でないのだから、一言でいうとシロートくさい店である。この素人たちの好調が、既存のプロをうろたえさせている。 「対立視」と「同一視」の流行サイクル こういう素人くさい人達がファッション業界で活躍した時期は過去にもある。それも何回もある。 初期のころのマンションメーカーもそうである。今の人気ショップと同じように自己主張が強く、それに共感してくれる少数の人達だけを相手にしていた。 その後に、ポロシャツブーム、ベネトンブームなどのマストレンド追随時代に |
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なると、マンションメーカーは、市場の変化に合わせるための変質を余儀なくされた。それのできないところは消えていった。 次に来た素人の時代に活躍したのがDCブランドである。 これも、フレンチカジュアルやバブル消費などのマスファッションの時代になると、変質と衰退が起こったが、初期のころは自己主張が強くてマスを追わない、既存ビジネスルールの破壊者であった。 次の素人の時代、バブル崩壊前後に活躍したのが、「好きなものだけ作りたい。好きな人にだけ買って欲しい。」と言っていたインディーズと、品ぞろえや店に強いこだわりをもつインポート・セレクトショップである。 このインディーズやインポート・セレクトショップも、同質化の塊のような平成ブランドや日本型SPAが活躍するころになると、変質と淘汰の時代を迎えることになった。 |
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−市場予測 3段目− | ||||||||
ファッション業界の過去を振り返ってみると、自己主張が強く、客を自分のほうから選別するシロートが、突如現れて大活躍をし、次に変質、衰退、埋没するというサイクルを繰り返しているのがわかる。この流行を私は「対立視」と呼んでいる。 消費者が、商品の差異に関心を持ち評価する。デザインに妥協できなくなり、鮮度を求める。他人と違うものを欲しがる時期が対立視である。こういう時代は個性が強いことも、客を絞り込むこともプラスに働く。 だが、それは長くは続かない。「対立視」とは逆の「同一視」の流行期になると、苦戦が始まる。 だから、今活躍している新勢力ショップの今後も、過去の同じタイミングの事例を思い出せば予測がつく。 これから、自店の個性を価格に転化できなくなってくると、店や商品のにおいを薄めてこなれた価格にし、ロットを追求 |
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するようになる。量をさばくため卸先を増やし、タイムリーな物作りや在庫処分などの仕組み作りに熱中するようになる。デザインも自分達の好みを優先できなくなり、ストリートファッションや他店のパクリが増えてくる。 これは、自店のアイデンティティを揺るがすことになるので、変革が遅すぎたり、不徹底だったりするところがほとんどになる。それで多くの店が消えていく。 なにか話が暗くなったが、明るいことも起こる。 市場の変化に積極的に適応したところでは、今までとは比べられないほどのマスの客を相手にできるようになるので、ビッグになれる可能性が出てくる。 ファイブフォックスもビームスも、そういう試練の時をのりこえて大きくなったのである。 [以上、インテリジェンス+1誌 ‘02年1月号(bW3)より] |
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「絞りこんではいけない」について 次の第4段以降は、00年9月にこのサイトを作った当時からあったサブページです(何回か更新)。古くなりましたのでリンクを外すことも考えましたが、上と関連していますので残すことにしました。あわせて読んでいただくと、「売れ筋に絞り込む店が元気になる」もより理解しやすくなると思います。 |
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-市場予測 4段目- | |||||
(このごろ、ファッション誌やファッション業界紙に、若者がはじめた路面店の話が載ることが多い。 多くても数店舗の規模で、扱う商品もオリジナルであったり、仕入れたものでも他では手に入りにくかったりする。内装も自分たちでやってしまったような素人くさい店である。商品に対するこだわりは強く、大手チェーン店にあるような売れ筋は追いかけない。特定の客層に限定していて、必ずしも一般受けはしない。 マスコミにさかんに登場するなったのは、今まで客に受けていたからである。 こういう店が繁盛した時期は以前にもあった。バブル崩壊直後のインポートセレクトショップのブームを思い出して欲しい。当時と今ではいろいろ違っている点もあるが、客がタンス在庫にないものを欲しがっている、他人が持っていないものを欲しがっているというてんでは、こ |
のごろのファッション市場と同じである。 当時のセレクトショップのブームは、そういう店が繁盛していた時期と、マスコミに頻繁に載った時期に数年間の時差があった。業界紙が騒いだころには店が増えすぎて苦戦するところが増えていた。 今回も同じである。マスコミが頻繁に取り上げるということは、今まで売れていたということであるが、これからは苦戦するところが増えるということでもある。 これからかわりに成長する店は、個性のあまりない万人受けのする商品を、それが止まるまで追いかけるタイプのところである。売れ筋を、これでもかこれでもかと見せる店である。 バブル時代直前は、大手の専門店チェーンがこのタイプであったし、インポートセレクトショップのブームの後は、メーカー型SPA・日本型SPAといわれるところがそうだった。これから成長して |
くる店はなんと呼ばれるかは分からない。だが、売れ筋追いかけ型であるということと、同質化しすぎて墓穴を掘ることになるというてんでは今までと同じである。 次の文は、2年前に雑誌に寄稿したものである。当時と今では市場の風向きがだいぶ変わってきている。以下の文のとおりのことが今まで起きていたが、これから逆が起こると理解して欲しい。 もっとも風向きが変わるだけだから、そのことに気がついてマスコミが話題にするのはかなり先のことだろう。) この文、‘01年9月8日、記 |
−市場予測 5段目ー | |||||
絞りこんではいけない |
レル商品があり、その先を曲がると食器が並ぶ。店内を進むにつれて意外な発見を繰りかえす。掘り出し物があるのではないかと期待しながら客は歩いている。まるで、ディズニーランドの遊戯施設のようだ。 |
常識からは外れた店だった。 |
−市場予測 6段目− | |||||
ぞろえを充実させた方が今はプラスになる。 主婦のレジャーランド・100円ショップの「大創産業」、女子高生の溜まり場・ドラックストアの「マツモトキヨシ」、メニューが多い外食DSの「サイゼリヤ」、カーテンだけでも3千種類ある「カーテンジュータン王国」、3万uのショールームを持つ「大塚家具」。取扱い品目はそれぞれ違っているが、豊富な品ぞろえを誇り、選ぶ楽しさを提供しているDSという点ではどれも共通している。 多品種陳列に対する客の支持率が上昇したり下降したりするのは、人間の気持ちに、私が『対立視⇔同一視』と呼んでいる交代サイクルがあって、それと品ぞろえの流行が強い相関を持つからだ。 |
『対立視』の時期になると消費者は、他人と違うものや今までと違うものを求めるようになる。だから、この時期の小売店は、他店とは違った個性の強い店にすべきであると同時に、店内も同じ物だらけに見えるのは避けるべきである。 店外だけでなく、店内の差別化も重要だ。それに、豊富な品ぞろえで客に選ぶ楽しさを提供することが役に立つ。 『大創産業』の急成長を見て、これを100円ショップの流行、あるいは均一価格の流行と勘違いしているマスコミがある。だがそれは誤りだ。100円ショップ業界で急成長しているのは「大創産業」だけで、すでにシェアの7割を取っている。一人勝ちである。 『対立視』の時期は、店内の差別化 |
が大事で、統一価格の不利なタイミングである。つまり、品番の数だけ価格があるのが理想なのだ。「大創産業」は品ぞろえが豊富で、両面テープだけでも30種類ある。選ぶ楽しさを客に提供している。だから、統一価格というハンデをのりこえて成長しているのである。 私も、はさみなどをダイソーで買ったことがあるが、目移りして選ぶのに時間がかかった。 バブル時代以前の、消費者が他人と同じ物を欲しがる『同一視』が続いていた時に、大手専門店チェーンが商品を一生懸命絞り込んでいた時期があった。売れ筋追求型の同質化マーチャンダイジングをやっていた。 消費者が他人と同じ物を欲しがっている間はその仕組みはうまく回転していたのだが、次の、インポートセレクトショップが繁栄する『対立視』の時期になって、絞込みは逆に苦戦の原因となった。 |
-市場予測 7段目- | |||||
その後、『同一視』がまた復活してくると、店内外同質化マーチャンダイジングもまた成功するようになった。 スタートは、ブリッジライン・キャリア服の御三家、「マックス・マーラ」「CKカルバンクライン」「DNKY」である。思いきったコンセプトの絞込みをしていた。94年ごろのことだ。 その後に続いたのがレディスヤングの日本型SPA(製造小売業)である。店内のアイテムは徹底した絞込みが行われていた。ピークのころの店は、店内に3型ぐらいしかないのではないかと、私には思えたほどだった。 そして今、振り子は『対立視』の方に振れている。 マーチャンダイジングは、いつでも通用するやり方があるわけではない。また、一方向に進化するのでもない。成功 |
するMDには繰り返しがある。アイテムの流行と同じである。 (トレンドセッター99年9月号より) 「同一視⇔対立視」に関連する他のページ SPAの潮流と消費者心理サイクル 秋冬苦戦の反省は間違いだらけ |
このページ、03年3月2日更新 このページはサブページです。各論を扱っています。総論は、トップページ(とその続き)をごらんください。
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