流行予測を難しくしている6つの理由 トップページへもどる

1企業は複雑でも消費者は簡単

流行現象はかなり複雑です。このことは、消費者側から見るよりも供給側から見たほうがよく分かります。供給側は売り上げや粗利益などの数字で流行をとらえているからです。そして、その数字に、自分の生活がかかっているからです。
 
出版を考えてみます。書籍の場合、毎年ベストセラーが話題になります。なかには100万部以上売れるミリオンセラーと言われるすごい本もあります。「世界の中心で、愛をさけぶ」や「いま、会いにゆきます」「キッパリ!」「頭がいい人、悪い人の話し方」「電車男」「ダヴィンチコード」などの、業界をあっと言わせるミリオンセラーは、一般書籍の何百倍も売れます。競馬で言うと万馬券を当てたようなものです。
   
極端な例を出しましょう。英国人のJ・K・ローリングが書いた「ハリー・ポッターと賢者の石」の場合です。この作品は全世界で1億部売れました。ミリオンセラーどころか、その百倍の100ミリオンセラーです。続編を入れれば、さらにその数倍になります。
 
では、市場に出る前の段階では、「ハリー・ポッターと賢者の石」を出版社はどう評価していたのでしょうか。作家のかわりに出版社へ原稿を売り込み、交渉をするエージェントが、作者のJ・K・ローリングから依頼を受けて、この小説の原稿を出版社へ送ったところ、つぎつぎと12社に出版を断られたそうです。断った12の出版社は、1億部売れる億馬券を買わなかったことになります。最後に出版を引き受けた小さな出版社も、初版として刷ったのが500部でした。しかも挿し絵がありません。つまり、出版される前の「ハリー・ポッターと
   
賢者の石」は、出版業界のほとんど誰も期待していなかったのです。ま、無理もありません。子供向けのファンタジー長編小説なんて、当時の常識では売れっこありませんから。でも、その常識が間違っていたわけです。
 
こういう、予測が難しすぎて、プロのベテランでさえ、ほとんどバクチになってしまう業界は出版業界だけではありません。他にもあります。たとえば、音楽業界や、ファッション、イベント、アイドル業界などがそうです。循環要因の影響を特に強く受けているこういう業界では、流行を予測することに対してベテランほど懐疑的です。市場を読もうとして痛い目にあった経験をたくさん持っているからです。自分の実体験ですからこれほど強いものはありません。多くのベテランが、「流行は予測できない教」の信者です。彼らの信仰を変えさせるのは容易なことではありません。
 
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−流行予測 2段目−
 
若いころの私は、「流行の仕組みは解けるはずだ、そうすれば予測できるはずだ」と、プロからみれば非常識なことを考えました。現実の市場は失敗事例だらけなのですから、それを知らない私はかなりノーテンキな若者でした。仕組みが解けると考えられたのは、私がシロウトで、しかも消費者側から見ていたからでしょうね。無知の強みです。以前の私は公務員でした。流行など考えなくても生活できる立場でした。ですから、流行予測は100%道楽でした。道楽だから、プロからみれば非常識なことをやれたのだと思います。だって、調べ始めたときは、流行を予測するのがこんなに大変なことだなどと思っていませんでしたから。
 
やってみたら確かに大変でした。でも、30年かけて探り当てた流行の仕組みは驚くほど単純でした。循環要因にまでたどり着けば、その仕組みはとってもシンプルでした。だからいつも思います。「こんな簡単なことに何で今までだれも気が
   
つかなかったんだろう」と。流行の研究を続けるうちに、仕組みが分からなかった理由も、複雑に見える理由も理解できるようになりました。
 
複雑になる理由は一つではありません。いくつかの理由がからみあっています。それを箇条書きにしてみましょう。
 
1. 消費者の商品分類と、供給側の商品分類が一致していない。
2. 流行に関係する業界用語は、意味が短期間で変わる。
3. 仮需と実需の区別があいまいである。
4. タブーやこだわりが、流行を変形させる。
5. 季節感が、死んだはずの流行を生きかえらせる。
 
これが、簡単なはずの流行を複雑に見せている5つの理由です。あなたは、その理由を理解することで、複雑な流行現象と、カンタンな循環要因との間を自由に
   
行き来できるようになります。そこまでくれば、流行予測という山の頂上が見えてきます。流行現象は複雑すぎて、その予測はバクチのように感じられます。でも、カラクリが解けたものに関してはパーフェクトに予測することができますから、バクチではありません。カラクリを知ればあなたもできるようになります。そのゴールまで、一つ一つの画面をクリアしていきましょう。
 
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−流行予測 3段目−

<その1>  消費者は、言っていることとやっていることが違う

(1)プロの理屈では消費者は動かない
流行現象は非常に複雑です。理由はいくつかありますが、その1つは、既存の商品分類が、循環要因を元にした分類と一致していないことです。これが第1の理由。それを循環要因と同じ商品分類にすることで予測がとってもやりやすくなります。
 
一見すると、消費者は明確な意識をもって合理的に行動するように見えます。実際にも、人は他人に自分の行動を説明するときは、そういう合理的な説明をしがちです。ところが、実際の消費者は無意識の基準に従って行動します。口で説明するときの行動基準と、実際に動いているときの行動基準が一致していないのです。じつは、消費者が動くときに使う商品分類は循環要因の分類と一致していないわけではありません。個人の行動をたくさん集めて、そこから抽出して求めた
   
分類は、循環要因の分類と同じです。これに対し、 消費者が言葉でしゃべっているときの、つまり意識している既存の商品分類は循環要因の分類とは一致していません。ですから、あなたが使う商品分類を、購買行動の基準と一致させれば、流行の予測はかなり楽になります。分類しただけでは、先のことは予測できませんが、市場のこんがらがりがほどけてきますので、透明度が上がり、遠くの方まで見渡せるようになります。
 
プロが使っている商品分類と、消費者の行動から抽出した商品分類がどう違っているか具体的な事例で見てみましょう。たとえば衣料品の場合、素材は、原料と加工方法によって分類されることが多くなります。「綿100%ブロードクロス」「綿混30双ピケ」「毛レーヨン混フェルト」といった具合です。でも、綿やウール、ポリエステルなどの原料の流行は簡単には記述できません。複雑すぎて流行のルールも見つかりません。糸の太さ、織り方、編み方などの加工方法にも簡単な流行のルールは見つかりません。
   
 
私は昔、大手レディス専門店チェーンの元バイヤー(仕入れ担当)に、こういうジンクスを教わりました。「素材にくわしくなると商品(の売れ筋予測)を外す」。ここで言っている「くわしくなる」というのは、紡績工場や機屋、生地商社などのプロの理屈のことです。原料や加工方法で分類した理屈のことです。でも消費者はそんな商品分類では買っていませんから、くわしくなればなるほど消費者から離れていきます。
 
いま、消費者はそんな商品分類では買っていないと言いましたが、プロと同じ分類で消費者が話していないわけではありません。消費者が自分の購買行動を説明する場合は、はるかに単純ですがプロとほとんど同じ商品分類を使います。  
 
たとえば、特殊な加工をしたビーズを中に詰めたヌイグルミがヒットしたとしましょう。それを買った消費者は、買った理由として特殊加工のビースの名前を言う
 
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−流行予測 4段目−
かもしれません。そのビーズのすばらしさをたたえるかもしれません。でも、消費者がそのヌイグルミを買った本当の理由が、 特殊ビーズそのものではなくて、ビーズの持っている性質だったらどうでしょう。重くて、硬くて、反発しなくて、抵抗感がなくてという、ヌイグルミを手に取ったときの感触が気に入っていたのだったら、こういう性質の流行が変わってしまえば、 ヌイグルミはピタッと売れなくなります。 メーカーがさらに高品質のビーズを開発してもだめです。流行から外れた商品は、品質を上げても人気は復活しません。でも普通消費者は「ビーズが気に入ったのではない。重くて、硬くて、反発しなくて、抵抗感がないという感触を買っていたのだ」とは言いませんね。 意地悪で言わないのではなくて、そんなこといちいち意識してはいないのです。
 
私は、繊維業界の人によくこう言います。「自分の女房を観察してごらんなさい。番手(糸の太さを表す数値)なんか知らないで服を買っているから。彼女は、プロの理屈なんて知らなくても服は
   
選べるし、買えます。見て、触って、持って、試着して、それで気に入れば買うし、 気に入らなければ買わない。でも、あなたの奥さんが番手に関心がないからといって、買うか買わないかに番手が関係しないわけではありません。作る側がある番手を採用した結果、その服が持つようになった個性は、奥さんの購買選択に影響を与えます。彼女は番手を買いませんが、 その番手の個性は買います。」
 
プロの商品分類は、消費者の行動から抽出した循環要因の商品分類と、完全に独立し ているわけではありません。ただ、お互いの間に簡単な対応関係がないのです。だから、プロの商品分類のままでは、流行の予測が不可能になるほど、記述が複雑になってしまうわけです。
(2)消費者は個性で商品分類する
さきほど、原料や加工方法と流行には簡単なルールがないといいましたが、それを組み合わせた結果できた商品の個性と消費者の反応には、簡単な
    商品分類が簡単ならビジネスも簡単
ルールがあります。ある素材を使って、ある加工をして、その結果持つようになった性格、たとえば「重くなった」「軽くなった」「硬くなった」「柔らかくなった」「表面がフラットになった」「デコボコになった」「つやが出た」「マット(非光沢)になった」「クシャクシャになった」「均一になった」…こういった素材の性質の流行には簡単なルールがあります。 なぜなら、循環要因の商品分類と一致しているからです。ですから、こういう基準で流行を見つめ直すことで、複雑すぎてゴチャゴチャに見えた流行が整理されますし、きちんと区画整理された頭で流行を観察することで、新しいアイデアもつぎつぎにわいてきます。
 
たとえば、以前人気だった「羽根つき餃子」を考えてみましょう。羽根つき餃子といっても餃子そのものは普通のものと変わりません。違うのは焼くときの仕上げです。
 
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−流行予測 5段目−
餃子が焼き上がる直前に水で溶いた小麦粉をかけます。するとその小麦粉がもんじゃ焼きのように固まり、南部せんべいの耳のようになります。この耳みたいなのが羽根です。
 
羽根つき餃子の専門店が増えていることに、あなたが気づいたとして、その気づいた日にタイムスリップしてみましょう。あなたかそれをビジネスに利用しようとすると、そのままでは、自分も羽根つき餃子の専門店をやるかぐらいしか、アイデアが思い浮かびませんが、ヒットの最大の原因が、パリパリと硬い食感であると分かると、さらに、硬さという種類の循環要因から来ていると気がつくと、そこからいろいろな気付きが得られます。
 
以下はあなたの独り言です。
「硬いことがトレンドだとすると、表面が硬い『ナポリピザ』も羽根つき餃子の流行の仲間だぞ。サラダやスープに入っている、加熱乾燥させたパンの『クルトン』やカリカリに焼いた『ベー
   
コン』もこの流行だ。 羽根つき餃子の流行は今回が初めてかもしれないが、こういう食感の流行は昔だってあったよな。定番になって今でも残っているけど、『パリパリに乾いたのり』を巻けるようにしたコンビニのおにぎりもそうだ。『焼きおにぎり』がヒットしたこともあったよな。 コロモが硬くてサクサクしている『神戸コロッケ』なんかもこの流行だろう。90年代の半ばに流行した、表面を硬く焼き上げたケーキの『カヌレ』も硬かったな。中は柔らかかったけど、外がカリカリと硬くて、ケーキじゃないみたいだった。
 
これからはどうなるんだろう。硬いものの流行が続くとすると、もともと硬かった物や、柔らかい物を硬く変えた物がこれからも売れそうだ。その逆の、硬い物を柔らかくした物なんかやったらえらいことになるぞ。『濡れセンベイ』みたいなものを売り出したらダメだよな。硬いほうがこれからもいいとしたら、硬いお菓子を開発して売ったらどうだろう。『アゴの力を何倍も使うチューインガム』や『簡単に食べられるスルメ』なんか。
   
いいかもしれない
 
子供のアゴの発達を助けて、歯並びを良くしますなんて効能を付けたら売れるんじゃないか。流行しているものは誰もが長所の方しか見ないから、どこかの試験所か研究所が、『硬いものを食べると元気になる』とか、『柔らかいものを食べていると健康に悪い』とかいう事実をじきに発表するかもしれない。その発表に合わせて商品を売るという手もあるな。
 
今までは硬いことが欠点だと考えられていた物を、 硬いのを長所にして売り出すという手もあるぞ。歯が痛くなるほど固い食品を見つけてきて、青汁のテレビCMで有名な八名信夫に『硬いっ! もう1個』と言わせてみるか。そこまで極端ではなくても、初めから硬い物を、その硬さを強調することで売り込むのはいけるはずだ。
 
みずみずしくシャキシャキした歯ざわりで人気だった『朝取り野菜』も、これからはいいぞ。前と
 
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−流行予測 6段目−
同じ名前じゃ能がないから、今度は、畑で取ってからの時間表示でアピールするか。『流通段階での鮮度を保つためにこんな工夫をしました』と売り込んでもいいな。流行なんだから、コストを掛けたって採算は合うはずだ。
 
食感を感触と言い換えれば、食品でなくたって硬い流行はあるぞ。以前は、柔らかい低反発ウレタンのマクラが人気だったが、これからは硬いマクラが売れそうだ。ということは、乗用車のシートは体がもぐらない方がいいことになるな。車体のスプリングも、悪路に強い硬いやつが人気になるはずだ。硬さをほめると売れるのなら、体をカチカチに固くすると健康になるとか、ダイエットになるなんていう本を出版するとベストセラーになるかもしれんぞ。…」。
どんどん発想が広がっていきますね。
 
ただ、以上のアイデアは、硬いことが新鮮だという流行がこれからも続くということを前提にしています。でも、流行を硬さで分類することが、
   
 (^^♪(^^♪ ちょっと脱線 (^^♪(^^♪
ブログ「北浜島流一郎の『格差社会が何だ。生涯現役。1に健康、2に仕事、3お金」で、当サイトが紹介されました(http://ameblo.jp/ohayou123/page-4.htm)。
 
株式投資では流行現象の研究も必要だ。そこで流行について参考になるサイトがないか調べていたら、とんでもないHPが見つかった。森田洋一氏の、理詰めの流行予測 ヒット商品とトレンドだ。
 
森田氏によると流行は理論的に徹底的に分析していくと予測可能とのこと。そして実際、持論に基づき企業に製品製造のコンサルタントを行い、数々の実績を上げて来られたとのこと。
 
それにはもちろん感心するが、それにも増してただただ驚嘆したのが森田氏のHPの
   
コンテンツの厚み。内容が実に豊富でとても短時間には読み尽くせない。通常は秘密にしておきたいような流行予測の基本理論を手法などが惜しげもなく詳細に紹介されている。
 
他にこれくらい厚みのあるサイトがあるだろうか。これを見ると自分のコンテンツが以下に貧しいかがよく分かる。これまで私はコンテンツに投資のノウハウを詰め込む作業はしてこなかった。でもたまたま出会った森田氏のコンテンツのサービス精神の旺盛さと惜しげもなさ、そして充実した内容にはただただ驚くばかりだ。
 
これほどのものを作るのは一朝一夕には出来ない。しかし少しぐらいなら近づけるだろう。実に素晴しいHPに出会った。私もコンテンツの充実に努めねばなるまい。

 (^^♪(^^♪(^^♪(^^♪(^^♪(^^♪(^^♪
 
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−流行予測 7段目−
循環要因の分類に合っていると知っているだけでは、硬さの流行が続くかどうかは分かりません。でも、これからどうなるかまで分からなくても、流行をこういう「硬さ」という分類に直しただけで、流行がかなり単純に感じられてきたはずです。循環要因と同じ商品分類で観察すれば、個人的に関心はあるけれど、 自分のビジネスと結びつかないという流行も関連づけることができます。そういう流行は、自分が担当している流行より客観的に見ることができますし、消費者の 立場から見ることもできます。そしてそこから自分のビジネスに対してさまざまなヒントが得られます。
(3)消費者は原料名では買わない
素材の原料が同じでも、出来上がった製品の材質が違っていれば、消費者にとっては違う製品です。そして、両者は違ったタイミングに流行します。逆に、原料が違っていても、出来上がった製品の材質を消費者が同じに感じたら、同じタイミングに流行します。供給側で物作りをしているタクミの人たちは、原料や作り方にこりすぎる傾向
   
がありますが、消費者が魅力を感じるのは、作った後の製品です。原料や作り方ではありません。
 
マーガリンを事例にそのことを考えてみましょう。マーガリンは植物油でしょうかそれとも動物性の脂でしょうか。原料で考えれば植物油です。でも、常温で固まっていますから、その点では脂です。消費者にとっては、原料より結果の性質が大事ですから、 マーガリンは油の流行より脂の流行と一致する傾向が強くなります。ただし、もともとの原料が植物油ですから、バターと全く同じ性質というわけにはいきません。そのかわり植物油の性質を残すことによってバターとの違いをわざと強調させた製品を作ることができます。 マーガリンメーカーは、トレンドがコッテリしたもののときは、極力バターに近づけた製品を出したり、バターとミックスさせた製品を出せれば売れるようになります。逆に軽い味に来ているときは、植物油の軽さを強調した製品を出せばよいことになります。
 
   
原料が同じ植物油だからといって、 そこから生まれた製品が、同じタイミングで売れ筋になるわけではありません。また、商品分類が同じマーガリンだからといって、ヒットのタイミングがどれも同じになるわけでもありません。マーガリン業界全体の景気の良し悪しは、マーガリンらしいマーガリンの売れ行きで決まりますが、 そこから外れたものも作れるわけですから、個々のマーガリンの売れ行きは業界の景気とは別物です。
 
いま、食品の流行で、原料と性質の関係を考えましたので、今度は繊維製品にあてはめてみましょう。いままでのマーガリンの話に出てきた、バターのようにギトギトしたものと、植物油のようにサラサラしたものの区別は、繊維製品にもあります。衣料品の場合はギトギトをネトネトと言い換えた方が分かりやすいでしょう。衣料用繊維ではウール製品がネトネトしています。ポリエステルなどの合成繊維がサラサラしています。もちろん例外はたくさんあります。この話は、ウールらしいウール、合繊らしい合繊について言えるだけで
 
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−流行予測 8段目−
ポリエステルでウールを作る す。

仮に、あなたは繊維業界で合成繊維を担当してて、上役から合成繊維以外はやるなと言われていたとします。もし、天然繊維ブームが来て合成繊維が全く売れなくなったとしたらあなたはどうしますか。そうなっても泣くことはありません。対策はあります。 仮に、そのときのブームの主役がウールだったら、植物油で「バター」を作ったように、合繊で「ウール」を作ればいいのです
 
テレビや雑誌でシャンプーのCMをみると、髪の毛の拡大写真やイラストが出ていることがあります。キューティクルと言うそうですが、毛髪の表面にウロコのようなものがあります。ウールも動物性繊維ですので、髪の毛と同様に、繊維の表面に細かいウロコがあります。ウールは、繊維どうしがこすれたとき、ウロコが互いに引っかか
   
るせいでその摩擦が強くなります。そのため、生地をさわったときネトネトした粘性を感じます。合繊は、液状に溶けたものを細い穴から凝固剤の中へ、トコロテンみたいに押し出して作ります。だから、ウールなどの天然繊維と違って繊維の表面に軸方向の凸凹がありません。 ツルツルです。天然繊維ブームのときは、そのツルツルが欠点となります。表面がツルツルだと繊維間の摩擦が弱くなり、布にしたときにサラサラします。ウールのようなネトネト感が出なくなります。ですから、合繊をウールのようなタッチにしたければ、繊維の表面に軸方向の凹凸を作ればいいわけです。 天然繊維にある凹凸をまねすれば、それによる摩擦で、織った布がねとねとしてきます。それが技術的に難しいのなら、繊維を縮れさせたり、繊維の所々をお互いに圧着したり、断面形を複雑にしたりして、生地にしたときの感触をウールに近づければいいわけです。  
 
一般に、合繊生地はウールに比べて軽すぎるので、糸のよりかたや生地の織り方を工夫して厚手
   
の重い生地にすれば、ウール時代には売りやすくなります。天然繊維のウールは繊維が短いので、合成繊維をプツプツ切って、ウールの繊維みたいな長さにしてから糸にすれば、そうしないより売りやすくなります。
 
「そんなことわざわざ言われなくても、合繊不況のときはちゃんとやっている」という声が、合繊業界から聞こえてきそうです。 たしかにやっているかもしれません。でも、恐る恐るでしょう。いやいやでしょう。めんどくさいですし、コストがかかりますし、ロット(1回の生産量)がまとめづらくなります。それに天然繊維調といっても限界がありますしね。より天然繊維に近いものを開発しようとすればするほど高くつきますし、安定供給も難しくなります。 合繊が本来もっている性質でないものを付与させようとするわけですから、それも当然です。それで合繊不況のときは、合成繊維を天然繊維に似せて、重くてネトネトした生地にするという対策をとったとしても、やらないよりはましというだけで、合繊業界は苦境か
 
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−流行予測 9段目−
ら脱出できません。

でも、そういう対策をとっても合繊業界が苦境から脱出できないというのは、業界全体が同じ行動を取るからです。つまり、みんなが一斉に同じ対策を取った後の話です。一合繊担当者であるあなたには業界全体が動くタイミングに 従う義務はありません。たとえあなたが「大きな仕事をしている」方だったとしても、日本で流通している合繊全体に占めるシェアで考えればチョッピリなのですから、業界のだれよりも先に動けば、あなたの仕事と生活を守るのに十分な数のお客さんが得られます。合繊のこだわりが強い客、 合繊のこだわりが強いアイテム、合繊のこだわりが強い分野向けに、どこよりも早く、誰よりも早く、合繊の裏切り者、合繊の面汚し製品、つまり、重くてネトネトした感触の合繊を積極的に売っていけば、同業者が悲鳴をあげているときに、あなただけニコニコしていることができます。 同業者があなたのマネを始めても、あなたには、先にやっていたという実績があります。ノレンがあります。
   
さらに同業者との競合が激しくなったら、それは流行の終わりを暗示していますから、あなたは再び先手を打って、その次のことを始めればいいのです。つまり、合繊らしい合繊に戻します。人より先に始めたのですから、人より先に終わらせることも後発組より楽にできます。ようは、製品カテゴリーは循環要因ではないので、その中に小規模な当たりがあるのです。それで、そのカテゴリー内にあなたが止まったとしても、循環要因に逆らうことなしに、いろいろ対策が立てられるということです。
(4)売れない商品はひっくり返せば売れる
マーガリンや合成繊維で説明しましたが、供給側の人が使う商品分類と、循環要因から見た商品分類は一致していません。ですから、マーガリン全体が、一つの例外もなく流行から外れるということはありませんし、合成繊維全体が、一つの例外もなく流行から外れるということもありません。循環要因を人為的に操作することはできませんが、業界の分類で区分した商品は、循環要因に
   
逆らいさえしなければ、その分類区分の範囲内のままでいつでもヒットできます。つまり、人気商品を人為的に作ることができるということです。
 
このことは、素材に限ったことではありません。たとえば、プロ野球は、このごろ人気がかなり落ちています。巨人戦でもテレビ視聴率が一ケタ台なんて日が珍しくなくなりました。ですが、同じプロ野球でも、アメリカ大リーグは以前より人気が上がっていますよね。 マリナーズのイチロー外野手が大リーグの安打記録を更新した時は、いつもは野球にあまり関心を示さないメディアでも、イチローの話だらけになりました。
 
「プロ野球」という商品分類は、循環要因の商品分類と一致していません。それで、やり方によってはいつだって「はやってよし」 の状態にできます。たしかに、プロ野球をヒット商品にしにくい時期というのはありますが、「プロ野球」そのものは循環要因ではないのですから、人気を人為的に動かすことが可能です。
 
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−流行予測 10段目−

これは、あなたの会社が扱っている商品、あなたが担当している商品でも同じです。そのカテゴリーは、循環要因の商品分類とは一致していませんから、その分野の中にあるものがすべて例外なく流行から外れるということはありません。ということは、あなたの担当している分野が 全滅しているように見えるときでも、対策はいくらでも立つということです。それどころか、例外の存在に気づくタイミングがよそより早ければ、あなただけ大当たりということだって有り得るのです。
 
それを、ジーンズ(Gパン)を例に考えてみましょう。ジーンズに使うデニム生地は、他のパンツの生地に比べて重くて硬いという特徴があります。ジーンズショップは、もし軽い方が流行したら、薄くて軽い「ライトオンスデニム」を店内に増やします。ようするに、他のデニムに比べて相対的に軽い生地を増やすわけです。柔らかい方が流行したら、軽石でこすったり、何回も洗濯したりして、くたくたに柔らかくなったジーンズを増
   
やします。これは硬いデニムの中での柔らか方向へのシフトです。それでも間に合わないほど、パンツの流行がさらに軽い方や柔らかい方に移ったら、ジーンズショップは、デニムをあきらめて、他の生地で形だけジーンズというパンツを増やします。そして次に来るデニムのブームを待ちます。
 
こういうことは、昔のジーンズショップが、売れる素材が軽くなったり、柔らかくなったりした時期に、実際にやったことです。そして、先に変化に気が付いた店が勝ち、気付くのに遅れた店が負けました。もし、あなたが当時のジーンズショップのオーナーで、重さや硬さが循環要因の分類と一致していることを知っていたとしたら、当然あなたは勝ち組ですよね。
 
もっと新しい例を出しましょう。1999年前後にすでに落ち目だったダウンウエアの苦戦が本格化しました。流行が「軽くて柔らかい」から「重くて硬い」に変化したからです。対策は? 重くて
   
硬いのが大当たりですからウールをやればよろしい。実際に当時はメルトンがヒットしていましたしね。もしあなたが立場上ダウンから逃げられなかったら? ウールばっかりにできなかったらどうします?当時のダウン屋は、表地を、軽くて柔らかいナイロンから重くて硬いウールにかえました。これなら、他のダウンウエアが売れなくてもヒットできます。ダウンなんですから、ウールばっかりに比べれば魅力は落ちますが、ダウンの流行の直後ですから消費者にとってためらいが少ない。当然、他に先駆けて表地ウールにした人は儲かります。
 
業界の商品分類を、他業界の友人に話すつもりで説明してください。「だから消費者にとってはどうなんだ」ということを話してください。
 
あなたの扱っている商品は、どちらが売れていますか。「重い」方ですか「軽い」方ですか、「硬い」と「柔らかい」では、どちら
ですか。ためしに分類してみてください。
 
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−流行予測 11段目−
 
こういう性質による分類をやったからといって、それで分かるのは「これまでのこと」で、「これからのこと」が予測できるわけではありませんが、でもずいぶん作戦が立てやすくなりますよね。
 
あなたがウドン屋で、世間でスパゲッティが売れていたら、スパゲッティみたいな感触のウドンを出しましょう。そばの方が売れていたら、そばみたいな感触のウドンを出しましょう。あなたがプラスチックの成型業者で、金属製品が人気だったら、金属製と間違えられるようなプラスチック製品を作りましょう。
 
売れていないときは、あなたが扱っている物が嫌われているのではなくて、あなたが扱っている物の個性が嫌われているのです。
ですから、それをひっくり返せば、それだけは例外的に売れるヒット商品になります。


   
 モード工学研究所の森田洋一 
   
 
 (^^♪(^^♪ ちょっと脱線 (^^♪(^^♪
 
「経営者会報(発行8万部)」という中小企業の経営者向けの雑誌に私の記事が載りました。もっとも自分で原稿を書いたわけではなくて、取材を受けただけですが。
 
 (^^♪(^^♪(^^♪(^^♪(^^♪(^^♪(^^♪
 
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−流行予測 12段目−

<その2> 仮需正当化則とは何か

流行が複雑で分かりづらくみえる理由の2番目として、言葉の意味がどんどん変わっていくことがあります。この現象を私は「仮需正当化則」と言っています。
 
リストラという言葉があります。バブル時代のリストラは、企業が本業以外のことに手を出すことを意味していました。食品メーカーがゴルフ場を経営したり、製鉄会社が遊園地を作ったり、自動車メーカーがフィットネスクラブを経営したりすることがリストラでした。それが、バブル崩壊以降は、社員の首を切るという意味に変わりました。
 
小売店や問屋が、仕入れた値段より安く売らなければならなくなったときに、それに抵抗するのはなぜでしょうか。金貸しが、損切りの時期を先送りしたがるのはなぜでしょうか。株や土地を買った人が、下がったときにすぐ売れずにしばらく塩
   
漬けにするのはなぜでしょうか。自分の過去の誤りを認めたくないからです。仕入れた値段より安く売れば、不良債権を処理すれば、下がった株や土地を売れば、その時点で自分の過去の「アホ」が確定しますからなんとか避けようとします。
 
おもしろそうな本だと思って買って読んだらおもしろくなかった。でも我慢して終わりまで読んだ。あなたはそんな経験ありませんか。私にはたくさんあります。 つまらなかったのなら読まなければいいのですが、そのつまらない本を買ったのが自分なので、その行為を否定したくないので読む。ナンセンスなんですけど、ついやってしまいがちです。こういう行動を、アホの上塗りと私は言っています。
 
人間だれでも自分の過去は否定したくありません。正当化したいですし、できればついでに美化したい。でも、バブルが崩壊すると、今までやっていたことを続けることができなくなるのはもちろんですが、いつ
   
までもその場で足踏みしていることも難しくなります。つまり、今まで自分が言っていたことを否定しなければならなくなります。これはつらい。それで、言葉のうえでは、今までの延長線上のままにしておいて、実際の行動だけ変えようとします。今までの言葉が残り、やっていることが変化します。言葉の意味がすり替わります。
 
次の文は繊研新聞06年3月31日付3面からの抜粋です。
 
単品専業の婦人服メーカーがセレクトショップ向けの事業を広げている。得意分野に絞り込み、企画と物作りに磨きをかけてきたことで取引先からの期待が高まっている。卸とOEM(相手先ブランドによる生産)を両立させているのが特徴で、OEM事業も自社企画主導型で対応している。
      〔・・・・・〕
いずれも展示会が基本で、OEMでも展示会企画からピックアップしてもらう形。0EMといって
 
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−流行予測 13段目−
も実質的には展示会受注と変わらない。
  これらのメーカーはキャリアゾーンの個店専門店が減ったため、セレクトショップに活路を求めてきた。『SPA(製造小売業)は商品のセレクター機能を備えているが、物作りの技術まで備えているところは少ない』(イエリ)としてセレクトショップの販路を広げる。 セレクトショップもオリジナルを強めるほど企画機能を外部に求める傾向があり、とくに最近は単品での差別化が求められていることから、単品専業メーカーの企画力が注目を集めている

この記事はセレクトショップと付き合っている婦人服メーカーの話です。これをセレクトショップの話として聞くと、セレクトショップのオリジナルは、「オリジナル」とは名ばかりで、実質以前の「セレクト」にもどっていることが分かります。だって、商品企画は初めからメーカー任せで、その中から「ピックアップ」つまりセレクトするだけなのですから。
 
個性が評価されず商品寿命が延びる「同一視」
   
という循環要因の活性期になったとき、売れ筋をパクってオリジナルとして売り出せば粗利が取れて儲かるとセレクトショップは考えました。それで、セレクトを放棄して自社商品作りに熱中しました。でも、商品寿命が縮まり、個性が評価される「対立視」という循環要因の活性期になると、店に並ぶタイミングが遅くて個性の弱いパクりオリジナルは売れなくなりました。というわけでこのパクりオリジナルバブルは崩壊しました。それで、オリジナルというコトバは残したままで、行動は、パクりオリジナルバブル発生以前にもどりました。つまり「オリジナル」という言葉の意味が以前と違っています。
 
ファッション業界は、ミニバブルの崩壊が毎シーズンあります。そのため、言葉の意味のすり替えがシーズンごとに起こります。たとえば、明るくくすんだナチュラルカラーが売れるだろうという思惑がふくらんだことがあります。それに「エコロジーカラー」という名前を付けて業界全体がはしゃぎます。仮需生産もそういう色に集中しま
   
す。
 
ところが、シーズンインしてみたら、そういう明るい色は売れなくて、もっと暗いアースカラーのほうがたくさん売れました。そうすると「エコロジーカラー」はアースカラーという意味に変わります。土の色もナチュラルだというわけです。次に、アースカラーも人気が落ちて、紺がヒットすると、紺が「エコロジーカラー」になります。海の色だからエコロジーです。
 
そんなことを繰りかえしているうちに、どんな色でもエコロジーカラーになってしまいます。それで、「エコロジーカラー」という言葉の寿命がつきます。使われなくなります。
 
秋冬物でテラコッタカラー(焼いた土の色、レンガ色)が売れるという思惑が膨らみました。初秋はテラコッタがどこの店の店頭にも並びました。でもテラコッタカラーは、初物命という人に売れただけですぐに止まり
 
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−流行予測 14段目−
ました。かわって足りなくなったのはエンジ色でした。すると小売店もマスコミもそのエンジ色(ボルドー)をテラコッタと呼びました。
 
真っ赤な口紅をすることが若い人に流行ったことが有ります。当然足りません。それでそのヒットした赤をトレンドカラーと呼び、翌年向けに真っ赤なリップスティックを供給側は強気で用意しました。でも翌年ヒットしたのはもっと黄みの少ない色でした。ピンク色の唇の女性が大勢街を行き来しました。でも、そのピンクをファッション関係者は「赤リップ」と呼びました。マスコミも同じでした。
 
ショートコートが売れるという思惑が膨らんだことがあります。ショートコートが生産されます。ところが、シーズンになってみたらショートコートは売れず、替わりにジャケットが売れました。すると、業界はその売れたジャケットをショートコートと呼ぶようになりました。
 
   
コトバを残して意味を変えるトレンチコートが売れます。それで次の年もトレンチコートを期待します。ところがシーズンインしてみたらトレンチは売れず、もっとシンプルなコートが売れました。それで、みんなはそのシンプルコートをトレンチと呼ぶようになりました。
 
オフショルダー(肩がまるまる出るほど大きいネックライン)が売れました。次の年もオフショルダーが売れることをメーカーや小売店は期待しました。でもオフショルダーは売れず、かわりにドロップショルダー(肩より下にくるソデ付け線)が売れました。それで、ドロップショルダーをオフショルダーと呼びました。
 
ジーンズでべグトップ(腰の部分だけが膨らんだ細身のパンツ)が売れるという思惑が膨らんだことがあります。ふたを開けて
   
みたら、べグトップは売れなくてその変わりにバギー(全体がぶかぶか)パンツが売れました。業界は、そのバギーパンツをべグトップと呼びました。
 
ヤングの06年秋冬物でカーディガンが売れるはずだという思惑が、シーズン前に膨らみました。ところが実際に売れたのは横網ニットのショートコートでした。それでそのコートを「ロングカーデガン」と呼びました。07年春夏物でワンピースが売れるはずだという思惑が膨らみ
ました。実際に売れたのは長めのスモックでした。それでそのスモックを「ミニワンピース」と呼びました。
 
トップスとボトムスの素材、色、柄などが異なるスーツが売れるという思惑が膨らみます。普通のスーツと区別するためにセットアップスーツと呼びます。シーズンになってみたら、セットアップは売れず、かわりに上下とも同素材、同色、同柄の普通のスーツが売れました。すると業者は、普通のスーツをセットアップと呼ぶようになり 
 
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−流行予測 15段目−
企画のQR コピーのQR ます。
 
商品寿命がやたら短くなって困ったことがあります。ファション業界は、企画の時期と発注の時期をなるべく実売時期に近づけて、商品企画の的中率を上げようとしました。そして、このことをQR(クイックレスポンス)とよびました。ところが商品寿命が再び延びてきて、QRは欠点のほうが強くなりました。
 
衣料品は機械工業製品ですから、短期間だけちょっとずつやったのでは、あまり儲かりません。同じものを大量に長期間売ることができるのなら、そうしたほうが、大まじめにQRをやるより得です。
 
企画優先のQRがうまく回らなくなったかわりに、コピー商法が安全確実に儲かるようになりました。他人がリスクを張って企画した
   
商品を、売れたという結果が出てからパクリます。値崩れがゆっくりになりましたので、人の後追いでも間にあうのです。 するとQRは「すぐにパクって安く出す」という意味にかわりました。これを「後出しジャンケン」とも言います。企画のQRからコピーのQRになりました。
 
この場合、売れ筋の寿命が長くなりましたから、1回の発注量が以前と同じなら、同じものを追加、追加で追いかけることになります。これもQRと言うようになりました。追加のQRです。
  同じものが入ってくるのですから、ストックの場所が以前と違うだけで、全体で見れば、ぜんぜんクイックレスポンスになっていないのですけどね。
 
QRという言葉が広く使われるようになる前は、同じことを「小ロット、短サイクル」と言っていました。言葉の正式な定義は違いますが、現場での実際の使われ方でみると、「少ロット、短サイクル」は、後のQRとほとんど同じ意味です。
   
途中で、企画を実売時期に近づけるための「小ロット、短サイクル」から、よそのコピーや、同じものの追加のための「小ロット、短サイクル」に意味が変わったのも、QRと同じです。
 
アンクル丈(9分丈)パンツが売れるという思惑が広がったことがあります。実際はアンクル丈が売れず、クロップド丈(7分丈)が売れました。小売店はそのクロップド丈パンツをアンクル丈と呼びました。どこまで長い足首なんだ。
 
オフホワイトからベージュにかけての色を「ヌーディーカラー」と呼びそこに仮需が集中したことがあります。実際にシーズインしてみると、ヌーディーカラーを買ったのはオバチャンだけで、ヤングが買ったのはピンクでした。もう分かりますね。そのピンクをファッション関係者はヌーディーカラーと呼びました。
 
女性物を男が着ることが流行ったことがあります。そういう着方をする男を「ギャル男」と
 
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−流行予測 16段目−
呼びました。ギャル男もどきファッションアイテムの思惑が広がりました。店頭にたくさん並んだ頃には、女物を着る流行はすでに下火になっていました。でも、タイトシルエットの流行は残りました。それで、タイトであれば男っぽくてもギャル男と呼びました。
 
タイカラー(蝶ネクタイ)が売れるという思惑がふくらんだことがあります。ところが、シーズンインしてみるとタイカラーは売れなくて、ボータイ(ひもネクタイ)が売れました。するとどうなるでしょうか。分かりますね。ボータイをタイカラーと呼ぶようになります。
 
とこういう、意味の変えづらいものでも変わってしまうのですから、「マスキュリン」「ボヘミアン」「ロマンティック」「フォークロア」などという 抽象度が高いものですとさらにいけません。その言葉が指し示す具体的なデザインは毎月のように変わっていきます。
 
   
ファッション業界は、バブル崩壊ずれしています。それで、意味のすり替えがしやすい言葉を初めから好んで使います。そしてそのことを、業界用語で「感性」と言っています。
 
ファッション業界の人で、途中で失明した方がいます。目が見えなくなってから、仲間の言うことがさっぱり分からなくなったとなげいているそうです。目が見えていたときは、その仲間と同じ業界語を使っていたのですけどね。いちいち現物を見ないと意味が分からないというのは、言葉としての機能を半分失っています。
 
   
 さて、ここで問題です。
【問題】次の問いに答えなさい。
Ray(主婦の友社)03年12月号の30・31ページにオフショルダーニットが紹介されています。ところがこのページのタイトルは、甘くも辛くも着こなせる「オフタートルニット」続々追加生産中! …です。このページの写真では、延べ12名のモデルがニットのトップスを着ていますが、肩を出している人が多く、オフタートルの着方をしているのは1名のみです。タイトルと写真が矛盾しています。その理由を説明しなさい。
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ピンポーン、正解です。03年秋は、渋谷109などを見ても、肩を露出させたオフショルダー(ベアショルダー)ニットだらけでした。
 
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−流行予測 17段目−

軽井沢現象

仮需正当化側に比べると、規模も罪も小さいのですが、やはり意味が変わってしまう原因に、「軽井沢現象」があります。あるコトバがステータスを持つと、それを身につけることで自分を飾ろうとすることが起こります。我田引水を無理にやりますから、コトバの意味範囲が広がってだんだんピンボケになります。
 
以前、軽井沢が大衆化してみんなが行けるようになり、大勢の人の関心を集めたことがあります。そのとき、軽井沢の大拡張が起こりました。新軽井沢に奥軽井沢と、そこいらじゅう軽井沢だらけになりました。「この分だと数年後には、自分が住んでいるところも軽井沢になるのではないか」という冗談が当時は流行っていました。

 
ファッション業界で起こった軽井沢現象では「セレクトショップ」が分かりやすいですね。
   
セレクトショップの以前の意味は、小売店主や店長が、マスに迎合せずに自分の趣味や主張を前面に出す仕入れをした店でした。自らは商品企画をせず、仕入れのセレクトで個性を主張する店です。ようするに品揃え店なのですが、それ以前の品揃え店が、売れ筋追及の同質化で店のステイタスを自ら壊していましたので、それと一緒にしないでくれという意味で「セレクトショップ」と名のりました。差別化の手段として、インポート物を扱うことが多かったので「インポートセレクトショップ」とも言っていました。
 
それが、オシャレに敏感な層の支持をえて人気をはくし、それに憧れを持つような二番手の人たちも通いつめるようになると、それに名前だけあやかろうというところがたくさん出てきました。
 
DCブランドがブームのころに、そのステイタスにあやかろうと「うちはDCです」と言っていたチェーン店やアパレルメーカーが、今度は「うちはセレクトショップです」
   
と言うようになりました。やってることは前とあまり変わらないのですけどね。
 
結果、自称セレクトショップの大増殖が起こりました。なかには、他店の売れ筋をパクったオリジナルが八割を超えているようなSPA型セレクトショップなどという訳の分からないものまで出現しています。
 
以下の文は、繊維、ファッション専門紙では最大手である繊研新聞の記事からのものです。
セレクトショップとは何かと考えてしまうほど、乱立している。

『セレクトをうたうのがあたかも流行』と、レディスカジュアルの専門店の幹部。乱立を受けてポスト・セレクト論も活発だ。『ブランドを軸にしたセレクト、陳列は古い』『ありものを選び、ブランドごとに並べるのは鮮度がない』『店のコンセプトに合わせてデザイナーに商品を作ってもらって集める。それがコンセプトショップ。
 
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−流行予測 18段目−
次の流れになる』など議論は多彩だ。

同様にオリジナル商品の規定もあいまいだ。メーカーに別注を依頼して仕入れた商品をオリジナルにくくっている例もある。が、問題は概念や規定の正しさではない。安易に成功事例をまねしようという横並び発想や『成功の接ぎ木』こそが問題なのだ。
」(05年9月15日付11面より)
 
我々は言葉を使って思考します。仮需正当化側にしろ軽井沢現象にしろ、そのために、言葉という思考の道具がグニャグニャになるのですから困りものです。理論もへったくれもなくなります。
 
流行を、業界用語を使わずに記述する訓練をしてみてください。頭のなかの、普段の仕事で使っている部分とは別な場所に、そういうコーナーを作ってみてください。流行が、より客観的に、よりリアルに見えてくるはずです。それは少しだけ辛いことかもしれませんが、得られるものの方が大きいでしょう。
     
  
 
この17、18段、06年11月14日更新
 
2016/11/17、13段目テラコッタの話を加筆。

 
2017/01/26、14段目赤リップの話を加筆。
   
 
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このページ前回更新2015/05/31。
 
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