-トレンド予測 1段目-
実需を嫌い、仮需を追いかける流行が複雑にみえる理由、分かりづらい理由の3番目は、仮需と実需の区別があいまいなことがあります。
「仮需」というコトバを、シーズン前の思惑だけの時期に限定する考えがありますが、私はもっと広くとらえています。シーズンインした後の話でも、消費者(正確には最終購買選択権者)の直接の購買行動以外はすべて仮需です。だって、消費者から注文を受けてもいないのに生産や仕入れをしている事実はシーズンインした後でも変わりがないのです |
から。仮需は業界の期待です。これが売れるだろう。これが売れるはずだ。これが売れてくれないと困るが仮需です。つまり自分の気持ちです。実需は消費者の気持ちです。消費者という他人の気持ちです。だれでも、他人の気持ちより自分の気持ちのほうがかわいいわけですから、消費者指向は建前で、実際は仮需指向になります。仮需を実需であるかのように扱います。
ビートたけしさんから取材した記事が新聞に載ったことがあります。その記事ではなかったのですが、たけしさんから聞いた話を記者が別な日に書いていました。「あなたは、漫才から映画監督までマルチで活躍しているが、何で、どれも一流でいられるのか」と聞いたときにこう答えたそうです。 |
「自分は若いときに師匠からこう教わった。『舞台の上で演じている自分の側から客をみるだけではだめで、客の位置から、舞台の自分を見ることもやらなければならない。でもこれだけではまだ足らない。客席の一番後ろから、舞台にいる自分と客の両方を見ている3人目の自分を持て』」。
正論だと思います。でも実際は難しいですね。これがいつもできれば天才です。 たけしさんは芸の話をしているわけですが、市場の変化(流行)を読む場合も同じで、供給側にいる自分の立場から消費者を見るだけではだめで、消費者の側から自分達を見ることが必要です。でも、それだけでは足りません。 |
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自分の側(仮需)と消費者の側(実需)の両方を等距離で見ている3人目の自分を持たなければなりません。これも正論でしょ。でも、我々はたけしのような天才ではありませんから難しい。で、自分以外の場所から見るということを他の人にお願いすることが多くなります。手前味噌になりますが、そのために私のような人間がいるわけです。
人に頼むにしろ、自分でやるにしろ、その前に、どの位置から市場を観察しているのかを意識しなければなりません。でも本当のところ、それすらもあいまいになっているのが現実です。 「ウチはトレンドを追いかけないんだ」「売れ筋は追わないよ」…こうおっしゃる方がいます。でも、実需から逃げ回っていてビジネスになるわけがないはずですから、ここで「トレンド」「売れ筋」と言っているのは、消費者の話ではありません。 |
仮需のことです。 仮需を追いかけないのであれば話は分かります。それがちゃんと実行できていれば同業他社とは違う行動を取ることになりますから、少なくとも商品の大洪水からは逃れられます。大量の在庫を残して、それを社長に隠したり、言い訳したりで四苦八苦なんてことはしないですみます。「トレンドを追いかけない」という意味が仮需よりも実需をかわいがっているというのであれば、私も大賛成です。 でも、仮需にすぎないものを「トレンド」とか「売れ筋」とか呼ぶのは問題です。仮需と実需の区別があいまいになりますからね。トレンド(仮需)じゃないと思ってやったら、他も同じ事をやっていて、やっぱりトレンド(仮需)だった。消費者のトレンド(実需)は別な方にあった。なんていうややこしい話になります。やっぱり、仮需と実需は言葉の上でも厳密に区別 |
すべきです。
私はお客様からこう言われることがあります。「お前の言っていることは、売り先が言っていることと違う」「お前の話は、小売店から聞いた次のシーズンの話と違う」。表情や言葉の調子から察すると、私はほめられているわけではないようです。またこう言われることもあります。「いやぁ、この前お客さんから聞いてきた話と今日の話はいっしょですわ」「小売店も同じことを言ってました」。 これも表情から察するに、私は叱られているわけではないようです。だって、話している人はニッコニコですから。 こういうときには、その人の頭の中では、売り先の |
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声は神の声、仮需は神様になっています。神様に100%帰依したときに心の安定が得られます。それと違うことを言うやつにはムカっときます。不信感を持ちます。当然、私の説明によって行動が変わることはありません。ただ、まったく気にしていないわけではありませんから、変化に気がつく時期が、聞かなかったときと比べると早くなります。ということで、全くの無駄ではありません。でも、モード工学の利用法としてはもったいないといつも思います。それだけ、仮需という名の神の支配力が強力だということでしょう。
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需要供給分析は机上の空論あなたも学校で需要と供給の関係について習ったことがあると思います。需要と供給のクロスバッテンの図を憶えてますか。 「始めは需要と供給が一致している。」→「需要が減ると供給オバーになるので売れる価格が落ちる。」→「価格が落ちると採算が取りにくくなるので供給が減る。」→「供給が減ると需要との不均衡が是正されるので価格がそれなりに回復する。」→「以前よりは安い価格で需要と供給が一致する。」 学生ならだまされてもしょうがありませんが、実務を経験された方なら、この「価格が下がると供給が減る」という理屈がおかしいのは自分の体験で分かるはずです。とくに、ファッション商品や家電のように消費者の支持が大きく変動するものでは成り立ち |
ません。
実際の変化は…「魅力のピークにある商品は高くても売れる。安ければもっと売れる。供給側は特別なアクシデントでもないかぎり高い価格を提示する。」→「魅力が落ちてくると高い価格では売れなくなるので、供給側は値下げせざるをえなくなる。」→「工業製品は、増産するとその増産分のコストがただみたいに安くなるという性質があるので、価格が低下した商品は増産することで利幅を確保しようとする。利幅の縮小が避けられなかった場合も、量を増やすことでトータルの利益を確保しようとする。」→「もっと価格が落ちるとさらに増産する。」→「増産によるコスト削減効果には限界があるので、売れる価格は遅かれ早かれコストより低くなる。」→「生産や仕入れが止まる。」→「供給が激減して新しいバランスに移行する。ゼロになる場合もある。」 |
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需要供給のクロスバッテンの理論よりも、こちらの方があなたの実体験に近いのではありませんか。もっともこの理屈でも実際よりは単純化しすぎていますので補足説明が必要です。たとえば、生産量を増やせば1つ当たりのコストが下げられるのですから、高価格でも売れる魅力的な商品を増産すれば、それよりは見劣りがする値崩れが始まった商品を増産するよりももっと儲かるはずですが、実際は値崩れが始まった方の商品だけを増産します。魅力的すぎる商品は供給側はいじりたくないのです。「美人すぎると男にもてない。3番目ぐらいが一番もてる」です。また、厳密なコスト計算してみたらおいしくない商品にすでに変わっていたからといって、増産を止めるとは限りません。損が拡大して耐えられなくなるまで続ける場合もあります。こういう不合理は、供給側に現状維持バイアスがあるために起こります。我々は、幸せになりたいという気持ちより、不幸に |
なりたくないという気持ちの方が何倍も強いのです。私が言いたいのは、売れる価格が下がった商品は少なくともその値崩れ初期においては供給量が増えるということです。つまり、供給量が増えたから価格が下がったのではなくて、価格が下がったから供給量が増えたのです。
経済学者がバブルやバブル崩壊を予測できないのは、流行とそれにともなう人びとの反応を無視するからです。バブルは、それが発生した時点で投資としてのベストの時期を過ぎています。時期を過ぎたから加熱するのです。参加者は、単位あたりの利益の低下を量でカバーしたくなっています。のめり込みすぎることに対する恐怖心も、ベストの時期に比べて薄れていますしね。 |
大型バブルが土地や株で発生しやすいのは、仮需と実需の区別があいまいだからです。あなたが過去に買った土地や株は仮需100%でしたか、それとも実需100%でしたか。たぶんそのどちらでもなかったはずです。土地や株では、仮需(と思われるもの)が膨らむと実需(と思われるもの)も膨らみます。そのためバブルの終わりが大幅に遅れて、膨れるだけ膨れてから破裂します。 「売れてる売れてる。対前年比2倍だってあなたは言いますけど、この商品、去年に比べて、取扱い店舗数はどうなってますか。売り場面積、店頭在庫どうなってます。どれも増えているのでしょう。これだけ拡大させといて売上が2倍程度では販売スピードはむしろ落ちているのではないですか。去年は、色切れサイズ切れ起こしていたのじゃありませんか。今年は在庫たっぷりなんでしょう。 |
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それと、価格は去年より上がってますか、下がってますか。ヒット商品の価格をなぜ下げるのですか。去年の価格では無理だと思ったから下げたのでしょう。
第一、対前年比が出せるということは、去年もやっていたということでしょう。なぜ去年もやってたのですか。一昨年、自分のところで売れていたか、よそで売れていたかでしょう。ということは、この商品は、売れていることに気がついてから3年目、あるいはそれ以上たっているわけでしょう。そろそろ終わりだなと考えるのが自然なのではないですか。」 有名な経営コンサルタントの方が、以前お目にかかったとき言っていました。「ハーゲンダッツはすごい。ミニカップがどんどん売れているそうだ。この前売り出したカスタードプディングなんか、あんまり売れすぎたので、供給が間に合わなくなって販売中止 |
になってしまったと、新聞に出ていた。」私はこう答えました。「うちの近所の(デパートのまねをした大型スーパーの)GMSでも売っていますよ。机2台分ぐらいの大きな保冷ショーケースに入っています。そのケースに何段も積み上げて入っているのですから、置いてある量も半端じゃありません。場所も、レジ前の一等立地です。値引き販売もやっています。しょっちゅう赤札をつけています。『人気』のハーゲンダッツが安売りするのですから、そりゃ売れると思いますよ。私の家の近所には食品スーパーもあるのですが、この前行ってみたら、やっぱりレジ前にたくさんつんであるのを見ました。」 …と説明したら、「そういえば以前と違って、コンビニにもたくさんあるよな。これだけ沢山あちこちで売っていれば、売り上げ数字が大きくなるのは当たり前か。」と納得していました。
話は少々脱線しますが、流行を誰かに押し付けられ |
ている、ファッションを業者に仕組まれていると消費者が感じるのはこういうタイミングです。
自分自身は大して魅力を感じていないのに、その商品がそこいらじゅうに大量に出てきます。売り込み宣伝もすごいですし、マスコミも騒ぎます。実際、それなりに売れてもいるようです。自分もつられて買ってしまいました。でもそれほどうれしくありません。すぐにあきてしまいました。それは他の人も同じだったようで、しばらくすると誰も話題にしなくなりました。そんな経験をすると、業者に仕掛けられていたと消費者は思います。「私ははめられた」。 でも本当は逆なのです。たくさん売り込んだから流行しているのではなくて、流行したから一生懸命売り込むようになったのです。売れていれば自分の店にも置きたくなるでしょう。売れいれば、置いておく量を増やしたくなるでしょう。売れていれば、もっと |
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たくさん売れそうないい場所に商品を移すでしょう。広告宣伝もハデにやれますし、経費をかける気にもなるでしょう。値下げしてでも好調な数字を維持したくなるでしょう。
ただ、こういうことをおっかなびっくりおそるおそるやるものだから、その商品にあまり関心のない消費者でも気づくほど、供給側の売込みが大胆になった頃には、肝心の魅力の方はダウントレンドになっているのです。女優のギャラのピークは、美貌のピークより後です。テレビタレントの露出度のピークは、その魅力のピークより後です。つまり、供給側の強気度のピークは、魅力のピークより後です。 商品の魅力が同じなら、売り込みにエネルギーをより多くさいているほうが、売り上げ数字が大きくなります。当たり前ですね。売り込みにエネルギーを大量にさくのは、商品の魅力のピークよりかなり |
後です。だから、売り上げのピークは、商品の魅力のピークより後です。
私はよくこう言います。「廃棄処分と持ち越し在庫を無視すれば、販売数量=仕入数量=生産数量です。たくさん売ったということは、たくさん仕入れたということです。たくさん作ったということです。ほとんど作っていない商品はほとんど売れません。ほとんど仕入れていない商品もほとんど売れません。全く作っていない商品は全く売れません。全く仕入れていない商品も全く売れません。販売数で分かるのは実需ではありません。仮需のほうです。」 POSでは需要は分からないレジを通った瞬間に何がどれだけ売れたかの情報がコンピューターに入るPOS(販売時点情報管理)などになると、もう少し話がややこしくなりますが、
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基本的には同じです。
スーパーやコンビニで我々がレジへ商品を持って行くと、店員がバーコードをピッピッと読み取りますね。あれがPOSです。集計と売れ方の分析をコンピューターがやります。店頭で売れた瞬間に集計分析がすんでいるのだから、消費者が支持するものが分かるはずという建前です。でも、やり方そのものは、引きちぎったタグを後で集計するなどの昔からあったもっとアナログ的な人海戦術と同じです。、ただ、コンピューターがそれを、より速く、より正確に、より大量に処理しているだけです。 POSの数字が実需なら、もっとも普及していて、レジでバーコードをピッ、ピッ、ピッとやっている量販店が流行の先端を行っていなければならないはずです。でもそうはなっていません。 |
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ヒット商品は余っていません。供給が足りません。需要ではなく供給が流通のボトルネックです。つまり、どれだけ売れたかは供給側のスピードで決まります。これはPOSのように瞬間風速を計る場合でも同じです。
よそでは極端な供給不足で、自分のところだけあふれるほど在庫があれば、POSの数字は実需を表わしますが、これは机上の理屈で、現実にはまずありません。業界のみんなが嫌っているもの、恐がっているものは、あなただって恐いはずです。あふれるほど大量に仕入れようなんて思わないでしょう。万が一仕入れようと思ったとしてどうやって手に入れるのですか。もしあなたがメーカーの人だったとしたら、どうやって卸しや小売を説得しますか。 「俺は度胸がある。自分で作って自分で売る。」という場合でも無理でしょう。在庫リスクを持つ度胸 |
では定評のあるユニクロだって、流行のピークのタイミングにあふれるほど大量に供給することはできないのですから。 ありえるとすれば、事故がおきた場合です。海外に大量に輸出するつもりで作ったらキャンセルされてしまい、泣く泣く国内で売ったら爆発的に売れたとか、仕様書に大間違いがあってとんでもないものができてしまい、仕方なく売ってみたら大当たりだった、…などという場合です。でもこれは、銃が暴発したら偶然マトの真ん中に当たったと言っているようなもので、めったにあることではありません。そんなものに期待するのはビジネスではありませんね。 POSはヒット商品の商品力を数字で示すことができません。ただ、POSが実需を表しているようにみえる時期はあります。それは流行の最末期です。この時期になると供給がだぶついてきますので、 |
販売数量や販売額などの瞬間値の決定権が消費者に移ります。ですから、POSの数字が跳ね上がった時は、たいていは供給の数字が跳ね上がったということで、その量に対して多くの消費者がまだ拒否していないというだけなので、むしろ危険な時期に近づいているタイミングなのです。
流行の最末期以外では、流行していないもの売れていないものもPOSは実需を示します。売れていないものは供給オーバーですから当然です。 仮需は供給側の安心と強い相関を持ちます。供給側の安心は、売れた経験の繰り返しと強い相関を持ちます。前回売れて、前々回売れて、前々々回も売れていれば、仮需は超強気になりますし、前回売れなくて、前々回売れなくて、前々々回も売れていなければ、仮需は超弱気になります。 |
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「売れた、売れた、また売れた。売れた、売れた、またまた売れた。」と「売れない、売れない、また売れない。売れない、売れない、またまた売れない。」に供給側の人間はすこぶる弱いのです。それで、仮需は実需そのものではなくて、その累積に反応することになります。大幅に遅れるのも当然です。
もしあなたが、実需の累積にではなくて、その瞬間の実需にビビッドに反応できるロボットかスーパーマンのような人だったとしても、、ヒットに気がつくまでの時間や生産のための時間はゼロになりませんから、それでもやはり仮需は実需とイコールにはなりません。第一、誰も気がつかない実需は、いくら待っても仮需がありません。アサヒスーパードライの流行は、アサヒがスーパードライを出したから分かるのです。出していなければ誰にも分かりません。寡占化された業界では、こういう、やればヒットしたはずなのに誰もやらなかったし、誰も気がつかなか |
ったマボロシの流行が特にたくさん発生します。
それと、仮需は必ずしも実需をまっすぐ追いかけてはいません。実需が動く原因は、魅力の変化です。仮需が動く原因は、安心の変化です。安心したいという気持ちは消費者にもあります。こんな物を買ったら、亭主はなんて言うだろう。これを着たら友達に、軽薄なやつだと思われないか。また買ってきて~、といやみを言われるんではないか。買ってみて無駄になったらどうしよう。…などと恐れます。消費者が安心したがる気持ちは、購買決定の場面では強力に働いています。でもこういう気持ちは、数ヶ月ごとに大激変するなどということはありません。消費者の場合、短期間で大きく変わるのは魅力の変化のほうです。 供給側の安心は、消費者の安心と違って短期間に大きく変動します。実需の変動が、安心できる |
モノ、コトをどんどん変えていくからです。 何をするほうが安心か、何をしないほうが安心かが時の推移とともに変化します。それが仮需を変化させます。 実需をまっすぐ追いかけるほうが安心であれば、仮需と実需はかなり簡単な関係になりますが、そういうことはむしろ珍しいのです。実需が動いて行く軌道上からはイレギュラーしているほうが常態です。 例えば、循環要因は数多くありますから、実需は様々な部分がほとんど同時に変化していきます。でも、仮需がそれをそのまま追いかけることはまずありません。多数の循環要因をいっぺんに変化させることは不安なのです。恐いのです。それで、変える部分と変えない部分に分けてそれを組み合わせようとします。 |
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新しい形に挑戦するときは色は定番カラーにしたくなります。画期的機能を持たせたときは、デザインはどこにでもある「無難」なものにしたくなります。新しい色に挑戦するときは、生地は今までどおりの「無難」なものにしようとします。新しい風合いに挑戦するときは、シルエットは今までとおりの「無難」にしたくなります。きりがないのでこのへんにしておきますが、新しいことに挑戦した仮需は、今までどおりの無難な部分と組み合わさって出てきます。消費者から離れている川上側企業の場合、これをうまく利用すると、仮需があって実需もあるというおいしいビジネスができます。魅力的な大当たりと、魅力のない「無難」をわざと組み合わせます。 |
怖くないほうが客に好かれる川上側企業の場合、直接売るお客さんは消費者ではないわけですから、消費者に好かれても、それだけでは商売になりません。自分と消費者の間にはさまっている人の支持がないと、消費者に見せることもできません。
それで、「無難」を付けて、自分より川下の人が怖がらないようにします。そうやってちゃんと仮需があるようにします。無難のマイナスを埋めておつりがくるだけの当たりがあれば、消費者も支持しますから実需があリます。小売り店頭で売れるのですから、追加追加で数字が膨れます。お客を儲けさせたのですから、次の注文もあなたはいただけます。 以前、テキスタイル卸にカットソー(Tシャツ生地)の春夏物で茶色をやるようにコンサルティングした |
ことがあります。私が渡した暗くて汚い色サンプルを見た担当者は、明るい色が売れると思っていた春夏に秋色をやることにビビリました。それで当時無難な柄だと考えていたボーダー柄にその茶系の色を付けました。シーズンインして小売店頭に並べてみた結果は大当たりでした。他の色のボーダーは動きませんでしたが、茶色いボーダーは業界で評判になるほどに売りまくりました。
そのシーズンのボーダーは、消費者から遠く離れた人間にとっては無難にみえたということなのですから、消費者のところではすでに魅力がありません。水面下です。アパレルメーカーはテキスタイル卸よりは消費者に近いのでそのことをうすうす知っています。でも、今までたくさん売ってきたので、今までのままでは売れないなと思ってもボーダーをやめられません。それで新色を素直に受け入れました。「無難」な柄だから新しい色に挑戦できたのです。 |
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この茶色いボーダーが成功したのは、それを採用したアパレルメーカーの多くが量販系だったことが幸いしています。量販店で売ったから、ボーダー柄であるというハンデがあっても売れたのです。結果オーライですね。そうでなければ、わざと外れを入れるというテクニックは危険が大きくなります。 小売店も、アパレルメーカーも、テキスタイル卸も、もちろんSPA(店持ちアパレル)も同じです。仮需は実需をまっすぐ追いかけることができません。ジグザグに追いかけます。実需の通った軌道に近づいたり離れたりします。 そのブラウン運動のような動きを含む仮需を実需と混同すると、流行は複雑すぎて、変化を予測することが難しくなりまます。 |
今、仮需をブラウン運動にたとえましたが、実際はこれは言い過ぎで、実需よりは複雑だということです。仮需は、直接それを考えるより、まず実需を知ってからそれをもとに予測するほうが早道です。仮需より実需のほうが単純なのですから。
どちらにしても、仮需と実需を混同してはいけません。混同すると、「売れ筋を追いかけたので同質化した。」「売れ筋を追いかけすぎて苦戦した」などと、おかしなことを言わなければならなくなります。 3、4段目の「あなたも学校で~膨れてから破裂します。」の部分は12年05月10日に加筆した。 【関連記事】 カール 東日本販売終了 |
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このページ、前々回更新‘06年12月12日、 |