ラッピングの流行はもう終わり

  森田洋一です。2000年4月にスティフィットが発売になりヒットしました。モモまでの長さのストッキングです。
  私が子供の頃は、ストッキングはモモまでの長さが当たり前だったのですが(ガーターというゴム入りバンドで留めていました。古いな〜)、ストッキングといえばパンストしか思いつかない今の若い女性にとってはモモまでしかないというのは特別な丈です。
  どう特別かというと、昔だったらあたりまえな丈のストッキングは、それを知らない人が見ると、ウエストの位置まであるべきパンストがモモの所までずり落ちたように見えます。スティフィットがヒットした当時はこのずり落ち感覚が新鮮でした。
  この、落ちて見えるのが新鮮というのは、同じ時期にヒットしていたローライズジーンズや外出し腰ベルトと一緒ですね。
  スティフィットがヒットした理由はモモまでの丈だけではありません。昔だったら当たり前丈ストッキングは他にもいろいろありますから。スティフィットだけが大ヒットした理由としては弱すぎます。
  スティフィットに限りませんが、業界の外の人間も知っているような大ヒット商品には、いくつもの流行要因が大当たりになっています。これも当たり、これも当たり、これも正解、いいところがいくつもある。…だからヒットするんです。
  ストッキングはふつう透明な袋に入っていることが多いのですが、このスティフィットはタバコのような紙箱にはいっていました。そのためストッキングが外から見えません。この不透明なパッケージが当時は新鮮でした。透明なパッケージが当たり前だというものを不透明なパッケージに変えると  
中身まで良く見える時期でした。それで、この紙箱につめるやり方は、ソックスやパンティなどさまざまな物でまねされました。
  下着を紙箱に入れたらヒットしたというのは以前にもありました。1995年ごろのことです。当時はニューインナーと呼ばれていました。最も売れたのがメンズのボクサーブリーフでした。業者が仕掛けたのはメンズだけではなかったのですが、結果はメンズ中心になりました。それは、キャンペーンの時期がレディスヤングには遅すぎたからです。レディスでは、不透明厳重包装の流行がすでに終わっていました。
  その終わったはずの不透明厳重包装がスティフィットで復活したのです。
         市場予測
  商品の包装を厳重にすると、それにコストがかかっても元が取れる
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−2段目−
時期があります。逆に、包装に凝りすぎると売りづらくなるときがあります。時には、売れないのをとおりこして、過剰包装だと批判をあびたりします。
  この、包装をどうするかという流行と強い相関を持つ流行要因があります。[開放系⇔閉鎖系]です。開放系と閉鎖系は一定の間隔で替わりばんこに流行しています。氷河期と氷河期の間に間氷期があるように、開放系の時期と次の開放系の時期の間には閉鎖系の時期がありますし、閉鎖系の時期と次の閉鎖系の時期との間には開放系の時期があります。
  開放系というのは、周りの環境との関係を強化する流行で、中の物が外側へ出てきます。そのため、この時期は、包装が簡易化したり、透明になったり、無くなったりします。
  閉鎖系は、周りの環境との関係が弱まる流行です。外にあったり、外から見えたりしていた物が中のほうへ潜ります。それで、包装しないのが
当たり前のものが包装されたり、包装が二重三重になったり、中身が見えないパッケージに変えられたりします。
  当時の下着業界がニューインナーの流行に飛びついたのは、下着そのものが開放系のときに売れて、閉鎖系のときに売れない商品だからです。閉鎖系のときの消費者は、アウターウエアという、人間をラッピングするものに関心が移りますので、その分、内側に着るインナーウエアの関心が薄れます。それで苦戦します。
  人間は怠け者で臆病です。何もしなくても売れているときは何もしません。ほっとくとえらいことになると思うと、新しいことに挑戦します。ニューインナーで騒いでいた当時の下着業界がちょうどそれでした。スティフィット以降の下着業界もやはり同じです。
  不透明包装にすると売れるタイミングだからといって、全ての業界が不透明包装に挑戦するわけではありません。売れている業界の売れている
商品では、そういう変化はまず起こりません。やらなければ誰にも分かりません。

  不透明パッケージの成功例をもう一つあげましょう。
  2001年3月にキリンビバレッジが緑茶飲料の「聞茶」(ききちゃ)を出しました。
  当時の緑茶飲料は、各社がほとんど同じ時にほとんど同じ味を出すという混戦状態でしたから、「何とかしなければならない」時期でした。それで新しい容器に挑戦しました。アルミのボトル缶です。形は小型ペットボトルとほとんど同じです。容量はちょっぴり少なくて割高です。表面にペットボトルと同じ素材がコーティングしてありますので、ツヤや感触もペットボトルとよく似ています。でもアルミですから中身が全く見えません。この見えないということが当時は新鮮でした。
  この成功の後、ボトル缶を採用
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ー3段目−
するメーカーが増えました。
  スティフィットや聞茶は不透明パッケージの成功例ですが、透明パッケージにして成功した例もあります。もちろん時期が違います。
  99年3月にアサヒ飲料が三ツ矢サイダーのペットボトルを透明にして売り上げを一挙に十数倍にしました。金粉を入れたわけじゃぁありませんよ。変えたのは容器です。
  
  透明パッケージを不透明にして成功した話と、不透明パッケージを透明にして成功した話の両方をしました。流行ですから、時期が違えば結果は逆になります。
  開放系の時期には透明容器も流行しますが、それだけが答ではありません。商品をカバーしているものを取っ払って無くしてしまうというのも正解です。
  カネボウフーズが天津甘栗の皮をむいてヒットさせたのが、「甘栗むいちゃいました」です。


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ドは開放系の流行です

テスト販売が98年11月、東京の駅売店で本格販売されたのが99年11月ですから、三ツ矢サイダーとほぼ同じ時期のヒット商品です。類似商品が大量に出ましたね。
  話が前後しましたので分かりにくいかもしれませんが、今までの話の中で一番古いのがニューインナーの不透明パッケージ、次が三ツ矢サイダーや甘栗むいちゃいましたの透明パッケージあるいはパッケージレス、その次がスティフィットや聞茶の不透明パッケージの順です。
  聞茶の後も不透明パッケージの流行は続きました。
  2001年12月にセブンイレブンが「こだわりおむすび」を売り出しました。結果は大ヒットで1年で1億個近く売り、02年の日経MJ賞にも選ばれました。
  こだわりおむすびには、コンビニの他のおにぎりと違っているところが二つあります。一つは価格の
高さです。160円します。それまでのおにぎりが100円から120円、高くても130円止まりでしたからかなり高い。‘02年12月に売り出された「カニ飯おにぎり」にいたっては200円です。
  これは消費者の価格感度が低くなる[キリギリス]の流行が関係しています。価格感度が高い時期ですと、高い食材を使って、コストをかけて作っているのだから、高いのは当たり前だという理屈を消費者が受けいれてくれません。
  キリギリスの流行要因については、このページでお話ししたいことから外れますので、これ以上深入りしません。高価格商品の流行に興味のある方は、ここと同じサブページの低価格志向は続かないをご覧ください。
   「こだわりおむすび」には価格のほかにもう一つ特徴があります。包装紙が不透明で中が見えない
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ー4段目−
ことです。これまでのコンビニおにぎりは透明包装でした。なかが丸見えでした。それを不透明包装にすることで高級感を出しました。スティフィットと同じですね。
  食品の包装を不透明にすることは良い点と悪い点の両方があります。不透明ということは光を通しにくいわけですから、食品が変質しにくいといえます。もっともコンビニのおにぎりの場合回転が速いからあまり関係ありませんが。
  欠点は、中が見えないのでお客さんが商品を判定しにくいことです。変質しにくいといったってしないわけじゃぁないんだし、仮に変質していても分からない。
  ようするに良いところも悪いところもあるわけで、お客がどちらに評価するかは、そのときの流行のタイミングで決まります。消費者は新鮮に見えていれば長所のほうを、そうでなければ欠点のほうを言います。
  で、これからどうなるかですが、
不透明パッケージの流行はもう終わりです。コンビニのおにぎりで、普通の価格のものにも不透明包装を採用したおにぎりが出てきています。つまり、値崩れしたわけ。不透明包装がすでにステイタスではなくなりました。
  おれんとこは特別に遅いぜという人は別ですが、そうでない人は、これから不透明パッケージを検討したのでは、市場の変化に間に合いません。これから考えるんだったら、開放系の流行に合わせたパッケージにすべきです。
  開放系に合わせるって言ったって、透明包装だけが答じゃありませんよ。先ほどのおにぎりで言えば、いまさら透明包装しても新しくありませんものね。
  包装しないというのも開放系の時期にはヒットします。コンビニでは難しいと思うかもしれませんが、おでんは裸で売っているんですからやれないことはないと思います。
  昔の開放系の流行期に、おにぎり屋がおにぎりの具を、ご飯の中ではなく
外側に飛び出させたことがあります。これは「ご飯むいちゃいました」状態になるわけですから、開放系の流行にあっています。
  
この文、03年2月20日、記。
 
     
(次は、「大胆予測! ファッションビジネス」)
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03/2/20