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      第6章 [エレガンス]と[カジュアル]もしくは[束縛]と[自由]

        6 消費者は部分で採点し、全体で評価する

          一つの循環要因だけで行動する人はいません。
カジュアル度の調整にコトバを使う
  書籍にとって、「自由」の活性期には話し言葉を使うことが有利になります。ただ有利にはなりますが、話し言葉にすれば機械的にベストセラーが作れるわけではありません。それと、「自由」の活性期でないときに話し言葉を使うと、機械的に売れなくなるわけでもありません。
  理由は2つあります。1つは、消費者は本を買っているのであって、〔自由・束縛〕の循環要因を買っているわけではないということです。ある特定の本が売れるかどうかは、たくさんの循環要因が関係しています。重要なものだけでもいくつもあります。〔自由・束縛〕はそのなかの1つにすぎません。
  話し言葉になっているかどうかだけでは本の
 
売れ行きが決まらない理由の2つ目は、その本が〔自由・束縛〕のどちらに属するかは、文体だけでは決まらないということです。文体以外の部分が極端に「束縛」なら、話し言葉を使っても、その本は「自由」になりません。
 
  そういう例を出しましょう。1987年5月に河出書房新社より刊行されベストセラーになった俵万智さんの短歌集「サラダ記念日」です。口語体で書かれているのが新鮮でした。
  短歌は、大多数の人にとっては極端なエレガンスです。それも「エレガンス」の活性期でも読みたくないほど極端なエレガンスです。タテマエは違いますよ。「短歌は日本の美しい伝統文化で、ああだこうだ」というタテマエなら、短歌はいつだって
 
読むだけの価値があるものです。でも、消費者が本を買うかどうかはタテマエではありません。自分のサイフからお金を出すのですから、全部ホンネです。大型書店へ行っても、短歌の本がそれほど置いてないのを見てもわかるように、金を出しても読みたいという人はごくわずかです。
  「サラダ記念日」は、その短歌を口語体で書くことによって、お金を出してもいい本、ホンネでも読みたい本になりました*1。それでも売れたのは、若者でも「エレガンスとカジュアルの中間」、年配なら「エレガンス」の時期でした。
  これはサラダ記念日と同じ年の8月に河出書房新社より出たベストセラー「桃尻語訳枕草子(上)」も同じです。訳者は「桃尻娘」を書かれた橋本治さんです。「枕草子」は、大多数の人にとって、
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−トレンド予測 145段目−
学校で習ったことはありますが、卒業してからは、金を払ってまで読みたくはないものです。それを、現代の女子高生の話し言葉に直訳することによって、エレガンス過ぎるのを中和して、若者で「束縛と自由の中間」の時期なら金を出しても読みたいものに変えました。
  この2つの例では、話し言葉は、「自由」の活性期にヒットできるようにするだけの力がありませんでした。ただし、「束縛」の活性期にも売れないほどエレガンスになりすぎているものを、「自由」の活性期でなければ売れるようにしました。
  このように、話し言葉を使っているかどうかだけでは、〔エレガンス・カジュアル〕の機械的な判定はできないのです。
 
  短歌、将棋、日本そば、緑茶、日本酒、剣道、着物、畳のように、純和風と思われているものの多くが長期的には右肩下がりになっています。原因はいくつか考えられますが、そのうち、歴史が古いためにエレガンスになりすぎたという部分は対処のしようがあります。
  たとえば、ここ数十年の間に何回か和服ブームが起こっていますが、
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そのどれもがカジュアルな和服のブームでした。甚兵衛のブーム、ニュー着物のブーム、浴衣のブーム、古着のブーム、どれも、和服のテリトリーの中ではカジュアルです。
  あなたが和物業界のリーダー
*2なら、苦戦の原因はエレガンスになりすぎていることにあるわけですから、目一杯カジュアル化させて、それまで関心の薄かった人にフアンになってもらえるようにすべきです。
 
*1 ……になりました。 
 『サラダ記念日』は、他の出版社から出す話もあったが、その出版社の代表がノーと言ったためダメになった。その社長は俳人だったので、短歌に対するエレガンス度の感覚が一般の人と違っていたのであろう。
 
*2 業界のリーダー
 業界がエレガンスになり過ぎる理由には、その団体のリーダーが、エレガンスを自己保身に利用するということもある。
 
08/11/18転載
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