理詰めのトレンド予測 ウエブ版                                            トップページへもどる目次へもどる

     第1章 流行の原因には[特定要因]と[循環要因]の二つがある
     2 クールビズだけでは、ノーネクタイにならない
      大義名分は流行の原因ではありません。
権力も経済情勢も流行を作れない
狂牛病ショックやチクロショックでわかるように、特定要因だけで起こっているように見える流行にも、 循環要因が関係している場合がたくさんあります。たくさんというより、ほとんど全部といってよいでしょう。
  そう私が言うと、あなたはこう聞いてくるかもしれません。
  「じゃあ、『クールビズ』はどうなの。 あれも循環要因が関係していると言うの?
  温室効果ガス削減のために、環境省が夏のノーネクタイ、 ノー上着ファッションを提唱したよね。 その愛称を2005年4月に公募し、発表したのがクールビズだ。小泉首相だってネクタイを取り、シャツのボタンを外してテレビに出ていた。

そしたら、オフィス街でも、 ネクタイを付けずにシャツの第一ボタンを外している人をたくさん見かけるようになった。総務省の家計調査でも、 紳士物ワイシャツの6月の出費が、前年の5割増だったって、新聞に書いてあった。あのクールビズの運動は特定要因だよね。」
  むむ、そうきましたか。 それではお答えしましょう。 2005年の夏にノーネクタイのサラリーマンが増えたのは クールビズだけが原因ではありません。ノーネクタイは2005年夏のファッションだったのです。つまり、循環要因がノーネクタイを支持していたのです。
  だって、2005年の夏にネクタイを外したサラリーマンのなかには、 長袖の人もいれば、ジャケットを着ている人もいました。 冷房を弱めても大丈夫なように涼しく着るのが、ネクタイを外した本当の理

由だったら、これは矛盾しています。
  ネクタイ業界の苦戦は2005年のクールビズからではありません。 かなり前から続いています。クールビズ以前にも、 ネクタイ問屋の売り上げは毎年減少を続けていました。なかには経営破綻したところもあります。
  つまり、サラリーマンがネクタイをしない流行は、かなり前からあったわけです。 ただ、サラリーマンは、ネクタイをしているかどうかで企業に対する忠誠心を計られていますから、「新鮮だ」「カッコいい」ぐらいの理由ではうかつにネクタイを外すわけにはいきません。それでクールビズ以前のノーネクタイは静かなブームとならざるをえませんでした。
  クールビズの前からネクタイを外していた、流行の先がけサラリーマンは、温室ガス効果削減に協力するためにノーネクタイになったわけでは ありま
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−トレンド予測 10段目−
せん。その証拠に彼らは冬でもノーネクタイでした。  ネクタイを外していた人はもちろんのこと、ネクタイを外すことをためらっていた人も、「ネクタイを外したい」とは思っていたわけですから、ネクタイの買い控えをしました。だから、ネクタイ業界に元気がなかったのです。
  同じビジネスウエアでも、 女性の場合は、「着ている物で、企業に対する忠誠心を計られる」という恐怖が、男性に比べて相対的に弱いですから、着るものの変化がもっと大胆に起きています。スーツを着ているOLなんて、このごろはほとんど見かけなくなりました。リクルートスーツを着ている学生を街で見たときの違和感は、男子学生を見たときより女子学生を見たときのほうが大きいですよね。
  このように今まで、 大多数のサラリーマンは、ネクタイを外すことをためらっていたのですが、そこに突然現れたのが「クールビズ」だったのです。ネクタイを外すのが正義だと、 政府がお墨付きをくれました。 それが、 サラリーマンに、ネクタイを外して胸元を広げる勇気を与えました。
  つまり、政府が「クールビズ」と言ったから、

言い訳を作ってあげる

サラリーマンはいやいやネクタイを外したのではなくて、ネクタイを外せない理由をクールビズが取り去ってくれたから、 喜んで、あるいは恐る恐るネクタイを外したわけです。「軽装にしたい」という循環要因*1があり、そこにクールビズという特定要因が加わったので、ネクタイをしない人が一気に増えたのです。
  カジュアル化といっても、ホリエモンことライブドアの堀江社長が着ていたTシャツなどと比べると、サラリーマンがやっているノーネクタイなどはカワイイものです。
  では、 循環要因に支持されていなかったら、クールビズはどうなっていたでしょうか。地球温暖化ガス削減運動という特定要因だけだったら、サラリーマンはどうしたでしょうか。
  その実例があります。クールビズの26年前に、政府が提唱した「省エネルック」です。
  1979年に起きた第二次石油ショックの時、原油が高騰して経済がガタガタになるというので国中が大騒ぎになりました。当時の政府や 国民のせっぱ詰まった危機意識は、 現在の、温暖化ガスがどうのこうのという話の比ではありませんでした*2。なにしろ、原油が高す
ぎて買えなくなるという事態が、これからすぐにこるというのですから大変です。
  電力消費量を減らすため、ネオンサインが消えました。テレビが夜の12時までに、終電も11時過ぎまでに規制されました。
  政府は、 エアコンの消費電力を減らすため、冷房温度を28度に上げることを奨励しました。そのために、半袖の「省エネスーツ」を普及させようとしました。当時の大平首相とその取り巻きは、今回の小泉首相とその取り巻きがネクタイを外したように、半袖の省エネスーツを着てテレビに出ました。
  結果は、 今回のクールビズとはかなり違っていました。省エネスーツは全く売れませんでした。 当時、国策半ソデスーツを売り出した小売店は、そのあまりの人気のなさにアゼンとさせられました。その空振り三振の見事さが伝説となって、 いまだに語り継がれているほどです。
  社会的事件が起きても、経済情勢がどうなっても、権力者が何を言っても、 循環要因が支持していないものは売れません。特定要因だけではダメなのです。
  狂牛病発覚ショック、チクロショック、クール
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-トレンド予測 11段目−
ビズ、省エネルックのどの場合も、流行を起こした、あるいは起こさなかった原因は循環要因です。特定要因は、循環要因だけだったら小さかったはずの流行をオオゴトにしたに過ぎないのです。
 
  あなたに政治力があって、政治家や役人を動かせたとしても、それだけでは流行は起こりません。昔、採炭業界の強い政治力は有名でしたが、その政治力は、化石燃料の人気が石油へ移るのを防げませんでした。
昔、着物業界の政治好きは有名でしたが、その政治好きは、着物業界の衰退を防げませんでした。苦しくなると政治に頼りがちですが、トレンドを無視しての逆転ホームランはありえません。
 
  トレンドが変化すると、 多くの場合それを正当化する理屈ができます。消費者は正当化されるのが好きですから、 流行がさらに大型化します。自ら進んで正当化に荷担することは、 あなたに利益をもたらします。でも、それが流行の原因であると勘違いしてはいけません。 大義名分で流行を作ることはできません。大義名分にできるのは、小さな流行を大きな流行にすること
です。
 
(続く) 
 
07/05/15転載
08/06/02更新 
 
 
 
*1……という循環要因 これを筆者は「自由」と呼んでいる
 
*2……比ではありませんでした 当時の国内総生産に占めるガソリン消費額は、今の約1.6倍。
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは
    「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7

第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4

 
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