理詰めのトレンド予測 ウエブ版                          トップページへもどる 目次へもどる

 第5章 [アリ型人間]と[キリギリス型人間]は
    交互に現れる

  1 ソニーの社長も認める流行循環
      耐久消費財には好不況サイクルがあります。

買うのも流行、買わないのも
  流行

  景気の循環には、経済全体の動向と関係するものと、特定の業界だけのものがあります。テレビや新聞に出てくる景気は、たいていは日本経済全体の話ですね。「日本経済の景気がどうのこうの」とか、「世界経済の動向がああだこうだ」なんていう話は複雑すぎて、とても私の手に負えませんが、特定の業界だけの景気でしたら、ある程度の予測が可能です。
  その一例が、前の話に出てきた、ファッション業界の景気と〔同一視・対立視〕の相関関係です。〔同一視・対立視〕の循環がわかっていると、ファッション業界全体はもちろんですが、それを細分化した各業態の好不調も予測できるようになります。
 
  〔同一視・対立視〕の話しが続きましたので、別な循環要因の話に移ります。今度も抽象概念の流行です。
  ここで取り上げるのは、〔アリ・キリギリス〕で、これは家電業界の景気と関係の深
い循環要因です。家電業界の景気変動の原因が何であるかという話は後でしますが、家電業界に、世間の景気とは別な独自の循環があるという考えは、私だけのオリジナルではありません。かなりの人が気づいていることです。次の文は日経流通新聞1992年8月11日付3面に載った会沢記者のリポートです。当時はバブル崩壊直後でした。
  「
家電製品の販売不振が一層深刻さを増している。VTRを筆頭にしたAV(音響・映像)機器の不振に追い打ちをかけるように主力のエアコンが失速。さらに需
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−トレンド予測 98段目−
要の安定していた洗濯機や冷蔵庫などの白物家電までが前年比二ケタ減の状態に陥るなど、家電製品はそうくずれとなりつつある」 
  「
『伸びは低いが買い替え中心の安定した需要を見込める』。こう言われて久しい白物三品が、ここへ来て、息切れを起こしたのは『白物には独特の買い替えサイクルがある。ほぼすべての白物製品がその循環の下降局面に入った結果だ』――松下電器産業・電化本部ではこう分析する。
  例えば、洗濯機の場合。一槽式から二槽式に主力商品が移行した昭和五十年代前半に需要が飛躍的に拡大し、年間出荷台数は三百万の大台を突破した。それから約八年ほどで今度は全自動洗濯機に主役がかわり、八七年には四百万の大台を突破している。
  このように技術革新の伴った商品の入替わりによって、ある時期に一気に市場が膨らみ、三−四年の普及期を経てから、次世代商品が登場するまでのなぎの期間≠ノ突入する。
洗濯機と二〜三年のタイムラグはあるものの、電子レンジや掃除機などの白物家電はおおむね同じような循環の軌跡を描くようだ。
  八七年の四百万台突破から九〇年の五百万台突破までの四年間は全自動洗濯機のまさに普及期。掃除機や電子レンジなど他の白物もほぼ同じ時期に循環のピークを迎えている
」(同)
  二槽式洗濯機が売れていた1970年代後半は冷蔵庫も売れていて、1978年・79年がブームのピークだったと記録にあります。
初代ウォークマンが発売になったのが、1979年7月ですから、これも同じ時期の商品です。
  洗濯機、電子レンジ、掃除機というように、違う用途の商品でもほぼ同じ循環を描くのは、循環する原因が共通だからです。それぞれの分野ごとのデザインや機能の話とは独立した原因が共通に働いています。 
 なお、記事の中にある、買い替えサイクルが白物独特だというのは誤りです。記事中にも、AV(音響・映像)家電が先に落ちたとありますね。「生活必需品だから買わざるをえない」と消費者が思っている白物家電より、AV(音響・映像)家電のように、無くても困らないがあるとうれしい選択的消費型家電の方が、むしろサイクルがはっきりしています。
  ソニーの出井伸之さんは言います。
『AVは七〜十年周期のサイクルで好不況があり、今はちょうど上昇期』と出井社長は語る。」(日本経済新聞1996年8月1日付「ビジネストレンド」より)
 ヤマダ電機社長の山田昇さんも似たような発言をしています。 
  「『テレビは七、八年周期の買い替えに当たっているし、DVDレコーダーも普及率からみて拡大の余地が大きい。」(日本経済新聞2004年9月6日付3面13版「月曜経済観測」より)
  松下電器産業家電本部、ソニー社長(当
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−トレンド予測 99段目−
時)、ヤマダ電機社長の話を総合するとこうなります。
  「家電には好不況のサイクルがあり、周期は八年前後である」
じつは、この八年前後のサイクルを持っているのは家電だけではありません。自動車などを含む耐久消費財全体が持っているサイクルです。

  「千葉トヨペット(千葉市)の勝又基夫社長は『団塊ジュニアが動き出せば、自動車不況立ち直りのきっかけになる』と語る。
  国民所得統計をみると耐久消費財の消費には十年程度のゆるやかなサイクルがある。家計の可処分所得に対する耐久消費財支出の比率は谷に当たる年で四%、ピークの年で六%程度の波を描いている。七二年前後、七九年前後、八八年前後が波のピークなので、そろそろ底を打つ時期に入るという説だ。」
(日本経済新聞1993年2月7日付1面13版「平成不況出口を探る」より)
  やはり8年前後の周期ですね。 
  消費者が物事を長期的に計画的にみる時期があります。この時期を私は「アリ」と呼んでいます。イソップ物語の「アリとキリギリス」のアリです。一方、消費者が物事の先を考えずにセツナ主義的になる時期があります。こちらは「キリギリス」と呼びます。「アリ」と「キリギリス」は循環要因の一対のカップルで、交互に流行しています周期は約7年半です。ただしこれは抽象的概念の流行ですので「7年半」という数字はそれほどの精度がありません。大体の数字とお考えください。
  「アリ」の時期の消費者は先々のことを考えるので、現金は、現金のままか、すぐに現金に戻せる形で持っていようとします。つまり、締まり屋、渋ちんになります。締まり屋ですから、耐久消費財は長く持たせて使おうとします。
  いつも見ているテレビの調子が悪くなったとき、あなたならどうしますか。我慢してそのまま見ている、修理を頼む、同レベルのテ
レビと買い替える、いい機会だからとサイズの大きな豪華なテレビを買う。
  「アリ」の時期は、なるべく買い替えないで済まそうとする人が増えます。これが、セツナ主義の「キリギリス」になると、先々の現金より今のうれしさの方を優先させますから、豪華なテレビに買い替える人が増えます。もっと極端な人では、今までのテレビがなんともないのに豪華なテレビに買い替えます。
  これは、乗用車でも同じですね。同じ車を乗り続けて、もう修理のしようがないところまで乗りつぶす人はまれです。調子が落ちたから、飽きたから買い替えるという人がほとんどです。私の弟は、ゴムパッキングの性能が落ちたことを、新車に買い替える理由にしました。
  だれでも、自分が持っている車を一番気に入っているのは買った直後です。そこから時間がたつにつれてだんだん飽きてきます。かわりに、つぎつぎと登場する新車が魅力的に見えてきます。
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−トレンド予測 100段目−
今持っている車はまだ動きます。でも飽きてきます。もし新しい車が手に入ったらうれしいです。でもお金がかかります。その時が「アリ」の時期なら、今の車をガマンして乗り続けようとする人が増えます。「キリギリス」なら、新車に買い替える人が増えます。同じ買い替えるのでも豪華な車に買い替える人が増えます。遊びの要素の強い車に買い替える人も増えます。それで、自動車業界の景気は、7年半のサイクルを持ちます。
 
  耐久消費財には循環がありますが、耐久消費財は循環要因ではありません。つまり、「アリ」の時期だからといって、耐久消費財そのものが嫌われるわけではありません。あなたが耐久消費財を扱っていて、「アリ」の時期になり売れなくなったら、価格はみずから率先して下げましょう。ローンは金利を下げ返済期間を短くしましょう。現金で買う客を優遇しましょう。修理やメンテナンスで利益をあげることを考えましょう。
 
(続く)
 
 
07/12/11転載
   
 
 
[同一視・対立視]の年表 
 
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いつ買うか?今でしょ!
 
 
            
 
 
 
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目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4
―――100―――第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる――――ファッション予測と流行予測、次へ