第5章 [アリ型人間]と[キリギリス型人間]は交互に現れる
4 テレビ番組、書籍、電子ゲーム、オモチャの流行を、
同じ要因で予測する 〔アリとキリギリス〕は、長期的に物事を考えるか、それとも刹那主義になるかの循環要因です。
|
いまと先の両方で評価するか、
いまだけで評価するか これまで価格の話しが続きましたが、価格感度そのものは循環要因ではありません。価格感度の高低がうんぬんというのは、〔アリ・キリギリス〕と相関が強いというだけで、間接的なものです。
アリの時期は、長期的に見て得する商品ならば、高価格であっても消費者は買います。たとえば、省エネ家電は、省エネのために特別な技術を使い、特別な仕組みを採用した家電ですから、一般のものより割高になります。そのかわり、価格が高い分は |
|
何年かすると回収できて、それ以降は、電気使用量が少なくてすむ分だけ得になります。短期で損して長期で得する商品ですから、アリの時期に人気が出ます。 2005年11月発売の洗濯乾燥機「NA−VR1000」は、その徹底した節約ぶりで人気が出ました。 「『主婦が欲しい家電』の上位にランクされる洗濯乾燥機。その中で、競合製品より二割程度高いのにもかかわらず人気を集めているのが松下電器産業の『NA−VR1000』だ。開発を担当したのは国内ドラム洗設計チーム主任技師の朝見直さん(36)。入社以来一貫して洗濯機 |
|
の開発に携わってきた。 エアコンで使われるヒートポンプと呼ばれる熱交換システムを採用したのが特徴。ヒーターで暖めた熱風を吹きかけて乾燥させる従来製品に比べて電力、使用水量を半減、主婦の節約心をくすぐった。」(日本経済新聞2006年3月20日付17面「旬の人」より) 今回のアリの時期には、この洗濯乾燥機以外でもさまざまな高機能高価格白物家電が売れました。次の文はその背景は何かという話です。 「新しいタイプの節約説も有力だ。高機能の白物は標準品に比べ割高だが、長 |
|
−トレンド予測 115段目− | |||||||||||
い間使うと得になるケースが意外に多い。消費者はそこに目をつける。 シャープのノンフロン冷蔵庫。十一年前の機種と比べ年間消費電力は約八四%減った。同社が昨年十一月に約三千人を対象に実施したインターネット調査では、購入理由のうち『経済的だから』と挙げた人は三八%。半年前より一三ポイント上昇した。『購入時の価格だけでなく長期にわたるコストを見極め始めた』と坂本実雄冷凍システム事業部マーケティング部長。 主婦が欲しがる家電製品をきくと上位に入る食器洗い乾燥機は5万円以上が主流。決して安くないが、例えば松下電器産業の最新鋭機種だと手洗いに比べ、使用水量は約十分の一で水道代が浮く。サイクロン掃除機も紙パックがいらないため年三千円程度節約できるという。一見ぜいたく、長い目で見れば得。そんな消費行動の進化に技術革新がこたえ始めた」(日本経済新聞2004年 |
|
1月31日付「けいざい探検」より) 次の例は、やはり、価格が高いけれど長く使えるから結局得になるというタイプの商品です。 「新生児から小学校低学年まで一台で対応できる、コンビのチャイルドシート『プリムロング』の売れ行きが好調だ。店頭実勢価格は三万六千−四万五千円と、チャイルドシートとしては最高価格帯だが、昨年七月の発売以来、販売台数は毎月増え続けている。年間三万五千台売れればヒットといわれるなか、年間五万台を超えそうな勢いという。 法律でシート使用が義務づけられているのは六歳未満の子供。これまでの製品は対応年齢の幅が二〜三年のものが多く、成長に伴い、二〜三回買い替える必要があった。プリムロングは六歳児が座れる土台を利用、乳児の間はインナークッションをはめ込んで体に合うようにし、大きくなるたびにパーツを外して座る場所を広くする方式を採用した」 |
|
高くても長い目で見れば得 |
|
(日本経済新聞2004年6月19日31面12版「ヒットの舞台裏」より) これからはキリギリスですから、こういう節約型高機能は評価されなくなります。つまり、価格に転嫁しにくくなります。 アリの時期のテレビ番組はただおもしろいだけでは消費者の支持が得られません。ためになる、利口になるなど、あとに何かが残ることが要求されます。今だけでなく、未来も含めて、番組の価値が計られるわけです。 現在はアリの時期に入ってすでに数年たっていますから、ためになる番組にすれば視聴率が取れることに、放送業界の誰もが気づいています。それで、「勉強・知識・教養」というキーワードを連想させる番組や、特集、コーナーが増えています。 今回の「お勉強」の流行で人気が出て、あちこちの番組に顔を出している人に、人気番組「行列のできる法律相談所」(日本テレビ)「笑っていいとも」(フジテレビ)などにレギュラー出演している「橋下徹弁護士*1」や、さまざまな番組 |
|
−トレンド予測 116段目− | ||||||||
でオモシロ実験をやって見せているサイエンス・プロデューサーの「米村傳治郎」がいます。
別にこの2人だけが人気というわけではなくて、同じ職業、似たような肩書きのタレントが何人もテレビに出演するようになっていますから、個人のキャラクターがどうのこうのというよりも、担当している分野がトレンドなわけです。 これがキリギリスの活性期になると、「番組はその時おもしろければいいんで、後のことは知らないよ」というふうに、視聴者の考えが変わります。そのため、インテリからみるとくだらない番組が視聴率をとるようになります。ですから、低俗番組が人気になる時期も7年半に1回の周期で繰り返し起こります。つまり、これから数年間のキリギリスは低俗番組の当たり年です。 アリの活性期になると、知識や教養がつくものが支持されますが、それはテレビ番組だけではありません。書籍でも同じです。 このごろは教養新書が元気です。養老孟司の「バカの壁」、樋口裕一の「頭がいい人、悪い人の話し方」、山田真哉の「さおだ |
|
け屋はなぜ潰れないのか?」、三砂ちづるの「オニババ化する女たち」、高橋哲哉の「靖国問題」など、ベストセラー、ミリオンセラーが続出しました。アリの活性期と重なっていたからです。
教養新書は、今回も当たりましたが、1つ前のアリでもブームがありました。山が2つ並んだ流行でした。 「教養新書の元気がいい。ミリオンセラー続出の中で目立つのが、山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』といった意表をつくタイトルの本。毎月70、80点の新刊が競う新書戦争を勝ち抜こうと、編集の現場はどんな知恵比べをしているのか。(佐藤憲一)」(読売新聞2005年9月14日付夕刊5面2版より) 「最近の新書ブームの火付け役は、2年前の新潮新書創刊ラインアップの一冊で、400万部を突破した養老孟司『バカの壁』」(同) 「教養新書は、岩波新書、中公新書、講談社現代新書の"御三家"の天下が長く続いたが、この10年間、新規参入組や、ハウツー系の実用新書からの転身組が |
|
相次ぎ参入、今や20以上のブランドが乱立する戦国時代だ」(同)
新潮新書は、1回の表、初球でいきなりホームランを打ちました。これが2003年4月です。その後も得点を重ね、今回の新書ブームを代表する成功組になっています。 教養新書は、安いというてんでも、アリの時期に有利な商品です。 ゲームにも、今と未来の合計で価値を評価するタイプがあります。ゲームの場合、得するというよりおもしろさです。「自分が今やっているゲームは、単に今おもしろいだけでなく、続けることで将来さらにおもしろくなるだろう」と想像させるゲームです。 昔の子供がよく遊んだメンコやベーゴマは、集めて次の機会に使ったり、交換したりする楽しみがありました。つまり、対戦・収集・交換ができました。今日が楽しいだけでなく、明日はもっと楽しくなるだろうと期待ができました。 近年になって盛んになったカードゲームは、この対戦・収集・交換ができる物が多いですね。ということは、トランプや花札よりもメンコに近いことになります。 |
|
−トレンド予測 117段目− | ||||||||
前回のアリの活性期に子供たちの間で大ヒットしたアリ型ゲームは、任天堂の「ポケットモンスター*2」です。ポケットモンスターの場合、カードゲームは脇役で、ゲームボーイソフトが主役でした。でも、対戦・収集・交換ができましたから、形がカードになっていないだけで、実質はメンコ型カードゲームの仲間です。
今回のアリでは、子供たちの間で、カブトムシを戦わせる「甲虫王者ムシキング」というカードゲームが大ヒットしました。これも対戦・収集・交換ができます。セガが開発して、2003年1月から全国展開し、カードがすでに3億枚以上出荷されています。 アリ型にもっと極端に特化したゲームもあります。ポケモンと同じ前回のアリの活性期に大ヒットした、バンダイの「たまごっち」です。1996年に発売され、女子高生を中心に、2年間で4000万個売れました。でも、キリギリスになって急激に落ち込み、バンダイは大量の在庫に苦しみました。 たまごっちは、ゲーム機の中のキャラクターを、時間をかけて育てる遊びです。キャラクターは、架空であっても生き物です |
|
から育て上げるのに時間がかかります。ゲームは当然その日のうちには完結しません。何日も、何週間も、延々と続きます。
2005年までの数年間は、たまごっちが大ヒットしたアリの活性期のその次のアリです。それで、2代目たまごっちが人気になりした。それは、2004年3月に発売された「たまごっちプラス」です。初代たまごっちの人気が一部で回復していると聞いて開発したそうです。遊んでいるのは前回の大ブームを知らない小学生が中心です。 小学生は超ヤングですから、当然流行はオールド世代より早くなります。ヤングのこれからはキリギリスでしたね。たまごっちに次の氷河期がやってきました。せつな型ゲームで食いつなぎ、アリがまた復活するまで待ちましょう。 ニンテンドーDS向けで、たまごっちに似ているゲームがあります。2005年11月に発売され、短期間に200万本以上売れた「おいでよどうぶつの森」です。 このソフトでは、ゲームの中の時間の流れ方が現実の時間の流れと同じです。つまり、動物の森という仮想世界で1年間遊ぼう |
|
とすると、ゲームをする人間も1年の間、そのソフトとつきあいを続けなければなりません。現実の世界の1年後まで考えてゲームをするわけですから、「アリ」の活性期にふさわしいゲームソフトです。
発売が2005年11月ですから、「アリ」の流行の末期です。こういう商品は買った人の平均年齢が高くなりますし、流行が終わった後に定番として生き残る能力が、流行の初期から出ている物より落ちます。 同じ、ニンテンドーDS向けで、先ほどのテレビの場合と同じお勉強タイプのアリ型ソフトでは、東北大学未来科学技術共同センターの川島隆太教授が監修した「脳を鍛える大人のDSトレーニング」があります。これが出たのが2005年5月です。12月には第2弾「もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」が出ました。テレビCMで女優の松嶋菜々子さんがやっていたゲームがこれです。両方合わせて数百万本も売れました。 この「脳を鍛える」というネーミングは、2003年11月に出版された「脳を鍛える大人の計算ドリル」という本からきています。こちらも大ベストセラーで、シリーズ全体で |
|
−トレンド予測 118段目− | ||||||||
300万部を超えています。これからも分かるように、「そのときだけのアハハで終わらせたくない。将来に実のあるものを残したい」という流行はすでに何年も続いています。
玩具大手のタカラとトミーの合併、バンダイとナムコの経営統合と玩具業界の再編がマスコミで話題になりました。玩具メーカーはどこも生き残りに必死です。 アリの時期になるとオモチャの業界が不況になります。オモチャは、子供にとってはうれしいもの楽しいものですが、親からみると「オモチャで遊んでばっかりいないで、もっと将来のためになることをやって欲しい」と文句を言いたくなる商品です。それで、先々のことを考えるアリの時期になると、オモチャの買い控えがおきます。 アリの時期にオモチャが嫌われるのは、楽しいかもしれないが、後に何も残らないと思われているからです。現在だけでなく、現在と未来の合計で価値を計られると、オモチャの評価が落ちてしまいます。 ということは、アリの時期のオモチャは、テレビ番組と同じで、勉強になり、知識を |
|
付け、教養を高められるとうたえば売れるわけです。こういうオモチャを「知育玩具」と言っていますね。 数字やひらがなを覚えられるオモチャ、カンタンな英語が話せるようになるオモチャ、創造性をはぐくむオモチャ、情操教育になるオモチャ、パソコンの簡単な操作が覚えられるオモチャなど、知育玩具にもいろいろなタイプがあります。私の子供のころからあるレゴブロック*3は、最近のコマーシャルを見ると、今はオモチャとしての楽しさを強調していますが、昔は知育玩具でした。 知育玩具といっても、今が楽しくなければオモチャではありませんし、おもしろいオモチャなら、知育玩具でなくても、集中力が付くぐらいの効能はうたえます。程度の差はあっても、たいていのオモチャは、「おもしろい」と「ためになる」の両面を持っています。そのときがアリなのかキリギリスなのかで、強調するポイントを変えてやれば、どちらの時期も売りやすくなります。 アリの時期の親は、子どもの将来を考えますから、本をたくさん読んでほしいと思います。 |
|
それで、オモチャを買い与えるのは渋りますが、本を買い与えることには熱心です。
「『ハリー・ポッター』がけん引してきた児童書市場のすそ野が広がっている。新刊発行点数は五年あまりで三割以上、伸びた。大手書店チェーン各社は相次いで児童書売り場を拡充、親子で絵本を読めるコーナーを設けるなど工夫する」(日本経済新聞2006年1月21日付31面12版より) 「こうした動きの背景には子供の「知育」への関心がある。文部科学省が昨年一二月、まとめた二〇〇四年度の『子供の学習費調査』によると、公立小学校に通う児童が教養を高めることを目的に単行本や文庫本などを購入する費用は一人あたり年間四千五百三十四円。前回調査(〇二年度、四三二九円)に比べ約五%増えた」(同) これから、アリとは逆の「キリギリス」の活性期に入ります。ですから、知育への関心は今までより落ちてきます。まだこれからも続くようにみえるのは、ゲームメーカーや出版社の強気を実需と勘違いするからです。 |
|
−トレンド予測 119段目− | ||||||||
もし、あなたが出版社の人間で、児童書を扱っていたとして、キリギリスの活性期に入ったときにはどうしたらよいのでしょうか。簡単ですね。アリの時期になりオモチャが売れなくなったとき、知育玩具は逆にヒットしました。だったら、キリギリスの時期になり、児童書が売れなくなったら、「知育にならない児童書」を出せばヒットします。
具体的にいうと、「かいけつゾロリ」シリーズのような、面白くて楽しい本です。これからのあなたは、親が喜ぶ本より子どもが喜ぶ本を出版すべきです。 (続く) * 橋下徹弁護士 弁護士というとお堅いイメージだが、彼は茶髪のロングヘアでいつもカジュアルなウエアを着ている。これも売れた理由の一つ。それで「自由」という循環要因の活性期に人気が沸騰した。「自由」については第六章で説明する。 |
|
* ポケットモンスター
略称は「ポケモン」。1996年に発売された。翌年の97年にアニメ化され。ブームのピークを迎える。12月にアニメを見た子供がけいれんを起こしたと問題になり、約3ヵ月間放送が止まった。にもかかわらずゲームの人気は続いた。 * レゴブロック 日本に入ってきたのは1962年。当時はほとんどブロックだけだった。 08/2/8転載、10/06/27脚注転載 【関連ページ】 長期保証が購入を後押し。 省エネ扇風機 節電の夏、高価でも支持 「理詰めのトレンド予測 ウエブ版」1段目へ トップページへ |
|
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある 1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 / 第2章 「曲」と「直」で流行が変る 2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6 第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる 3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7 第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む 4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c 第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる 5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5 第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」 6-1/ 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8 第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由) 7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4 |
|