第5章 [アリ型人間]と[キリギリス型人間]は交互に現れる
5 [先憂後楽]型ビジネスと[先楽後憂]型ジネス
学習塾、資格検定、電子マネー、クレジットカード、サラ金、ポイントカード。
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これからの数年は、来年のこと
を言うと鬼が笑う 省エネ家電や教養番組、メンコ型カードゲーム、知育玩具などに共通しているのは、「先憂後楽」の考え方です。まあ、先憂というのはちょっと言いすぎですが、ようは今現在とともに将来も重視しているわけです。そういう点では、習い事とか資格取得のための勉強、受験のための予備校などはもっと極端なわけで、さらにアリ型になっています。とくに塾や予備校の場合は、ごく一部の生徒を除いて、それ自体が楽しい
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ということはなくて、将来のためだけに行くわけですから、かなりアリ型に片寄ったビジネスです。 「『子供を厳しく指導してくれると聞いたのですが』。新潟県にある『谷沢塾』に、こんな問い合わせが増えてきた。電話の主は小中学生の子供を持つ親たち。 この谷沢塾。大手の台頭に加え『私語禁止で、教室で友達と一言でもしゃべるとどなられる』との悪評≠ナ二年前までは生徒数が減り続けていた。悩んだ塾がとったのは、あえて指導の厳しさを訴えるチラシ作戦。『子供に迎合しない』 |
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『妥協なき厳しい指導』――。 中学三年生の息子の入塾を決めた風間直子さん(40)は、『生徒確保のためにやさしく接する塾より学力を伸ばしてもらえそうだから』と話す。今年入塾した生徒の数は前年の二倍だ」(日本経済新聞2004年3月30日付5面13版「経済心理学」より) ここまで極端な所は、アリの時期でないと経営が難しいですね。 ここ数年は資格試験ブームで、さまざまな種類の○○検定が続々できているそうです。検定に受かるという喜びと |
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実益のために、今現在をガンバるのですからやはりアリ型商品です。 供給側の思惑の強さは、流行している期間に比例しますから、その末期にピークが来ます。マスコミの報道もやはりその末期に過熱します。それを実際の流行と勘違いすると判断を誤ります。これからは「キリギリス」ですから、バブル*1も崩壊です。 ただ、塾や習い事、資格試験準備講座そのものは循環要因ではありません。だから、バブル崩壊のなかで生き残るものは必ずあります。崩壊が運命づけられているのは「アリ」という循環要因です。具体的な個々の講座や教室ではありません。 たとえば、短期で資格が取れる講座や1日だけの習い事のように、目標の達成が早いもの、あるいは、宴会とセットになっている料理教室のように、結果の達成とその結果を楽しむ行為が一緒になっているものは、うれしいことが |
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すぐに来るわけですから、キリギリスの時期に当たります。目標を達成することよりも、達成に至るまでの途中を楽しむことを重視するというのもキリギリスですね。 それに、別な循環要因で当てることもできます。たとえば、その時が対立視の活性期ならば、専門家向けをうたったり、講師のレベルの高さを強調したりすれば、それを怠っているところに勝てます。 先憂後楽型商品に、「ゴルフ会員権」や「リゾート会員権」のようなタイプもあります。将来の楽しみのために今大金を払うわけですから、アリの時期に有利なビジネスです。ただ、会員権は過去に投機の対象になったので、簡単な循環をもっていません。実需型需要のみが「アリ」の循環と相関をもちます。 このごろ電子マネーがよく話題になります。ICを内蔵したカードを使う「スイカ」や「エディ」が有名です。エディは2001年に導入されましたが、本格的に |
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スイカとテレホンカlドの共通点 |
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普及が始まったのはアリの時期に入った2003年からです。国鉄の切符の代わりになるスイカに電子マネーの機能が付いたのはさらに遅くて、2004年3月からです。どちらも急成長中ですが、今後も高成長が続くことが期待されています。 電子マネーといっても最初は本当の現金がいります。現金でカードを買って、そのカードで買い物をします。現金を払うのが先で、欲しいものを手に入れるのが後です。つまり、プリペイド(先払い)カードです。先憂後楽型になっていますね。 この電子マネーとよく似た商品がヒットしたことがあります。テレホンカードです。1982年12月に旧日本電電公社から発行され、2年で300万枚、6年弱で累計5億枚と、若者と女性中心に爆発的に普及しましたが、これは今から3周期前のアリの時期にあたります。当時は「二十世紀最大のヒット商品」と言われていました。 これも先にカードを現金で買って、 |
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電話を掛けるのは後です。後になりすぎて、この人は、電話をかけるときにカードがあることを忘れているのではないかと思える場合さえあります。
テレホンカードが爆発的に流行していてマスコミも騒いでいた1986年に私は、テレホンカードの流行の原因は何なのかと、喫茶店で友人と話していたことがありました。その時に思いついたのが〔アリ・キリギリス〕の仮説です。 プリペイド(先払い)カードが〔アリ・キリギリス〕と相関をもつかどうかではなくて、もともと、プリペイドカードの流行を説明するために作ったのが〔アリ・キリギリス〕なのです。その後で、価格感度の高低と相関が強いことに気づき、さらに耐久消費財の流行とも相関が強いことに気づきました。 本書では、〔アリ・キリギリス〕の説明を、耐久消費財の話から始めて、プリペイドカードまできましたね。ですから、仮説が拡大していった順番と本書の説明の順番は逆なのです。 |
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ここまでは「先憂後楽」型商品の話しでした。この逆のタイプもあります。つまり「先楽後憂」型商品です。このタイプの商品を代表するものは、なんといっても、クレジットカードでしょう。テレホンカードや、電子マネーとは逆で、商品を先に受け取って後で払います。短期的には楽しくて、長期的には楽しくない商品です。クレジットカードが急速に普及したのが1980年代半ばですから、直近のキリギリスより2つ前のキリギリスで大ヒットした商品です。
「先楽後憂」がもっと露骨な商品に「サラ金」があります。サラ金は、短期的にはクレジットカードよりさらに魅力的です。なにしろ、現金がいきなり自分のサイフに飛び込んでくるのですからこたえられません。でも、長期的にみると、こんなバカらしいものはありません。借りた金より必ず多く返さなければなりませんから、確実に損をします。 このようにサラ金は、消費者からみれば極端な「先楽後憂」型商品ですから、「キリギリス」の循環とかなり強い相関を |
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もっています。それも、業界の景気の良し悪しを〔アリ、キリギリス〕の循環要因だけで判定できるくらいに極端です。つまり、サラ金業界の景気には、7年半周期の循環があります。ここしばらくはアリの時期だったたので、サラ金業者にとっては冬の時期でした。それは専業大手の連結経常利益減や、大手銀行系消費者金融の伸び悩みなどに表れています。
次の文は、1989年6月ですから、バブル時代の話です。2周期前のアリの活性期にあたります。 「衰えをみせない個人消費ブームのカゲで、日本人のローン依存症が進行しています。サラ金、信販、クレジットカード会社を押しのけるようにして、銀行が個人向けの融資に本気で走り出しました。一九八〇年代初めに社会問題化したサラ金の高金利や、苛酷な取立ては鳴りを潜めていますが、借金漬けで破綻(破綻)する人の数は、このところ高原状態が続いています。 |
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個人消費ブームで、かつての『サラ金地獄』に似たローン禍が再びじわじわ広がりそうな気配なのです」(朝日新聞夕刊1989年6月10日付「ウイークエンド経済」より)
「融資競争−貸し倒れの多発−経営の悪化。日本の消費者金融の分野では、貸出競争によって消費者にローン地獄をもたらし、その結果発生した不良債権が、貸し手の金融会社の首をしめるというサイクルが繰り返されている。『最近の銀行の貸出競争は、ローン禍のサイクルが再現する恐れをはらんでいる』と、サラ金問題に長年取り組んできた大阪在住の木村達也弁護士は指摘する。 貸金業規制法(サラ金法)施行後、一九八四年に入って、過剰融資がたたって、中堅のヤタガイやエサカなどが倒産、大手のプロミスやアコムなども経営危機になった。個人融資を伸ばした大手信販会社も、去年三月期決算に大手七社で計千四百億円という |
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過去最大の貸し倒れ償却金を計上した。貸し出し競争の激化から、経営悪化まで二、三年の時間差があるのは、借り込んだ消費者がこの間、親類や知人から借金し利払いをしのぐなどして時間を稼ぐからだ」(同)
周期の話は出てきませんが、循環の存在を認めていますね。 銀行は、消費者金融各社がキリギリスの時期に儲けているのをみて、キリギリスの終わりか、アリのはじめに消費者金融業に参入し、貸出残高が増えなくて、あるいは貸し倒れが増えて苦戦するというパターンを何回か経験しています。 航空会社が、飛行距離に応じて、無料航空券などの特典を利用者に与えるマイレージサービスや、買った金額に応じてポイントを与え、そのポイント分だけ次回割引にするポイントカード*1、経営者や従業員に与えられる自社株購入権のストックオプションなどのように、将来の特典を約束して、望ましい行動を誘発しようとする手立てが |
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あります。2004年8月には大手銀行でもポイント制を導入させて成功したところが出ました。
こういった制度は、将来の特典を約束して、望ましい行動を誘発しようというわけですから、先々のことを考えるアリの時期に効果を発揮します。先の約束をしても関心が薄いキリギリスの時は経費倒れになります。 これからは「キリギリス」です。もしあなたが、こういったものの導入を検討しているのであれば、次の「アリ」が復活するまで延期した方が賢明です。 すでにやっているのであれば、対象客がキリギリスになった時点で、特典が得られるまでの時期を短縮しましょう。キリギリスの時期の消費者や従業員は、「明日の百より今日の五十」という考えに傾いていますから、特典を豪華にするよりも、特典を得るまでの期間を短縮する方を支持します。 |
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キリギリスの時期は、何かをしてもらったお礼、何かをしてあげた見返りは「今すぐ」が理想です。あなたが人に何かをしてもらったとき、何かをしてもらいたいとき、まるで動物に芸を仕込んでいるみたいですが、角砂糖はすぐに与えてください。
(続く) * 検定試験バブル 「忠臣蔵通検定」や「バカ検定」「オタク検定」」などというものまでできた。 * ポイントカード ポイントカードは発行する側からみれば債務だから後払い。消費者とは逆で、キリギリスのときのほうが魅力的だ。 [アリ・キリギリス]の年表 20歳レディス換算 【関連ページ】 買い方が変化 予定はスマホ任せ |
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第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある 1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 / 第2章 「曲」と「直」で流行が変る 2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6 第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる 3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7 第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む 4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c 第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる 5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5 第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」 6-1/ 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8 第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由) 7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4 |
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