理詰めのトレンド予測 ウエブ版                                 トップページへもどる目次へもどる
     第3章 デザインの流行は[上比長]と[下比長]に分かれる
        3 商品の浮沈に規則的な循環はない
           繰り返しているのはアイテムの種類ではなくて特徴です。
わからなくなったら全体で考える
  別紙(PDF2)の循環表に載っているそれぞれの時期のヒット商品は、「ショートコート」だ「ミニスカート」だ「ショートブーツ」だと、その多くがアイテムの種類で示してあります。限られた文字数では説明が十分にできませんので、アイテムで書いた方が分かりやすいですからね。
  でも、アイテムの種類に流行循環があるわけではありません。この章の初めにあったキュロットスーツの図を思い出してください。キュロットスーツというアイテムは上比長の時期にも下比長の時期にもヒットできましたね。
  ただ、それぞれのアイテムのこだわりと上比長と下比長の間に相関があるのも
事実です。
  たとえばジャケットは、ブルゾンなどと比べて丈の長い物が多く、ウエストの位置を下げて見せる効果があります。それで上比長のときにヒットすることが多くなります。が、ジャケットにも丈の短い物があります。スペンサージャケットライダーズジャケットボレロなどは、丈が短いのでスソの位置が高い場所にきます。それで、同じジャケットでも下比長のときに売れるアイテムになります。
  長めの丈のジャケットでも、胸の高さで生地を切り替えたり、肩にパッチを貼ったり、フラップ(フタ)付胸ポケットを付けたりなど、デザインを工夫することによって下比長に見せることは可能です。
  胸のあたりに横線が入るデザインは、
そこを基準にすると上側より下側の方が長くなりますから下比長に見えます。年表の1985年にある「●胸切り替え」や2000年の「●胸切り替えタンクトップ」はこの例です。胸に横線っぽいものを入れて下比長を表現するテクニックは、プリントTシャツでは当たり前のように使われています。胸の幅いっぱいに書かれた筆記体の英文などは、Tシャツではポピュラーなプリントですよね。あれも「下比長」です。下比長の時にヒットするデザインです。
  短めの丈のジャケットにも例外があります。首周りの開き部分を縦に大きくしておもいっきり下げると、そうしていないジャケットより、上が伸びて下が縮んで見えます。胴とソデを縫い合わせる場所(アームホール、ソデぐり)を下のほうへ長く伸ばしても、やはり上が
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−トレンド予測 53段目−
伸びて見えます。
  ジャケットの丈が変わらなくても、下に長い丈のものを着て、重ね着をすると、そうしないものよりも上が伸びて見えます。
上比長でも、スモールサイズの流行と重なっているときは、ジャケットをむやみに大きくできませんので、このようなテクニックで上比長を表現*1することが重要になってきます。
  ですから、ジャケットというアイテムの流行=上比長、ジャケットの丈の変化=〔上比長・下比長〕の循環と考えると、「〔上比長・下比長〕の年表 20歳レディス」の表に当てはまらない例外が必ず出てきます。下比長なのにジャケットが売れた、上比長なのに、売れたジャケットの丈がそれほど長くなかったなんてことはあり得ることなのです。
  じつは、この〔上比長・下比長〕という循環要因の仮説は、もともと、日本橋の現金問屋の専務(当時)がとなえた「ジャケットの長短8年周期説」が始まりです。
  20年前のある日、私はその専務に
一社だけの数字は危ない
呼ばれました。問屋へ行ってみると、案内された企画室の壁という壁に、デザイン画を描き込んだ年表がベタベタと貼ってありました。それを見ると、その問屋で過去にヒットしたジャケットのデザインがどんな形で、それがどの時期だったかが一目で分かります。壁の年表を見せながら専務は「ジャケットの丈8年周期説」の話をし、私に意見を求めました。言われてみれば確かに8年周期のような気がしないでもありません。
  ただこの年表には欠点がありました。あちこちに白くあいている所があります。長いにしろ短いにしろ極端なデザインが売れたときしか描き込んでいないからです。
  それと、描き込まれているヒット商品が、どれもその現金問屋にとってのヒットであって、市場全体でみたヒット商品でないことも問題でした。たとえば、市場全体では中ヒットでも、他の問屋より先に手がけていれば、その商品はその問屋にとっては大ヒット商品になりますし、逆に市場全体では大ヒット商品であっても手がける
のが遅れれば、その問屋にとっては、良くて小ヒット、悪くすると、不良在庫の山に泣かされた悪夢の商品になります。ですから、小売店の場合にもいえるのですが、一社だけの数字で流行の変化を推定するのは危険です。
  ということで私は、「8年周期説」について、正しいとも間違っているとも言うことができませんでした。
  ただ、おもしろい仮説だと思ったので、他の分野の流行にも使えるように〔上比長・下比長〕と名前を変え、他の資料にも当たり、修正と拡張を重ねて現在の形にしました。
  つまり、「ジャケットの長短8年周期説」は、〔上比長・下比長〕のご先祖です。当然、「ジャケットの長短」と〔上比長・下比長〕の間にはかなり強い相関があります。でも例外はけっこうありますし、「8年周期」でもありません。
  やはり、あるデザインのジャケットが上比長なのか下比長なのかをパーフェクトに判定するには、その丈の情報だけでは
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-トレンド予測 54段目−
無理です。そのジャケットを着た人がどう見えるのか、ジャケットを着ている人の上下方向のバランスが、上比長になっているのか、下比長になっているのかというところまでたち戻って判定する必要があります。これは他のアイテムでも、ウエア以外のデザインでも同じです。
  ただ、パーフェクトでなくても良いのなら、ジャケットが売れたら上比長、丈が長かったら上比長とあなたが機械的に判定したとしても、かなりの確率で当てることができます。
  これまでトップ(上半身)の服を例に説明しましたが、そのアイテムの種類と、〔上比長・下比長〕の関係の間に相関があるのは、ほかでも同じです。たとえばミニスカートは脚部を長く見せるので、売れるのはたいてい「下比長」です。
2005年秋冬にミニスカートが大ヒットしましたが、それは下比長のタイミングだったからです。以下の文は、2005年11月の渋谷の街で見られたファッションについて、共立女子大学・短期大学ファッション研究会がリポートしたものです。
ブーツ人気からミニスカートの割合がどんどん増加しており、ジーンズをはじめフルレングスのパンツが本当にわずかしか見られなくなった
今月、ミニスカートをはじめとして、ショートパンツなど、ボトムはショート丈が絶大な支持を受けている
(http://www.kyoritsu-wu.ac.jp/nyusi/streetより)
  なお、ミニスカートがヒットしたのは、ロング「ブーツ人気から」ではありません。後で説明しますが、ロングブーツがヒットしたのも下比長の時期だったからです。ブーツのヒットとミニスカートのヒットには、直接の因果関係はありません。
 
  ミニスカートと同様にロングスカートも、着ている人の下半身が長くなりますから、売れるのはたいてい「下比長」です。ロングスカートはミニスカートと丈の長さでは逆ですから、循環要因も逆ではないかと錯覚しそうになりますが、着ている人の上下方向のバランスという原点に戻って考えるとやはり「下比長」です。ミニスカートもロングスカートも下比長の時期にヒットしやすいアイテムです。
  でもそれは、いずれも「たいていは」です。ミニスカートやロングスカートであっても、
それを着た人が、結果として「上比長」になっているデザインなら、「下比長」の時期にはヒットできないバランスになります。
  たとえば、年表の1995年にある「ミニワンピースとサブリナパンツの組み合わせ」では、ミニワンピースの丈と、そのスソから、スネが見えるサブリナパンツのスソまでの比率が「上比長」になっています。
 
  半ソデシャツを着ている人と長ソデシャツを着ている人を並べて、互いに比べますと、半ソデシャツの方が、着ている人の上部を縮めて見せる効果があるのが分かります。それで、半ソデが売りやすいのは下比長のときです。
  2004年の春夏は例年より暑かったのに若い男性に長ソデシャツが売れました。2005年春はオジサンに長ソデシャツが売れました。長ソデが売れた一番の理由は、どちらもちょうど「上比長」のタイミングだったからです。
  ただこれも、ベストやタンクトップ(ランニング)はどう判定するのかとか、長ソデならなんでも上比長でよいのかなど、個々のデザインを細かく見ていくと話は単純ではありません。
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−トレンド予測 55段目−
衣料品のさまざまなデザインが〔上比長・下比長〕のどちらに属するのか、具体的に例示していくと、この本とは別にもう一冊書けてしまいますので、これ以上はしません。わからなくなったら着ている人の全身のバランスで判定してください。
 
  2004年から2005年にかけて、中途半端丈パンツや、深いVネックのトップ(上半身)
*2が人気でした。つまりヤングでは上比長でした。〔上比長・下比長〕の循環は3年強ですから、2004年秋冬の1・5年後の2006年春夏は「下比長」の活性期です。そのため、中途半端丈パンツや深Vネックは上比長に見えるデザインなので、シーズンの初めから安くなりますし、シーズン中にさらに安くなります。これは、大手アパレルメーカーの建前だけヤングや、若い男性でも同じです。
 
  あなたがヤングファッションの担当なら、こういったデザインとは逆の「下比長」があなたを救います。
(続く)
 
*1 ……上比長を表現
 2004年に流行した超Sサイズワンボタンテーラードジャケットがこのタイプ。
 
*2 深いVネックのトップ
 ボタンやファスナーを上半分ぐらい開けて胸をはだける着方が男女とも流行したが、あれも上比長。
 
07/08/2転載
10/04/08脚注転載
 
【関連ページ】
レッグウオーマー 足元ゴージャス
 
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  目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4

 
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