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     第7章 なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(三つの理由)
       2 流行循環の中心軸も超長期的には動いている
       同じ流行が起こらない理由の三つ目は、「それぞれの循環要因の基準が長い間には変化する」ことです。
 
  たとえば、私の身長は170センチです。私の世代では真ん中へんです。いまの若い人を基準にすると低い方でしょう。親の世代の平均で考えると高い方でしょう。江戸時代の常識では、私はノッポだと思います。 ノッポが女性にもてる流行がきたとき、私は、昔だったら得をしますが、いまだったら損をします。同じ170センチの身長が、時代が違うと、同じ流行で結果が逆になってしまいます。ノッポという感覚は、昔も今も変わりませんが、それをセンチメートルという物理量に翻訳したとたんに、完全にはもとにもどれない流行になります。   
  最近は見かけなくなりましたが、以前は、浴衣などに糊をかけるということをよくやりました。触ったときの感触を、ゴワゴワバリバリにするためです。なんでそんな手間をかけてゴワゴワにしたのでしょうか。
  それは、綿の生地が普及して間もないころの日
 
本人にとっては、それまで慣れ親しんだ麻系の生地に比べて綿が柔らかすぎて気持ち悪かったからです。それで糊をつけてちょうどいい硬さにしようとしました。
  つまり昔は、硬さの感覚の座標の原点(基準点、参照点)が、いまの人よりかなり硬いほうにありました。生地を硬い、中くらい、柔らかいと3つに分けたとき、昔の中くらいは、現代の我々にとっては硬いに属します。我々の中くらいは、彼らにとっては柔らかいです。
  我々にとって普通に感じる硬さを柔らかいと感じる昔の人に、今の服を触らせたら、その柔らかさと気持ち悪さ*に仰天することでしょう。
  物理的にみれば同じ生地が、時代によって軟らかい方に入ったり硬い方に入ったりします。そのため同じ硬さの生地が、時代によって、「軟らかい」の活性期に売れたり、「硬い」の活性期に売れたりし
 
 長期の変化は、短期予測では
  無視できる

  かりに、循環要因が前と全く同じで、タブーも特定要因も変化していなかったとしても、同じ流行現象が起こるとは限りません。循環要因が示す具体的なモノコト、物理量が前と完全には一致しないからです。厳密にいうと、私たちの頭の中では、循環要因の数も種類も仕組みも変化しません。昔もいまも同じです。循環要因ですから当然循環していますが、それ以外の動きはありません。変化しないからこそ、流行を予測したり説明したりできるので、これがチョロチョロ動いたのでは話がグチャグチャになってしまいます。
  循環要因は変化しませんが、それは人間の頭の中の感覚では変化しないということで、具体的な
物理量が動かないわけではありません。
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−トレンド予測 156段目−
ます。でもこれは、ある時代を別な時代の基準点で観察したからで、その流行を同時代の基準点で観察すれば、今までも、今も、これからも、流行は(柔らかい→硬い→柔らかい→硬い)と順番に変化します。
  つまり、時代とともにちょっとずつ変化していく人間の頭をモノサシにして、硬さの流行を観察すると循環要因による機械的な循環がみられますが、メートルやキログラムなどの物理量で定義した硬さでは(ようするに、時代の移り変わりにつれて硬さの感覚が変化することを認めないで決めた硬さでは)、循環は簡単ではなくなります。
 
  筆者が子供のころの掛け布団は硬くて、朝起きるときソーッと抜け出すと、寝ていた空間がそのまま残ってトンネルになりました。筆者が子供のころの豆腐は硬くて、豆腐屋へ手ぶらで買いに行くと、新聞紙を切ったものでくるんで手のひらにのせてくれました。
  当時と今では、同じ商品でも、硬さの判断の基準(参照点)がかなり違います。
  でもそれは50年近くも前のことです。あなたが半年先、1年先の予測をするときは、基準は
 
動かないと仮定しても問題ありません。
 
 
            
  
 
* ……気持ち悪さ
 いまのタオルは、薬品で処理してあるのでフニャフニャしている。筆者は、あのヌルヌル感が嫌いなので何回も洗ってから使う。しかし、テレビで若い女性が「タオルのフワフワ感が好きなんだけど、使っているうちに硬くなるのが残念なの」と言っていた。このように、彼女と筆者では感覚がだいぶ違う。
  
09/08/31転載 
 
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1
/ 7-2 / 7-3 / 7-4
 
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