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  第5章 [アリ型人間]と[キリギリス型人間]は交互に現れる  
  3 安くすべきか、高くすべきかも流行しだい
      アリのときは価格感度が高くなり、キリギリスのときは低くなります。
高価格店も低価格店も同じ循
 環要因に支配されている
  キリギリスの時期には、人々は先のことを考えなくなります。今の楽しさうれしさを優先させます。そのため、今買わなくてもいいもの、先延ばししてもいいものでも、今すぐ買おうとします。
  それから、高額品が売れるようになります。高額品を買えばサイフが軽くなります。サイフが軽くなれば、将来買えたはずのものが買えなくなります。でも、キリギリスの時期の消費者は、先々のことを考えませんから気にしません。
  自動車や家電などの耐久消費財がキリ
ギリスの時期に売れるのは、今買うか、それとも買う時期を先に延ばすか、比較的自由に選択できるからですが、もう一つの理由は価格が高いからです。
  価格の高さという点では、我々が「高級海外ブランド」「インポート」「ラグジュアリー」と呼んでいる商品が一番でしょう。さきほど出てきたロレックスの他に、シャネル、セリーヌ、ルイ・ヴィトン、エルメス、コーチ、フィラ、グッチなど、有名なブランド名だけでもけっこうな数がありますね。
  ヨーロッパの高級チョコレートなどもこの仲間です。なにしろ、味がどうのこうのだけでは説明できないほど高い値段が付いていますから。ゴディバやピエール・マルコリー
ニ、ドゥバイヨルなどが有名です。
  もちろん高級ブランドは、金額の大きさでは自動車に負けますが、競合している同じアイテムとの価格差という点ではピカイチの高価格でしょう。
  もうお分かりですね。この高級ブランドもキリギリスと強い相関をもちます。日本で過去にあった高級ブランドブームの時期を調べると、先ほどの耐久消費財のブームとほぼ一致しています。つまり、7年半に1回です。
  えっ、そんなにしょっちゅうブームが来ているとは信じられないって? そう思うのは、あなたが高級インポートにあまり関心がないからです。関心がない人にとっては、
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−トレンド予測 110段目−
乗用車のブームや家電のブームだって同じはずです。7年半のサイクルで来ているとは信じられませんね。でも来ています。
  もちろん、7年半に1回のブームといっても大小があります。無関心な人も覚えているほどの大ブームだけでカウントすると、もっと間隔があきます。
  アリの時期には、消費者の価格感度が上がっているので、キリギリスの時にはさかんに買っていた人でも高級ブランドをあまり買わなくなります。ですが、価格に敏感ですから、値引きが大好きです。それで、ブランド好きは、ディスカウントストアで買うようになります。今回のアリの時期では、名古屋のブランドリサイクル店「コメ兵*1」が人気になり、東京にも進出しました。
  現在の若い人はすでに「キリギリス」の活性期に入っていますから。若者が贅沢病にかかります。それから1〜2年して、そういう若者を批判的に見ていた
シニアの金遣いが荒くなります。これから高級ブランドの春が来ます。
  高級ブランドと対極のビジネスといえばディスカウントストアですね。価格を第一の特徴にしているのは高級ブランドと一緒で、高価格とは反対の安さを強調する点だけが異なっています。
  これまではアリの時期が続いていたので、安さを武器にした店が急成長しました。
 「IT(情報技術)を駆使して低コスト・低価格を実現したスーパーが躍進している。インターネット上のテレビ会議や自動発注システムなどを導入し店舗運営を効率化。高い収益力を維持して、競合店から顧客を奪っている。」(日経MJ2005年7月8日1面より)
 「トライアルカンパニー(福岡市、永田久男社長)。九州北部を地盤にし、三年前から福島や茨城などの東北・北関東地方にも進出。食料品や衣料品、生活雑貨、家電製品など
価格で売るにもタイミングがある
約七万品目をそろえるスーパーセンターを中心に四十二店を展開する。
  二〇〇六年三月期の売上高は千二百五十億円を見込む。食料品などを商圏内の最安値で常に提供するEDLP(毎日安売り)戦略をとり、五年前に比べて売上高が約十四倍に増える急成長を遂げている。売上高販管費率は米ウォルマート・ストアーズに肩を並べる一六パーセント台を維持。「他店に比べて二−三割安い」(南アルプス店の買い物客)という低価格・低コスト経営を支えるのが、オリジナルのITだ。
」(同)
  IT(情報技術)で儲かるのなら、巨大化し年を取った今の大手の量販店も儲かっているはずです。トライアルカンパニーは、昔の量販店がそうであったような「低価格・低コスト経営」の原則を守ったうえで、ITを導入しているから急成長しているのです。
  他の例では、ここ4年で売り上げを
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−トレンド予測 111段目−
約6倍にした「大黒天物産」というディスカウントスーパーが岡山にあります。ここもEDLP*2(毎日安売り)です。マスコミにも取り上げられているのであなたも知っているかもしれません。
  ディスカウントストアは、自らの存在が市場価格を下げてしまうという矛盾を持っていますそのディスカウントストアが成功すればするほど、成長すればするほど、その分野の市場価格が下がります。
  ディスカウントストアといえども、実勢価格と需給バランス価格の差がなくなってくれば、安売りはできません。需給バランスで決まる価格より安く売り続けることはできないからです。すると、多くのディスカウントストアが、主要な取り扱い品目をガラっと変えるか、ディスカウントストアであることをやめるかの選択を迫られます。それをしなければ沈むだけです。過去の例でいうと、カメラディスカウント店は主力取り扱い商品をカメラから家電に移しましたし、大手量販店はディスカウントストアであることを
やめました。
  それで、前回のアリの時期に急成長したディスカウントストアの多くが、次のアリでは前と同じやり方では活躍できなくなります。次のアリでも活躍した企業の多くがその次にはダメになります。
  ということで、消費者をアッと言わせるような本格的ディスカウントストアには、シニセがほとんどありません。ですから、特定のディスカウントショップやディスカウントチェーン店に注目すると、7年半のサイクルで業績がいつまでも変動するわけではありません。
  現在の大手量販店がスタートして間もないころ、つまりまだ若くて元気だったころ、彼らの業績とアリとの間に強い相関がありました。今のシニセ量販店にはアリとの相関がほとんどありません。
それも無理はありません。いまの大手量販店を安いと思っている人はほとんどませんものね。
  ユニクロ(ファーストリテイリング)の業績の浮沈を見ると、今まではアリの循環と
強い相関があったことが分かります。ユニクロの急成長というと、1998年の原宿出店とフリースキャンペーンから始まり、2001年8月期までの3年間に売り上げを約5倍の4185億円にしたことが有名ですが、じつは、この時期より約8年前にも急成長の時期がありました。当時はフリースではなくて、海外有名ブランドの安売りが目玉でした。1992年8月期は売り上げを約2倍の143億円にしています。ユニクロの業績は、耐久消費財の流行と逆相関に近い関係です。
もっとも最近のユニクロは、昔のスーパー≠ニ同様に、高品質、高価格、高コストの方へポジションを移動してきています。04年9月には、「ユニクロは低価格をやめます」という新聞広告を出しました。ですので、これからはアリとの相関も弱くなってくるでしょう。
  2005年までの数年間は「アリ」の時期だったので、あちこちで安売り競争が起きています。
  次の文は日本経済新聞編集委員
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−トレンド予測 112段目−
井上省吾さんのリポートからの抜粋です。
消費税込み百四|百五円で生鮮食品を売る『生鮮百円コンビニ』では、大手メーカーの五百_gペットボトル入り茶系飲料も百四−百五円で売っている。通常、コンビニエンスストアや自動販売機で百五十円前後の商品だ。ところが、最近は同じ茶系飲料を八十八円まで下げたスーパーも現れた。豆腐(四百c)二十八円、うどん一食十八円と日配食品でも低価格を全面に押しだし、他スーパーやドラッグストアを巻き込んだ安売り合戦が広がっている。
  衣料品でもTシャツ五百円、半袖ワイシャツ千円はもはや珍しくない。衣料スーパー、しまむらの平均商品単価は二〇〇五年二月期で七百十二円と五年前に比べ一七%下がった。十五分百円の時間制レジャー・スポーツ施設や、夏場なら平日五千円以下でプレーできるゴルフ場など、サービス分野の価格低下も目立つ
」(日本経済新聞2005年
8月9日27面「景気指標」より)
  オークションではありませんから、ここに出てくる価格はいずれも供給側が決めたものです。つまり仮需です。
  供給側の人間は、経験の強さだけでなく、同じ経験をした期間の長さにも反応します。つまり、仮需は、実需そのものではなくて、実需の累積に反応します。それで、実需の終わりにピークが着ます。「安売り合戦が広がっている」のは仮需の話ですから、実需、つまり消費者の気持ちと行動では、アリの時期の末期です。
ですから、仮需に過ぎない安売り合戦にあおられて、薄利多売ばかり考えていると、すでにスタートしているキリギリスに足をすくわれます。
  アリの時期の消費者は価格に敏感になりますから無神経な値上げは禁物です。
たとえば2004年4月に消費税が総額表示になりました。表示の仕方が変わっただけで消費税が上がったわけではありません。それにもかかわらず引き上げられた
表示価格に対して買い控えが起こりました。表示の変更の仕方に神経を使った店と、機械的に表示を変えた店との間に成績の差が出ました。そのくらいアリの時期の消費者は価格に敏感でした。
  一方、キリギリスの時期の消費者は、価格感度が鈍っていますから値上げに対して寛容です。たとえば、1992年2月に、10年続いた缶飲料価格100円が110円に値上げされました。各メーカーは、値上げによって消費者が反発し、買い控えを起こすことを恐れていました。でも、数量はほとんど減りませんでした。つまり、消費者は値上げに反応しなかったのです。それで、値上げしたぶんのほとんどは、そのまま売り上げ増となりました。
 
 あなたが小売店主なら、価格の変更を前回の経験で決めてはいけません。前回の値上げあるいは値下げが3|4年前だったら、おそらく「アリ」は「キリギリス」に、「キリギリス」は「アリ」に
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−トレンド予測 113段目−
変わっています。となると、前回とは違う結果になります。
(続く)  
 
*1 コメ兵
 名古屋が本拠地の中古品と新品の販売店。宝石、貴金属、時計、バッグなどが多い。キャッチコピーは「スーパーディスカウント&リサイクルデパート」。
 
*2 EDLP
 Every Day Low Priceの略。
 
08/1/26転載

10/06/04脚注転載 
 
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4
コンサルタント森田洋一
 
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