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     第7章 なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(三つの理由)
       1 流行は表面だけ見ると複雑すぎる
       似た流行はしょっちゅう来ますが、全く同じ流行は来ません。
.
 循環しているのは流行の原因
  だけ

 
  だれもが直感的には理解しているように、流行には繰り返しがあります。でも、全く同じことは起こりません。私も「今の流行は、自分が若いころと同じだ」と思うことがありますが、よく見ると全く同じではありません。昔とはどこかしら違っています。
  全く同じにはならない理由は三つあります。
  一つ目は、流行現象と循環要因のあいだに一対一の対応関係がないことです。一つの流行現象には複数の循環要因が関係しています。また一つの循環要因は複数の流行現象に働いています。
  たとえば、これまで本書に出てきた〔アリ・キリギリス〕〔同一視・対立視〕の二つの循環要因は、どちらも売れる価格に影響を与えます。つまり、価格変動という一つの現象に対して複数の循環要因が関
 
係しているわけです。
  商品の価格を決める場合、真っ先に考えなければならないのが〔アリ・キリギリス〕という循環要因です。 
  「アリ」の時期に消費者は物事を長期的計画的に見るようになります。それで、先々のことを考えて、現金は現金のままか、現金に戻せる形で持っていようとします。つまり、締まり屋、渋ちんになります。消費者の価格感度が上がりますから低めの価格設定が有利になります。
  「キリギリス」のときはこれとは逆です。消費者は刹那主義になっていて今にしか関心がありません。先々のことを考えませんから、財布の口が開いています。価格感度が落ちていますので高めの価格
設定でも不利にはなりません。
  〔同一視・対立視〕の循環要因も売れる価格と相関があります。商品の違いに関心を持ち、それを評
 
価する人が増える「対立視」のときは、品質、基本性能、デザインの新鮮さや個性などを消費者はきちんと評価してくれます。そういうことに金を払ってくれます。それで、品質、基本性能、デザインの良さ、個性は、価格にきちんと転嫁できます。
  逆に、そういう長所を持っていない商品は値崩れがひどくなります。ようするに、品質や性能がイマイチで、どこにでもあるありきたりのデザインは、同一視の時だってそんなに高くは売れませんが、対立視になると底なしの低価格になります。つまり、この〔同一視・対立視〕は、価格を高くさせる方にも、低くさせる方にも働きます。
  言いかえると、商品の上、中、並、あるいは松、竹、梅の区別がはっきりします。マスコミが「価格の2極化」という時は、たいていこの時期にあたります。
 「素材や製法にこだわって味わいを強調し、通
 
――152――――第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)――――ファッション予測と流行予測、次へ
 

−トレンド予測 150段目−
常のビールより1〜2割高い『プレミアムビール』の新製品投入が相次いでいる。ビール類全体の市場が縮小する中、原材料の工夫で酒税を抑えた低価格の『第3のビール』が存在感を増す一方で、高級ビールも成長を続けており、市場の2極化が進みつつある。」(読売新聞2005年10月3日7面14版より)
  いま話した事例は、複数の循環要因が、売れる価格という一つの現象に作用している場合でした。逆に、一つの循環要因がいくつもの流行現象に作用しているほうの例は、これまでくわしく説明しました。どれも特定の商品だけの流行と関係しているわけではなくて、非常に広い範囲の流行現象と相関がありました。
  このように流行現象と循環要因の関係は一対一ではありません。一つの流行現象は、多数の循環要因の順列で記述できますが、そのすべての循環要因が、過去のある時期と同じ順列になることはまずありません。ゼロに近い確率です。これが全く同じ流行現象が起こらない理由の一つめです。
 
 あなたが、たとえば5年間隔でよく似た現象を3回経験したとしても、次の4回目が、5年後にまた起こるとはかぎりません。また、5年後以外
 
の時期に似た現象を経験するかもしれません。厳密に繰り返しているのは循環要因で、現象ではありません。
 タブーも時間がたてばタブーで
  なくなる

  二つめは、時間の経過によるタブーの変化です。
  私は現在50歳代です。何十年も消費者をやってきました。でも、今までに一度もスカートを買ったことがありません。はいたこともありません。どんなにスカートが大流行しているときでもはきません。なぜなら、私は男だからです。男ではスカートをはくことがタブーだからです。
  男が、物理的、生理的にスカートをはけないようにできているわけではありません。それは各国の民族衣装を見れば分かります。日本の男性も着流しという名のワンピースを着ますし、ハカマという名のキュロットスカートをはきます。スカートがタブーなのは洋装の時だけです。
  女性では、スカートをはくことも、パンツをはくことも今はタブーではありませんが、昔はパンツ姿がタブーでした。それで、テニスなどのスポーツをする時もスカートでした。 
 
  私が子供だった50年前は、体育の時間に女の子は、スカートとパンツの中間アイテムのチョーチンブルマーをはいていました。大人だって同じです。女子バレーボールの選手がショートパンツをはくようになったのは、1964年に開催された東京オリンピックの直前ぐらいからです。
  女性では、昔はパンツをはくことがタブーでした。今はタブーではありません。まだ、冠婚葬祭などの一部ではタブーが残っていますが、それも徐々になくなりつつあります。女性でパンツのタブーが壊れたのですから、男性が持っているスカートのタブーもいつかは壊れるでしょう。
  このスカートやパンツの話でも分かるように、タブーも普遍ではありません。長い時間をかけて少しずつ変化しています。
 以前タブーだったモノコトがタブーでなくなり、以前はタブーでなかったモノコトがタブーになっていれば、かりに循環要因が全く同じであったとしても、流行現象は違ってきます。これが、全く同じ流行が起こらない理由の2つ目です。流行しうる範囲を定めているタブーやこだわりが長い目でみると変化しています。
  タブーには、女性の社会進出のように、次々と制約が壊れていくものもありますが、放送禁止用語
――153――――第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)――――ファッション予測と流行予測、次へ  

−トレンド予測 151段目−
のように次々と生まれるものもあります。時代時代によって出っ張るところと引っ込むところが変わるだけで、結局タブーの総量はそれほど変わりません。
  大きく流行できる許容範囲や、何とか流行できる許容範囲が時代とともに動いていきますから、仮に、ある時代のある時期と、別なある時代のある時期で、循環要因の順列がソックリだったとしても流行現象は違って見えるわけです。
  循環要因は循環していますから、時間がたつと元に戻ります。一方、タブーの範囲の変化や、特定要因による市場の動きは、その多くがもとに戻りませんから、ずっと先の予測であればあるほど、積み重なってきてその影響が無視できなくなります。  
  ですから、循環要因だけで長期の予測をするのは危険です。安全なのは十数年でしょう。それを超えると狂いが大きくなって断定ができなくなります。あまりにも先の予測をすると、気象庁の長期予報のようになってしまいます。
 
  でも、あなたが切実に知りたいと思っている未来は、そんなに先ではありませんよね。自分が今月どうすればいいのか、半年後、1年後どうすればいいのか。その答を得るのに100年 
 
後の知識はいりません。
  もっとも、100年後なら、あなたもあなたの上司も同僚も生きていませんから、間違っていても頭を下げなくてすみます。言いっぱなしでよければ何年先でもかまいません。
   
            
    
09/05/01転載
 
 
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1
/ 7-2 / 7-3 / 7-4
   
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