理詰めのトレンド予測 ウエブ版                                     トップページへもどる 目次へもどる
     第4章 [同一視]と[対立視]を知って流行を読む
       2 基本性能を評価されるのも流行だ
       技術目標もトレンドに合わせて変えましょう。
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ていねいな商品が支持されている
  対立視の時期には、基本性能を重視したり、デザインに凝ったり、細かいところまで目配りした商品が、それにふさわしい価格で売れるようになります。
 「インターネット通販のネットプライスが発売したスイスの美容・医療精密機器メーカー、レジン社のけぬき『レジンツイーザー』が女性の人気を集めている。もともと自分で愛用していたネットプライスのバイヤーが性能にほれ込み、日本での独占販売契約を締結。製造を待ちながら数百―千個単位で入荷するたびに完売し、これまでに約一万五千個を売りさばいた。
  精密機器用の細かい部品をつまむ器具の技術を毛抜きに応用した。すき間ができないよう先端を精巧に平面カットしており、0.1_しか出ていない短いムダ毛や細かい産毛も軽く
 
つまむだけでしっかりつかみ、途中で切れることなく抜けるのが特徴だ。毛穴に詰まった角栓やニキビなどの脂分を除去するのにも適している。ステンレス製で、長さ10a、幅1a。価格は千八百九十円。
  購入者の八一%が女性で、年齢層では二十―三十代が八五%を占める。
」(日本経済新聞2005年1月29日27面12版「ヒットの舞台裏」より)
  「レジンツイーザー」は毛抜き以外の新しい機能が付いているわけではありません。ただやたら精巧なだけです。それに対して消費者は1890円も払いました。対立視が活性化している時期は、基本性能の良さにお金を出してくれる人が大勢います。
  デジタルカメラで、96年末から98年ごろにかけて、つまり前回の対立視のときに「画素数」競争が起こりました。これも基本性能重視
 
の流行です。画素数を増やしても、別な機能が付け加わるわけではありませんし、別なおもしろいことができるわけでもありません。デジカメが前から持っていた機能が前より良くなるだけです。でもこの時期は、そのことに消費者がお金を払ってくれました。
  デジタルカメラの最初のヒット商品は、カシオ計算機から95年3月に発売された「QV‐10」です。このカメラの売りは、撮った画像を液晶モニターで確認できることでした。つまり、従来のカメラではできなかった機能と価格の安さでした。
  「QV‐10」は、今のデジタルカメラと比べればもちろんのこと、当時の常識でも基本性能が優れているとは言えませんでした。
  製品が悪いわけではありません。「QV‐10」が出た1995年3月は、基本性能の良さには消費者が金を出さない「同一視」の
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−トレンド予測 75段目−
時期でした。その時期の消費者が支持しないほうの機能を充実しても売れるはずがありませんから、消費者が支持してくれるほうの特徴を強調した「QV‐10」は1995年3月の時点では優れた製品*1なのです。
  基本性能の良さにはある程度目をつぶって、ほかの長所を強調して成功したカメラといえば、「QV‐10」の大先輩に当たるものに、富士写真フイルムから発売されて1年で300万台売れた「写るんです」があります。1986年7月発売ですから、「QV‐10」より1周期前の同一視の時期です。当時は「使い捨てカメラ」と呼ばれていました。フィルムはポケットサイズの110判、感度はISO100、屋内はもちろんのこと、曇りの日も撮影できませんでした。今の「レンズ付きフイルム」からは想像もできない性能の低さですね。当時の消費者は、カメラとしての基本性能以外の長所を評価して買っていました。
  現在は「対立視」ですから、消耗品も基本性能重視です。
 「リビングやトイレなど置き場所を問わずに使える万能型の消臭剤市場が激変している。プロクターアンドギャンブル
 
2 5万画素で6万5千円
   
(P&G)が今秋、『ファブリーズ』ブランドで新規に参入。発売からわずか二カ月で売れ筋ランキングの上位を独占した。香りではごまかさないと、消臭機能を前面に出した直球勝負が消費者の心をとらえたようだ」(日経MJ2005年11月11日付3面より)
 「実感しにくい消臭効果をわかりやすく伝えるため、スーパーなど大型店数百店にテレビモニターを設置。着色したアンモニア臭が『ファブリーズ』に消臭されていく様子をビデオ映像で流し続けた。
  同業他社の製品との比較実験も流し、消臭能力の優位性も目に見える形で強調した。また従来製品との比較では『ニオイを香りでごまかしてはいませんか』という攻撃的
なコピーで、消費者の印象に残るようにした」(同)
  それまで「ファブリーズ」といえば、布用消臭スプレーをさしていました。万能型消臭剤の市場に参入するにあたっては、そのブランド力が利用できましたから、消費者の信用や小売店の 協力を得るのが楽でした。でもそれだけでは、参入2カ月めでトップシェアという大当たりは無理です。やはり愚直に基本性能の良さを訴えたこと
 
が勝因です。
  ピンセットや消臭剤では、対立視といえば「基本性能」でしたが、それが衣料品だとこうなります。以下の文は、繊維、ファッション業界向けでは最大手の専門紙、繊研新聞の記事からの抜粋です。
デザインだけでなく、素材やパターンも重視する――。省かない服≠支持する20代前半の女性が増えてきた。今秋冬、きちんと作り込んだ決して安くない商品が、意外なほどよく売れた。」(2004年3月3日付13面より)
  供給側の人間が「意外」だと言うのですから、この2003年〜04年秋冬の時点では新しい流行です。衣料品の場合は、「基本性能」というよりも、「ていねい」とか「凝っている」と表現した方がいいでしょうね。
 
  これまでは、「省かない服」「高付加価値商品」であることを消費者が評価してそれ相応の価格を受け入れる「対立視」の活性期でしたが、これが終わって同一視が復活すると、これまでのことはどう変わるのでしょうか。前の「同一視」の活性期がどうだったかを振り返ることで、それは
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−トレンド予測 76段目−
想像できます。以下の文はそういう時期についての、ペンネーム「赤」氏の意見です。
ヤング市場に新しいトレンドが見えない。売れているのは1900円、2900円の、ちょっと驚くほどチープな作りのカットソー中心の店。いつもわんさか客が集まっている。チープとはいってもなんとなくトレンドが入っていて、若ければそれで十分通用しそう。
  見たことのないデザインの服は売れない、という話を取材先でよく聞く。80年代のDCブーム華やかなりしころ、裾を斜めに折り返したスカートをはいて、見知らぬおばさんに『スカートまくれてるわ!』と引っ張られたことがあったが、今はそんな親切な人はいない。どんなすごい格好をしたって見て見ぬふりをしてくれるというのに、おもしろい服は売れなくなった。
」(繊研新聞2004年4月7日3面「視点」より)
  「見たことのないデザインの服」が売れないのは、消費者が他人と同じ格好をしたがっていたからです。消費者は、あっちこっちで売っていそうなデザイン、しょっちゅう街で見かけそうなデザインという範囲をハミ出ないようにしながら流行を追いかけました。
  同一視の時期に繁盛している店に、Tシャツなどの「チープなカットソー」が多いのは、
 
カットソーは速く安く作れるからです。それで、「すぐにパクって安く出す」のに向いています。
  こういうクイックレスポンス型*2の商品は、他店をコピーしていますから必然的に見たことのある商品になります。安さという、商品そのものではない魅力を訴えています。そのやり方が同一視の時期に合っていました。が、対立視になるとその分、「チープなカットソー」は嫌われます。
  これまで出てきた「基本性能」も「ていねい」も「凝っている」もようするに「基本的な部分の差異化」ですから、商品に形がないサービス業や運送業にも対立視の時期に成功するやり方があります。
『ひとを運ぶ運送業から、サービス業に転換したい』。新興タクシー会社のハロー・トーキョー(東京・江東、関隆社長)は創業メンバーのこんな思いで設立された。
  最も力を入れるのが接客態度。乗務員はスーツにネクタイを着用する。社内では禁煙。待機中に新聞を読んだり、シートを倒したりすることも厳禁だ。予約車は乗務員が手でドアを開閉する。社内には無料で使える携帯電話の充電器も装備している。
 車両には黒塗りの高級車を採用。法人
 
タクシーの車両は一台二百万−三百万円程度が多いなか三百万−六百万円かける。多人数が乗れ、荷物も多く詰めるワゴン車も二十台配備する。
派手な宣伝はせず、口コミを中心に顧客を増やしてきた。現在、営業エリアは東京の二十三区と武蔵野市、三鷹市。二〇〇三年五月の営業開始時に十台だった保有車両は三年弱で百台に増えた
」(日本経済新聞2006年2月6日付11面11版「新進気鋭」より)
  今は「対立視」ですから、他社とは違う魅力を出すと、それを消費者は正当に評価してくれます。「差異化」が利益をもたらすため、職人肌の人にとっては幸せな時期です。
 
 
 「差異化」を「同質化」より評価する人がいますが、ようは儲かればいいので本来優劣はありません。ただどちらもファッションであることを忘れないでください。苦戦が始まったときに、それまでのやり方に固執していると、せっかくため込んだ利益をはき出してしまいます。
 
  若い人から順番に、これから同一視が復活してきます。そうなると、基本性能より面白さ*3の方が評価されるようになります。前回は
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−トレンド予測 77段目−
このタイミングで、ドコモが技術目標の切り替えに失敗しています。同一視にもどっているのに、携帯電話の基本性能を上げることに躍起となり、バージョンアップにふさわしい価格で売ろうとしました。結果、他社が売り出した面白機能の「写メール*4」にやられました。あなたが技術担当なら、新技術の方向を変えなければなりません。ユーザーの夢を叶えるのが技術です。それは、高性能にすることとは限りません。
(続く)
 
 
*1 ……優れた製品
 カシオ計算機は、発売前はほとんど期待していなかった。ところが予想とはケタ違いの注文が入った。
 
*2 クイックレスポンス型
 初期生産量を抑え、シーズンインしてから売れ筋商品を追加していくこと。
 
*3 写メール
 2000年にJフォンから出たカメラ付き携帯電話。
 
*4 基本性能より面白さ
 今回(10年7月現在)の同一視ではiPadやiPhoneがこれ。どちらも面白機能で受けている。基本性能では勝負していない。(10/07/21 ウエブ版のみの注)
 
 米国では、超大型セルモーターを付けるという面白機能でそれまでヒットしていたトヨタのプリウスが、09年になってその基本性能に疑念を持たれた。やはり、多機能型面白機能でヒットしたiPhoneが、10年にやはり基本性能の問題でミソを付けた。
 ということは、米国は日本より早く対立視に戻っているわけ。これからは日本も同様になる。基本性能が面白機能よりビジネスになる時期に今は来ている。直近の数年間に経験した面白機能優先時代を意識しすぎた企業は、これから痛い目にあうことになる。(10/09/04 加筆)
 
2007/09/28 転載 
2010/04/09 脚注転載

2010/09/04 脚注最終加筆
 
【関連ページ】
超高音質音楽配信広がる
 
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4
 
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このページ最終更新2012/09/23
 
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