第3章 デザインの流行は[上比長][下比長]に分かれる
6 携帯電話や家電、乗用車もデザインが大胆に
変るときがある 耐久消費財にもファッション商品と同じ循環があります。でも、消費者から見た流行では、それがよくわかりません。 |
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べつに大きくありません。でも、当時の常識では大画面でした。 ケータイの画面は上のほうにあります。それが縦方向に伸びたのですから上比長の流行です。「大きい画面の方がメールを打ちやすいし読みやすい」という機能とも結び付いていたので、爆発的に普及しました。機能性と仲良しでしたから、下比長が復活して、縦長大画面が過小評価を受けるタイミングになっても市場は縮小しませんでした。 だからといって、メールのやり取りがしやすいという機能性だけで普及を説明すると、流行の原因を半分しか説明していないことに |
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なります。普及した時期は上比長で、縦長大画面が過大評価を受けるタイミングだったのですから。 次に、家電の上比長の話をします。 冷蔵庫の小室(ドア)を上段、中段、下段と分けたとき、現在では冷蔵室が上段にあるタイプがほとんどです。しかし以前は、冷凍室が上段にあるのが当たり前でした。 冷蔵庫のドアが今の順番になったのは1990年代後半からです。そういうデザインが出始めてからまだ10年です。それほど古い出来事ではありません。 |
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以下の記事は1997年12月11日付の日本経済新聞です。 「三ドア以上の家庭用大型冷凍冷蔵庫で、野菜室を真ん中に置いたタイプが売れ行き好調だ。冷蔵室、野菜室、冷凍室と、使用頻度の高い順に上から並び、使いやすい点が消費者の支持を集めているためだ。昨年1月に日立製作所が先陣をきったが、消費者の反応がいいことから各社が追随。今月中に発売する東芝と三菱電機でほぼ全社が出そろう。容量が三百g以上の商品では、野菜室中段型が出荷量の約二五%を占めるまでに成長、市場を引っ張っている」 今の「冷蔵室上段型」とそれ以前の「冷凍室上段型」では、パッと見で、上下方向のバランスが違います。容量の大きい冷蔵室が上段にある今の冷蔵庫のバランスは、以前のものと比べると上比長になっています。 でも、この変化は一方向に進んだきりで、3年周期の循環になって |
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いません。そうなったのは、「その方が便利なのだ」という機能性と結びついたことが、理由として一つあります。この機能性の考えはかなり強かったため、上比長が過小評価を受けるタイミングでもシェアが落ちませんでした。 もう一つの理由は、市場に出たタイミングです。別紙の〔上比長・下比長〕の循環表と見比べていただくと分かりますが、野菜室中段型の冷蔵庫が初めに出た1996年1月は早すぎるほどのタイミングです。早すぎるほどのタイミングで消費者に見せたため、旧タイプを買った人を含めて、消費者の頭の中に上比長型バランスの冷蔵庫が刷り込まれてしまいました。この、早すぎるほどのタイミングで消費者に見せたというのは、多くのロングセラー商品に共通に見られる傾向です。 ただ、こういう元へ戻らないタイプの上比長の流行は、冷蔵庫としても例外で、普段は衣料品などと同じように循環しています。 |
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衣料品と違うのは、循環する普段の上比長は変化がおとなしいことと、消費者がたいていそういう変化に気が付いていないことです。 循環するタイプの場合、上比長デザインと下比長デザインとの違いは、数センチ、十数センチのレベルです。寸法は全く変化がなくて、取っ手の形などを工夫して、印象だけ変えてみせるというのもあります。ファッションでたとえると、銀行員のスーツですね。ちゃんと流行があるのですが、その変化の幅が極端に小さいのです。 冷蔵庫のデザインに対して一般の人が持っている関心は、ファッション商品に比べるとかなり低くなります。たいていの人は、冷蔵庫を買い替えようと思ってもデザインには無関心で、家電量販店へ行ってからどれにするか決めるなんていう人もかなりいます。 こういう状態ですから、デザインの流行を説明するための事例としては、冷蔵庫はあまり向いていません。 |
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一方、乗用車の場合は、冷蔵庫のような屋内型家電に比べると、外へ持ち出して他人に見せびらかしますので、デザインを気にする人が増えます。でも変化の幅が小さいのは冷蔵庫と同じです。やはり数センチ、十数センチの違いになります。車の床が高くなっても低くなっても、窓が縦に大きくなっても小さくなっても、屋根が高くなっても低くなっても、各パーツの位置が上がっても下がっても、みんなセンチ単位の話です。とくに大衆車は個性が強すぎることを嫌いますから、こういうことは、センチ単位、ときにはミリ単位の話になります。 でもなかにはみんなをアッと言わせるほど大胆なデザインもあります。以下の文は、日経流通新聞1988年8月27日付にあったものです。 「ファッショナブルな若者でにぎわう東京・渋谷も、夜ともなると別の顔をあらわす。メーンストリートの公園通りは夜9時を過ぎると、都内各地から集まったクルマ自慢の若者たちで昼とは違ったにぎわいをみせる。ベンツ、BMWといった3ナンバー族≠ノ混じり、 |
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この春ごろから増えているのが改造した四WD(四輪駆動)車を乗り回す車高族≠セ。 東京・立川に本拠を持つ『BANDIT』という四WD愛好グループのメンバーが、この日も十数台で公園通りへやってきた。彼らのクルマは市販のボンネットトラック型四WDの車高を高く改造し、エンジンなどもチューンアップしている。 『本体で二百万円、改造にはみんな百万円以上かけてるよ』とあるメンバー。本来はトラックなのだが荷台はふさぎ、乗用車として使っているという。 毎晩のように渋谷に出没しているが、爆音を鳴らし走り回ることはしない。『おれら暴走族じゃない。でも渋谷に来れば注目されるからね。ナンパだってやりやすいじゃん』とリーダー。 四WDはオフロードで楽しむものでは、と尋ねると、『誰も見てないところで走っても意味ないじゃない。クルマも傷むしね』という答。深夜の車高族はやはり見えっ張りのようです。」 車軸を下げて、タイヤも大きなものに取り替えて、人の腰の位置ぐらいまで床を |
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高くしたものをビッグフットと言うそうです。その脚の長い四WDトラックを、渋谷の街で走らせたって、そんなものが機能的でないことは、乗っている本人も、それを見ているまわりの野次馬もよく分かっています。それで、大きな流行にはなりませんでした。また、循環要因が入れ替わってカッコよくなくなると、渋谷の街から消えてしまいました。 床が高くなる「車高」の流行は、下部が延びて見えますから下比長ですが、下比長の時期になったからといって、改造四WDトラックのような極端なデザインが毎回出現するわけではありません。普通はクルマの下比長も冷蔵庫と同じように数センチの変化です。こういう極端なデザインが出現するには、やはりできるタイミングというのがあって、それは〔上比長・下比長〕とは別な循環要因が決めています。 機能は、売れるデザインを決めませんが、もっとたくさん売れるように、もっと長く売れるようにします。つまり、もっと儲かるようにします。 |
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あなたにデザインの決定権があるなら、機能を重視したデザインにするのは当然です。ただ、「へぼデザイン、流行より機能をかわいがり」にはしないでください。 乗用車は、外観だけでなく内装にも〔上比長・下比長〕の循環があります。どちらの循環要因が活性期にあるかでデザインを決めるべきなのは、外側の場合と同じです。ただ、外観と内装がケンカしていて、どちらかが犠牲にならなければならない時は外観を優先させてください。我々は、自分が認めているよりも見栄っ張りです。 (続く) 07/09/04転載 このページ(節)の最上段へ 「理詰めのトレンド予測 ウエブ版」1段目へ トップページへ |
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目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある 1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 第2章 「曲」と「直」で流行が変る 2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6 第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる 3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7 第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む 4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる 5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5 第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは 「束縛」と「自由」 6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由) 7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4 |
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