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   第3章 デザインの流行は[上比長][下比長]に分かれる
     5 流行遅れも、使う者のセンスで先端商品になる
       服は形が変るので、上比長にも下比長にもなります。
ファッションはストリートで始まり、ストリートで終わる。
  次は、体の上側にくるパーツです。
  スカーフは、大きく広げたままの形で使う人はまずいませんから、どうたたむか、どこに付けるかで答えが違ってきます。
  たたんで細い紐のようにしたものや、プチサイズを首に巻けば下比長の表現になります。プチスカーフは身に付けている人の上部を縮めてみせますからね。でも、二つ折りにしても上半身をおおってしまうほどの大判スカーフは、我々がスカーフに持っている常識に比べて大きいわけですから、それを使うと体の上部を延ばしたことになります。それで、上比長のときにヒッ
トする商品になります。38、39ページの年表に出てくる、1980年、1983年、1990年、1992年、2000年のビッグストールや、1986年、1992年、1998年の大判スカーフがそれです。
  スカーフを腰に巻いた場合も、ウエストの位置を下げるので上比長です。
  以下の記事は1985年の冬から87年夏までの上比長の話です。
 「
スカーフの出足が好調だ。ファッションの傾向がエレガンスになるとともに、アクセントとしてのスカーフが注目されるようになったからだ。ここ二、三年スカーフの売れ行きは順調に上向いているが、今シーズンも各メーカーとも強気で前年比四〇−五〇%増を見込んでいる。巻き方の多様化で大判化が進み、従来より十a大きい八
十八aのものが標準となり、一b二十a、一b五十aのものも出ている。
            ◇
  スカーフは昭和五十年ごろにブームとなったあと約十年停滞していたが、2年ほど前から復活し始め、今年はファッションとして完全に定着した。首に巻いたり、肩にかけるだけではなく、腰回りに変化をつけるためスカーフが用いられるなど使い方が多様化してきた。大判化したのもこうした使い方の変化に対応したものといえる。
」(日経流通新聞1987年10月27日付より)
 
  あなたはこう言うかもしれません。「別紙の年表では、この時の上比長は春で終わっているはずなのに、この記事は秋の
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−トレンド予測 61段目−
話だ。年表が間違っている」と。
  いえ、間違っていません。「スカーフの出足」の話ですから、多くの消費者が前年の思い出で買っている時期です。以前にも言いましたね。この時期に数字になっているのは古い流行です。*1ここに出ている大判スカーフの本当のヒットは、1985年秋冬あるいは1986年秋冬です。これまで2年も続けて売れていて、1987年は3シーズン目だから、「各メーカーとも強気」なのです。 
  首から長く垂らしたロングマフラーや、長いネックレス、長いイヤリング、腰まで届きそうなロングヘヤー、先をダランと下げたベルト
*2、…こういうものも上比長の表現です。それを身につけている人の上部を引き伸ばして見せるからです。ウエアの話で出てきた長ソデも、上から垂らすタイプの上比長に入れていいかもしれません。
 
  次の記事は、ヤングが上比長で、アダルトが下比長になっている時期
カッコイイにも循環と時差がある
の話です。
 今、"はんぱ丈"を着こなすカジュアルファッションがヤングに受けているそうだ。ファッション誌やテレビでも取り上げられるなど話題となっている。そう言われてみれば、何となく目立ってきている。
 美脚パンツならぬジーンズなど裾を自分の好みに合わせてロールアップして着こなすものだ。素足を奇麗に、脚を長く見せたいなどの心理的影響か。丈はくるぶしからひざ下までの間らしいが、何も定義はない。決してかっこいいスタイルとは思えないのだが、かっこ悪いのをかっこいいファッションに着こなすのが今のヤングファッション考とみれば納得がいく。
 重ね着ルックもヤングの特権か、ジーンズの上にスカートを履いたり、シャツの上にTシャツを着るなど記者からみればこれは何だと思うものだが。インナーをアウターにアウターをインナーに着こなすなどカジュアルな
着こなしに、もはや制限やタブーはなくなっている。」(繊研新聞2004年5月21日付7面「コットンフィールド」より)
  ジーンズのスソを折り返す(ロールアップする)のも、その丈を中途半端にするのも、ジーンズの上にスカートをはくのも、Tシャツの下からシャツのスソを見せるのも、どれも上比長の表現*3です。
ホンモノのカジュアルファッションの場合、それまでの約束事を否定して出てくるので、中高年は、その流行をまだ受け入れられないタイミングであることもあって、「なんじゃあれは、かっこ悪い」と初めは拒絶します。そして、時間がたって目が慣れると「若い人はいいなぁ」と受けいれます。次の年の2005年には、ここまで過激ではなかったけれど、半端丈ファッションを着る中年が増えました。
  当時、「カジュアルな着こなしに、もはや制限やタブーはなくなって」しまったのは、「自由」という循環要因*4のせいです(第6章参照)。
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−トレンド予測 62段目−
 
  さてここで問題です。
【問題】次の文は、繊研新聞2006年3月27日付の記事からの抜粋です。この記事からわかることを述べなさい。
 「
06〜07年秋冬デザイナーコレクションで強くて賢い女性像をイメージしたヘアメークが広がった。ポイントは目と眉。眉は太くて濃く、目はアイラインでくっきり縁取る。ベースメークはシンプルだ。ほおにチークを少しのせ、唇にグロスを軽く重ねる。意思の強さと優しさを併せ持つフェミニティー。そんな今シーズンの雰囲気を印象付けている。(青木規子)」(14面「ヘアメークトレンド」より) 
 「
髪型も変わった。これまではストレートロングヘアばかりだったが、今シーズンは注目モデルの数人がばっさり髪を切った。ベリーショートやショートボブ、前髪を直線でそろえたボブヘア。今シーズンの古典的なスタイルやマニッシュスタイルのアクセントになっている。
  ロングヘアはまとめ髪がほとんど。
古代ローマの女神のようなまとめ髪やポンパドール風に髪の毛を膨らませる古典的な髪型が出てきた。」(同)
 
【答え】眉や目を濃く強調し、ほおや唇は薄くおとなしくするのだから、このメークは下比長である。ストレートロングヘアばかりだったのが、ベリーショートやショートボブが増え、残りもまとめ髪がほとんどになったのだから、髪型も下比長である。
  その変化が「06〜07年秋冬デザイナーコレクション」に現われたのだから、その1年前の2005年〜06年秋冬のストリートトップファッションが欧州では下比長であったと推定できる。
  2005年〜06年秋冬のストリートファッションは、日本でも下比長であったから、この循環要因に関しては、欧州と日本で時差があまりないと思われる。少なくとも逆ではない。もちろん、ほとんど同時というのは〔上比長・下比長〕の話であって、デザイン全体が同時という意味ではない。
儲かるのは数ではなくて魅力
  あなたが、金はないがオシャレがしたい若者なら、手持ちのワードロープの使い回しで「上比長」や「下比長」を表現しましょう。折り返したり、ずり下げたり、持ち上げたり、重ねたり、付けたり、取ったりなど、着こなしを工夫することで、「上比長」や「下比長」のどちらにもなります。この考え方は、小売店のディスプレーでも有効です。
 
  あなたがファッション誌や新聞の流行記事を読むとき、そこに書かれているヒットの時期を鵜呑みにするのは危険です。記事になっている流行は、たいてい結果として数が売れたという話ですから、魅力、つまり(価格×販売スピード)のピークは、それより1、2年前である場合が多いのです。

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−トレンド予測 63段目−
*1……古い流行です。
  シーズンの立ち上がりに古い流行が一時的に復活することを利用したのが「先行逃げ切り発注」。前年のヒット商品を早すぎるくらいの時期に売り、止まる前に売り切ってしまう。
 
*2……ダランと下げたベルト
  2001年に大流行した。
 
*3……上比長の表現
  このテクニックは小売店でも使える。
 
*4……「自由」という循環要因
  第6章参照

   
 
07/08/28転載
 
脚注10/04/08転載
 
 
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3 / 7-4
 
 
      市場予測コンサルタントの森田洋一
 
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