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     第4章 [同一視]と[対立視]を知って流行を読む
       7 SPA(製造小売り)企業の景気は予測できる
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  この「第4章7節 SPA(製造小売り)企業の景気は予測できる」は、理詰めのトレンド予測 商業版にはありません。原稿を印刷所へまわす10日ほど前に、私自身の判断で外したからです。
  本の総ページ数を減らしたかったこと、この節がファッション業界に特化しすぎていること、前回の同一視の(仮需の)流行で、この節に出てくるパクリSPAがすでにファッション業界に広がりすぎていたことが削除した理由です。
  でも、08年のH&Mや09年のフォーエバー21のヒットとその後、ファッション通販サイトの急成長とその後を、結果としてこの節が予測していましたので、理詰めのトレンド予測 ウエブ版では載せることにしました。
  ゲラから外した時点では題字の一部がまだ決まっていなかったため、そこは□□□になっています。 
 

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  ユニクロ(ファーストリテイリング)のような欧米型のSPA*は、ファッション性が弱い商品を、大量計画生産して、低価格で売り切っていくというビジネスをしています。
  それに対して、よそで売れているとわかったものを大急ぎでコピー生産し、安く店に並べるタイプのSPAを日本型SPAと呼ぶ場合があります。安く作る能力は欧米型より劣りますが、商品回転率を上げられるので、家賃の高い日本ではSPAの主流になりました。
  次の文は「トレンドセッター九九年三月号」に筆者が寄稿したものです。当時は、それまで破竹の勢いだった、ワールドの「オゾック」やイトキンの「MKミッシェルクラン」、フランドルの「インエ」「イネド」
などのブランドの失速がはっきりしてきた時期でした。 
 

 「日本型SPA(製造小売業)またはメーカー系SPAと呼ばれる企業群が、ヤング市場でここ数年破竹の勢いで勢力を伸ばしてきた。すでに店舗数は、旧勢力のヤングレディス専門店チェーンを凌駕している。
  それが去年の後半になって、さすがのメーカー系SPAにも息切れが見られるようになった。いままではSPA絶賛記事が多かったファッション業界紙も、このごろは批判的意見も載せるように変わってきている。
  バブル時代に大手ヤングレディスチェーンが手がけていた旧SPAと今のSPAは、やり方が根本的に違うという主張がいままでは通っていた。
  だが、旧SPAのやり方を冷静に振り返ってみると、今のSPAのやり方とそれほど違わない。違って見えたのは、メーカー系SPAの成功
――1c――――――第4章 [同一視]と[対立視]を知って流行を読む―――――――ファッション予測と流行予測、次へ

−トレンド予測 2c段目−
があまりにも鮮やかだったからである。同じようなことをしていても、勝ったか負けたかの結果が違っていたので評価も逆になっていたのだ。スポーツ新聞とプロ野球の監督の関係に似ている。
  旧SPAの失敗は、今では誰の目にも明らかである。大手専門店チェーンは、その後遺症に現在も苦しんでいる。
  だが、敗戦組SPAといえども初めから苦戦していたのではない。最近のSPAほどではないが、始めた当初はそれなりに利益を上げていた。だからこそ、バブル崩壊で破綻したとはいえ急激な出店攻勢に出ることができたのだ。
  当時のSPAのやり方はこうである。――まず、シーズン初めに多様な商品を少量ずつ店頭に並べる。この中には自分の所で企画した自社オリジナル商品もけっこうある。
  次に、その中から売れた商品を見つけ、前もってラインを空けておいた協力工場で素早く追加生産をする。他社の売れ筋も、気が付いた時点で次々と投入していく。それを可能にするために縫製工場や生地屋には極端に短い納期を要求する。当時は,QR(クイックレスポンス)と
 
いう言葉は一般化していなかったが、やっていたことは今のQRと同じである。
  そのシーズンのテーマだコンセプトだと言っているのはシーズン初めだけである。後からの投入商品は、今売れているかどうかで決めるため、店頭の商品バランスは急激に崩れる。
  DCブランドなどで以前見たことがある商品が買いやすい価格で出ている。コピー商品だから、売っている時期はオリジナルより当然遅いのだが、それなりに値段もこなれている。それで消費者は、あの欲しかったデザインが私にも買えると感激して買う。
  こういう保守的な消費者が多かったときは旧SPAは採算があっていた。ところが、消費者が商品に鮮度と個性を要求する、私が『対立視』と呼んでいる時期になると苦戦が始まった。
  今回のSPAブームは、前回とは出ている役者が違うし、時代も違う。旧SPAブームと全く同じ結果になるとまでは私も思わない。
  ただ、他人と同じものを欲しがり、デザインに妥協し、商品寿命が長い、コピー商品にとって有利な、私が『同一視』と呼んでいる時期に同じようなことをやっているのであるから、次の
 
 

 
――2c――――――第4章 [同一視]と[対立視]を知って流行を読む―――――――ファッション予測と流行予測、次へ  

−トレンド予測 3c段目−
『対立視』の時期になったときの結果もそれなりに似ているはずだと考えている
 
  バブル時代の後もこのときの後もそうだったのですが、「すぐにパクって安く出す」タイプのSPAが、対立視の時期になって業績が落ちた後、再び次の同一視が来た時に復活できるかというと、必ずそうなるとは限りません。特に前回大膨張したところは元の元気に戻れません。そうなるのは、仕組みそのものに原因があるようです。
 「パクって(コピーして)」いるわけですから、鮮度の高いものは無理で、止まる直前の商品ばかり店に並んでしまいます。賞味期限ギリギリですから、結果として売れたとしても店のステイタスは確実に落ちていきます。他のビジネスモデルでも賞味期限ギリギリ商品が多くなりがちですが、パクりビジネスではそれが極端になります。
  では、大膨張し過ぎて、同一視の時期に戻っても儲からない程にステイタスが落ちたパクりビジネスが、元気を取り戻すにはどうしたらよいのでしょうか。いままでの商品や客ではイメージダウンが起こるのですから、 商品分野や対象客を大きく変えればよろしい。現に「私は億万長者だ」と自慢してい
 
る、パクりビジネスの名人に、次々と新しい商品分野に挑戦することがノウハウだという人がいます。
  でもこれはかなりしんどいことなので、普通は、対象客や商品分野をそれほど大きくは変えられません。へたをすると、変えたのはブランドの名前だけなんてことになります。
  次の文は、日本型SPAの話の続きです。「インテリジェンス+1」誌八六(二〇〇二年七月)号に筆者が寄稿したものからの抜粋です。
 「このところレディズヤングアパレルで急激に売上を伸ばすところが増えている。
  好調組みが出はじめたのが'00年秋冬からである。それまでの停滞がうそであったかのようにV字回復するところが出てきた。01年春夏になって、好調組みが増え、すでに回復基調にあったところはさらに業績がアップした。そして、こうした元気印は今も成長を続けている。
  好調組みにはいくつかの共通点がある。すべての企業がそうだというわけではないが、好調組みの多くが以下の条件に合致している。
  まず直営店比率が高い。直営店100%のところも多い。そうでないアパレルも軸足は直営店にある。そして、店はたいてい集客力のある
 
ファッションビルなどにある。値段は、ヤングが買いやすい価格に抑えている。値ごろ感を大事にしているわけだ。
  次に、企画が店頭起点になっている。独自色が弱く、売れ筋指向が強い。自分達の思い入れやこだわりよりも店頭での消化率を優先させている。それで企画の修正が速い。また素早い修正ができるデザインを採用している。店頭が週単位で変化していく。
  そして、見つけた売れ筋への絞り込みと追加フォローが迅速で、量の追求が徹底している。追加生産の繰り返しで販売額を積み上げていく。
  企画の修正や追加フォローのQR(クイックレスポンス)対応を強めるため、PОS(販売時点管理)や在庫管理システムなどに多額の投資をしている。
  物流会社や縫製工場などの協力企業も、スピーディーな店頭投入に適応できるところに限定している。

  もうお気付きであろう。こういったやり方は、95年前後から98年春にかけて急成長し、今も一大勢力を維持している、I社、F社、M社、S
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−トレンド予測 4c段目−
社、W社などが、メインブランドで採用していた方法と同じである。 当時「日本型SPA」あるいは「メーカー系SPA」と呼ばれていた。ということは、かつてそう呼ばれていたビジネスモデルが現在復活しているわけである。
  日本型SPAの急成長が止まった90年代末に、そのアンチテーゼとして活躍していたセレクトショップも、このごろ商品が変わってきた。
  インポート物やデザイナー物の消化率が落ちたため、鮮度や個性では見劣りするが、値ごろ感があり粗利も取れる、売れ筋コピー型のオリジナルを増やしてきている。アンチSPAがアンチでなくなっている。
      ●           ●
  日本型SPAが活躍できる時期を「同一視」と私は呼んでいる。消費者が他人と同じ物を欲しがり、同じような物を繰り返し買う、デザインの個性や鮮度には固執しない時期が同一視である。同一視は一定の周期で繰り返している。
  同一視の時は、デザインの種類でみたときのヒット商品が減ってくる。その代わり、売れ筋の寿命が延び、大量に売れる。どこの店にもある、誰もが着ているということが、商品が止まる
 
理由にならないのだ。
  こういう時期は、差別化やクリエーションはビジネスになりにくいが、売れ筋追求商法にとっては春が来る。
  現在が同一視の時期であるからといって、前回の同一視の時期に活躍していた企業やブランドが必ずしも復活できるわけではない。前々回の同一視が来ていたバブル時代に、 日本型SPAとほとんど同じ手法で急拡大していたレディスヤング専門店チェーンをみてもそれは分かる。彼らは90年代中頃の同一視の時期に復活できなかった。今回も、『反省』と『改革』をやりすぎたところは、以前ほどには元気になれないだろう

 
〔同一視・対立視〕の循環は7年周期ですから、今は「対立視」に替わっています。こういう日本型SPAにとって不利なタイミングです。
 「▽『安いだけのカジュアルが売れなくなってきた』と、北海道のある販売代行。
▽同商圏でも昨夏までは価格重視でトレンドを追いかけるSPA(製造小売業)型で売れ筋のまねがうまい、速い、安い%Xが勢力を伸ばし
 
てきた。が、この秋冬で流れが変わったと見る。次に注目するのは『価格を抑えつつ、品質や個性を大事にするブランドの浮上』。」(繊研新聞05年1月27日13面「窓」より)
  この「価格重視でトレンドを追いかけるSPA(製造小売業)型で売れ筋のまねがうまい、速い、安い%X」の景気は同一視と相関が強いですから、現在の対立視が同一視にもどればまた復活してきます。彼らが不振から脱し、そのことが、売り上げ対前年比などの数字で確かめられるのは07年秋冬前後になるでしょう。
  次の例は、今回の対立視でとくに落ち込んだ「ショッピングセンター向けファミリーブランド」の話です。ただ、特定要因の影響も強いので、業績は、前の「パクりSPA」ほど単純なサイクルではありません。記事中にあるSCとはショッピングセンターのことです。
 「郊外SCのファッション関連テナントの中核を担ってきた大型ファミリーブランドが、大きな岐路に立たされている。
 『お客の志向が変化したことに加え、競合相手が急増した』(須賀イトキン取締役)のが背景だ。かつては、それなりのファッション性を持た
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−トレンド予測 5c段目−
せながらも、『百貨店ブランドに比べて買いやす い日常着的な安心服』で十分通用した。競争相手も同じ大手アパレルやSPA(製造小売業) だけを見ていればよかった。しかし、ここ数年で郊外SCに来店する客の感度が上がり、『都市と郊外で売れる商品が変わらなくなってきた』(ファイブフォックスの石川賢雄イズムグループ執行役員部長)。ショップ環境や接客についても、『お客が求める水準はますます高くなっている』(ワールド)。」(繊研新聞05年8月18日付1面より)
  ショッピングセンター向けファミリーブランドに異変が起きたのは04年です。既存店が前年実績をクリアできなくなってきました。カッコいいブランド名にカッコいい店で、売っている商品はベーシックで量販っぽいというビジネスモデルがうまくいかなくなりました。
  ショッピングセンターと大型ファミリーブランドのオーバーストアは特定要因なので以前に戻りません。けれど、今の対立視が終わって次に同一視が復活すればお客の感度は元にもどりますから、反省と改革をやりすぎていない店からそれなりに回復してくるでしょう。
 
  同一視が続いた後はアパレル企業で毎回、企画機能の縮小廃止ブームが起きます。鮮度や個性が利益に結びつきにくい時期なので、「企画開発に使う金があったら、営業部門の充実や、ファッション雑誌とのタイアップ、ブランドのライセンス取得、コンピューターの更新などに使った方が儲かる」という発想になります。
  その次に対立視になって、鮮度や個性が利益を生むようになった時、企画開発の能力が落ちてしまった企業は大苦戦をします。企画開発機能は、壊すのは簡単ですが再構築するのは大変です。うまく再生できなければそのアパレル企業は衰退します。なんとか再生できても、そのころには次の同一視の時期になります。これで振り出しにもどります。 
  ファッション業界で「企画開発」あるいは単に「企画」と言っているものを、ハイテク分野では「研究開発」と言います。同一視が続いた後は、研究開発機能の縮小合理化ブームが起きます。あるいは、他社の製品をコピーするための研究開発になります。
  同一視の時期は、製品の絶対的な性能や独自性が利益に結びつきにくいので、「研究所の
 
バカセに金を使うくらいなら、営業部門の充実や、設備投資に使った方が儲かる」という発想になります。同一視の時期は、同じ物が長期間大量に売れているので、人海戦術でやっていたことを機械化し、小型汎用機械を使ってやっていたことを大型専用機械に任せ自動化すると、もっと儲かります。
  次に、対立視が復活して、物作りが短サイクルで少量になると、人海戦術や、小型汎用機械の優位性が復活します。研究開発も利益を生むようになります。
  研究開発の場合は、充実させてから成果が得られるまでに時間もお金もかかるので、縮小拡大の循環といっても、ファッション業界ほど単純ではありませんが、〔同一視・対立視〕の循環の影響を強く受けている点は一緒です。
 
  あなたがハイテク企業の経営者なら、数年の好調不調で、研究開発機能の拡大縮小を決めてはいけません。成績が変動した原因が循環要因にあるのなら、良くても悪くてもしばらくすると元にもどります。
 
  対立視型企業が同一視型になるのは
――5c――――――第4章 [同一視]と[対立視]を知って流行を読む―――――――ファッション予測と流行予測、次へ

−トレンド予測 6c段目−
比較的簡単ですが、同一視型企業が対立視型になるのは大変です。それで、〔同一視・対立視〕の循環に何回も振り回されているうちに、長期的には企業は同一視型に寄っていきます。そのため、いつの時代も、対立視型ビジネスの方が供給過小になります。
  あなたが新規参入をするとき、対立視型ビジネスから始めた方が、勝率で考えても、寿命で考えても有利です。

 
 
* SPA
 Speciality store retailer of Private lavel Apparelの略。製造から小売までを一貫して行うアパレル業のことを指す。四-四節参照。
  
09/11/09転載
16/06/14最終更新 
 
 
【関連ページ】
フォーエバー21 開店1カ月  
 
ギャル系ファッション通販で成長
 
中国生産へ回帰
 
目次 0 /
第1章 流行の原因には「特定要因」と「循環要因」の2つがある
1-1 / 1-2 / 1-3 / 1-4 /
第2章 「曲」と「直」で流行が変る
2-1 / 2-2 / 2-3 / 2-4 / 2-5 / 2-6
第3章 デザインの流行は「上比長」「下比長」に分かれる
3-1 / 3-2 / 3-3 / 3-4 / 3-5 / 3-6 / 3-7
第4章 「同一視」と「対立視」を知って流行を読む
4-1 / 4-2 / 4-3 / 4-4 / 4-5 / 4-6 / 4-7c
第5章 「アリ型人間」と「キリギリス型人間」は交互に現れる
5-1 / 5-2 / 5-3 / 5-4 / 5-5
第6章 「エレガンス」と「カジュアル」もしくは「束縛」と「自由」
6-1 / 6-2 / 6-3 / 6-4 / 6-5 / 6-6 / 6-7 / 6-8
第7章なぜ、まったく同じ流行が起きないのか(3つの理由)
7-1 / 7-2 / 7-3


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